終点の駅前にあった商店街に僕らは遊びに行っていた。雪が積もった冬の日だった。

 帰りの汽車は小さな列車で上半分が茶色で下半分が水色の車輛だった。正直、藍色の新型車が良かった。でも、これに乗らないと門限に間に合わないから仕方無く、乗りこんだ。

 「今度はいつ来る?」

 「また日曜日に行こう」

 「俺、金無い」

 「じゃあ、一ヶ月後にする?」

 「予定がなかったら」

 列車が発車した。分岐点を過ぎ、汽車は単線を走っていく。窓からは山のふもとまで続く田畑と、所々にある建物が見えた。

 運転席のすぐ後ろあたりで僕らは集まっていた。

 友達の一人が町で買った本を読んでいた。何の本か気になったけれど、カバーをしてあったから分からなかった。

 幾つかのトンネルを越えた。次の駅はもうすぐ……、のはずだった。

 目の前にヘッドライトの光。そして、鳴り響いた汽笛。

 「うわっ!」その瞬間の叫び声。

 僕らは後ろに走った。でも、すでに遅かった。それは、無駄な行動だったかもしれないけれど、その時の防衛本能だったと思う。

 急に体が後ろに引っ張られ。

 飛んだような感じ。

 そして、何かにぶつかった。

 何に、ぶつかったのか。

 何が起きた分からなかった。

 僕の指は動いていた。その時の他の奴のことは覚えていない。

 覚えているのは、トンネルの壁に赤いペンキが散りばめられていたことだけ。どうして、あんなところに、赤いペンキがあるのか分からなかった。その時のことは、これ以上は思い出せない。もちろん、あとから赤いペンキが、ペンキではないことに気がついた。

 誰かが、必死に声をかけてくれたのを覚えている。

 それがその場所で最後の記憶だった。


 次の記憶は病院のベッドだった。あまり好きじゃない白い空間。

 僕は幸い、生きていた。

 一応、順調に回復した。お見舞いに学校の先生が来た。友達も来た。そこで先生や友達は泣いていた。僕はまだほとんど何も知らされていなかったから、どうして泣いているのかわからなかった。僕はこうして順調に回復しているのに。でも、無事に退院して、学校に行った時にそれがわかった。

 僕だけだったのだ。その時、泣いた。初めて、死を知ったと思う。幼稚園児の時に、友達がトラックに轢かれた事故があったけれど、あの時は、こんな気持ちにはならなかった。少し大人になって、「悲しい」が分かるようになったのかもしれない。


 その時、人間はマリオネットみたいに、手足とかから糸が出ていて、引っ張られているから生きていると思った。何かの拍子にその糸が外れた時が、死、だろうと考えた。

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