靴でわかってしまうほど

軒下

第1話

「傷つけたかったわけじゃない。ただ口から出た言葉が、たまたま君の心に刺さってしまっただけ。」そんなのは、言い訳にはならない。

信じていたのに。君だけは私をわかってくれていると、漠然と思っていたのに。

そんな私の想いと比例しているかのように、大粒の雨が窓を打ち付ける。雨脚は強まる一方だ。

別に彼の言いたかったことがわからなかったわけじゃない。苦笑いでも、その言葉をやり過ごすことはできたはずだったのに、なぜあそこで逃げ出してしまったのだろう。

ふと誰かの足音が聞こえ、日誌を書いていた手を止めて顔を伏せた。今誰かと話す元気はない。

その人は教室に入り、私の横の席に腰を下ろした。薄く目を開け、確認する。靴でわかった。彼だ。

彼は、雨音に掻き消されそうな小さな声で私を呼び、恐らく寝ているのを確信したんだろう。ぽつぽつと、私が逃げてしまった原因についての謝罪を述べだした。

違う、あなたは悪くない、私のせいだ、ごめん、本当にごめん。たくさんの言葉が胸に溢れて、でもそれを口に出す勇気はなくて。

嗚咽で震えだした肩に気が付いた彼は、そそくさと出ていってしまった。

何か言いたかったけれど、言葉が上手く出なかった。

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靴でわかってしまうほど 軒下 @NIKONISHIKI

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