彼は車庫に留置されている車輛に戻っていた。気がつけば午前五時をわずかに過ぎている。

 「おはよ」誰かの声。その声には、聞き覚えがあった。

 「ああ、おはよう」彼はまだ眠い。「あれ? どうして、ここにいる? だってお前は……」

 「あ、気づいた?」彼女は微笑んだ。「久し振りだね。ちゃんと来てくれたんだ……」

 自分は、また夢を見ているのか?

 「バイバイ」彼女は手を振って、車輛を降りて行った。

 彼は急いで立ち上がって、彼女の後を追った。再び列車の外に出る。僅かに積もった雪だけがそこにあった。人影は見当たらない。それに、駅にはやっぱり、車輛なんて停まっていない。

 幻か……。昨日のも、やっぱり、幻だろう。でも、夢では無くて欲しい。それが、今の自分のほのかな希望だった。

 星がまだ輝いていた。また蒼い星が最初に目にとまる。

 「あっ」彼は思わず叫ぶ。

 流れ星だった。幾つか連続で流れた。

 彼は微笑む。だけど、涙が頬を伝う。

 「生きているよ……」そっと呟く。

 あれは、自分だったのだろう。だから、一人多かった。

 深呼吸をして、ゆっくりと白い息を出す。少し興奮していた自分を落ち着かせる。

 大丈夫。

 この自分はここにいる。

 そう、生きている。

 列車のシートに出した荷物を整理した。それを背負い、列車から出る。

 あいつらのお墓に行くべきかもしれない。彼はそう思って、廃墟を化した駅舎の前に立つ。そして、記憶だけを頼りに、歩き出した。

 途中で道を迷った。でも、そのお蔭で懐かしい家を見つけることができた。廃墟とでも言うべきさびれた姿になっていたが、それは僅かに彼を少し嬉しくさせた。そして、悲しく、虚しくさせた。ただ、それが誰の家なのかは思い出せなかった。迷った時間も含めて十分も歩けば、霊園についた。本当は杓子で水を掛けてやりたかったが、そんなものはここにはない。だから、自分の持っていたハンカチで友人たちのお墓を軽く拭いてやり、そして、手を合わせた。ハンカチで拭いたときに墓石も風化してきているのが何となくわかった。

 腕時計を見る。夕方のバスで帰ろう。次のバスがその時刻にしかない。

 彼は小さな霊園を後にする。

 いくつかのトンネルをまた何回もくぐった。

 バス停のある村で人々に変な目で見られたけれど、気にしない。どうせ、あの村に行った理由なんて誰にもわかってくれないのだから。それに分かってもらいたくもなかった。

 そして、また、彼女らの夢を見ることが出来るだろうか。もし、もう一度だけでも会う事が出来るなら、その時はゆっくりと話がしてみたいと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢幻鉄路 - Between the reality and the dream 雪夜彗星 @sncomet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ