三
雪が降っていた。あの日と同じ。
空を見る。雲が増えているが、何故かさっきの蒼い星は見えていた。
ガソリンの臭い。
闇を裂く光。
なぜだろう。
ここはずっと前に廃線になったはず。
どうして、灯りの点いている列車がホームに留置されているのか。
あの時は、「列車」ではなく、「汽車」と呼んでいたけれど……。いつから列車と呼ぶようになったのだろうか?
そんなことはどうでもいいと、彼は首を横に振った。
ポケットに入れていたカメラで写真を撮った。
彼は近づく。
茶色と薄い青のツートン。
記憶とのオーバーラップ。
懐かしい気がした。
ドアが開く。光の粒が周りに広がった。
彼は構える。
一人の少女がそこに。
どうして、ここにいる?
どうして、何も言わない?
ポケットに右手を突っ込む。その手が何かを探していた。でも、ハンカチ以外に何も見つからない。
「久し振り」少女は微笑んだ。「覚えている?」
彼は微動せず、身を構えたまま、わずかに頷いた。
少女の後ろにはもう何人かいた。
人数を数える。
間違いなかった。
まさか……!
記憶が縺れる。
あれが……!
均等が崩れる。
欠落していた記憶が埋まった気がした。
ドアが閉まる。
彼は走って取っ手を掴む。
列車は動き出す。
「どうして、ここにいる?」でも、それは口の形が動いただけで声にならなかった。
でも、その形で分かって欲しかった。
でも、誰も答えない。
微笑んだだけ。
列車はトンネルに入る。
彼は唾を飲んだ。
同じだ……。
赤い飾りが壁にあった。まだ残っていた。でも、幻覚であってほしかった。
飛び降りる。
次の数秒が読めた気がした。
そして、トンネルの壁にへばりついた。
さっきの列車とは反対の方向から藍色の列車がやってくる。さっき、車庫にあったはずの……。
通り過ぎた。そして、彼が線路跡の真ん中に立ち、振り返った時にはすでにいなかった。
茶色の列車も。
藍色の列車も。
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