お話は仕事だけど義務じゃない
キーチャリチャリチャリ。
今日はどれくらいペダルを漕いだかな。
どれくらい進んだかな。
どれくらい…………。
…………。
んんんんん〜。
「ねぇ、ユウカちゃんって
「え? 歌ですか?」
わたしは後ろにユウカちゃんを乗せて、自転車を動かしています。
ニャーニャー鳴くのはウミネコさんで、ついつられてわたしも鳴いちゃいます。
なんて、丁寧語だと急に上品お淑やかな女性っぽくなっちゃう。
「それにしても街って陸から行くのかと思ってました……」
「んや。陸から行くよー」
最初は自転車で海を行くこのスタイルに戸惑っていたユウカちゃんだけど、少ししたら海の景色を楽しそうに眺めていた。
「さぁ、海を抜けるよー」
ざーざーと波の音が潮風に運ばれて聞こえてくる。もうすぐ浜だ。
「え? ここって」
そこはユウカちゃんも見覚えのあるであろう『海辺』だった。
「よいっしょ。よーし、ここからは歩いて行くよ」
人一人が住むのにちょうどいい家の横に自転車を停めると、わたしはのんびり一歩を重ね始める。
ユウカちゃんは何か深刻そうな顔をしていたけど、やがてパっと顔を輝かせてわたしに言った。
「あのルートでしか行けない特殊な街なんですか⁉︎」
わたしは「あはは」と笑うと、振り返って海を眺めた。
「街はここから一五分くらいで着くよー」
「え? じゃあなんで……」
「海が綺麗だったから……かな」
海に交わって海に染まろう。たまに海に溶けて、そのままどこかに流れていっちゃいそうになるけど。
「街には何をしに行くんですか?」
街へと続く一本道を歩きながら、わたしはユウカちゃんの質問に答えた。
「仕事だよ。お話しにいくの」
街の賑やかな空気を肌で感じる。何回行ってもこのワクワク感は消えないなぁ。
「わたしの仕事はみんなにお話を聴いてもらうこと。『
「ハナシ?」
「うん、ユウカちゃんも一緒に聴いてよ。わたしの話」
前方に数人の人影が見えた。みんな、私たちの方に気づくと笑顔で手を振ってくれた。
周りには民家が数軒がある。うん、良い風が吹いてる。のんびり静かで、心が澄んでる。
「ここが『街』ですか?」
わたしは腹を抱えて大声で笑った。
そう言えば、そうしたように思うでしょ? だってこの物語はわたしが語り部だもん。当たり前だよね。
でも、実際は穏やかに、まるでこの場所に流れる優しい空気のようにすっきり答えたんだ。
「ううん。ここは街じゃないよ」
わたしはみんなからお話をお願いされると胸を張って胸を叩いた。
「じゃあ、今日はすんごい魔法使いの話をしようかな」
聴き終わったときのユウカちゃんの顔が楽しみだなぁ。
そうして、わたしは『お話』を始めた。
海辺 大石 陽太 @oishiama
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