雪が降っていた。あの日と同じ。

 空を見る。雲が増えているが、何故かさっきの蒼い星は見えていた。

 ガソリンの臭い。

 闇を裂く光。

 なぜだろう。

 ここはずっと前に廃線になったはず。

 どうして、灯りの点いている列車がホームに留置されているのか。

 あの時は、「列車」ではなく、「汽車」と呼んでいたけれど……。いつから列車と呼ぶようになったのだろうか?

 そんなことはどうでもいいと、彼は首を横に振った。

 ポケットに入れていたカメラで写真を撮った。

 彼は近づく。

 茶色と薄い青のツートン。

 記憶とのオーバーラップ。

 懐かしい気がした。

 ドアが開く。光の粒が周りに広がった。

 彼は構える。

 一人の少女がそこに。

 どうして、ここにいる?

 どうして、何も言わない?

 ポケットに右手を突っ込む。その手が何かを探していた。でも、ハンカチ以外に何も見つからない。

 「久し振り」少女は微笑んだ。「覚えている?」

 彼は微動せず、身を構えたまま、わずかに頷いた。

 少女の後ろにはもう何人かいた。

 人数を数える。

 間違いなかった。

 まさか……!

 記憶が縺れる。

 あれが……!

 均等が崩れる。

 欠落していた記憶が埋まった気がした。

 ドアが閉まる。

 彼は走って取っ手を掴む。

 列車は動き出す。

 「どうして、ここにいる?」でも、それは口の形が動いただけで声にならなかった。

 でも、その形で分かって欲しかった。

 でも、誰も答えない。

 微笑んだだけ。

 列車はトンネルに入る。

 彼は唾を飲んだ。

 同じだ……。

 赤い飾りが壁にあった。まだ残っていた。でも、幻覚であってほしかった。

 飛び降りる。

 次の数秒が読めた気がした。

 そして、トンネルの壁にへばりついた。

 さっきの列車とは反対の方向から藍色の列車がやってくる。さっき、車庫にあったはずの……。

 通り過ぎた。そして、彼が線路跡の真ん中に立ち、振り返った時にはすでにいなかった。

 茶色の列車も。

 藍色の列車も。

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