第44話 もうひとつのエピローグ


「ご主人様、今回は上手くいきましたね」

 きつね色のもふもふの尻尾がパタパタと動いていた。

 此処は古い洋館だった。

 大きな窓から大きな月が見える。

「ああ、お前にしては上出来だった」

 女は黒いドレスを着て安楽椅子に座りながら呟いた。

「お褒め頂きありがとうございます」

「ああ」

「あと報告すべき事があります。あの小娘は勝手に宝くじなど買っておりましたので、すり替えておきました」

「なるほど、手際の良いことだ」

「お褒め頂きまして嬉しく思います」

「それで、そのクジは君が唆したのかね?」

「いえ、わたしは小娘が勝手に買っていたモノでして。それに石の力を使っていますから、この手で回収しております」

「なるほど良くわかった」

「はい。勝手な行動などは露ひとつ許すべきではありませんから」

 そう女は声高々に胸をそらせて誇らしげに語る。

「そうではない。その手にある確率が、今回の結果に帰結したんだ」

「それはどういう事でしょう?」

「お前が、得意げに掲げている、その紙切れが、石の力をあと少しの所で、砕く結果となったのだ――つまり君は失敗したのだよ」

「こ、このわたくしめが失敗を……」

「ああ、本来なら、それを手にしたときに破り捨てるべきだったんだ。そうすれば、もう少しは面白いことになっていただろうに。それが残念だ」

「それは一体どういう事なのですか?」

「――つまり無限が有限に成り下がったのだ」

 女はそういうと開いていた本をパチンと閉じた。

「ご、ご主人。まってく・・・・・」

 すると、メイドは最期まで声に成らず消え失せた。

 そして床には狐の置物だけが残された。

 女は立ち上がると、姿見を見つめて髪の毛をかき上げた。

 すると長かった髪は短くなり、体付きも変化した。

 いつの間にか黒いドレスは消え失せ、男はモーニングに身を包んでいる。

 指先には消えたはずのスターサファイヤの光が見えた。

 歩きだす頃には、もう別の顔をしていた。

 姿見から姿が消えると、もう部屋の中には誰も居なかった。

「藤倉一弥か……」

 そう声だけが闇に残された。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼祓い外伝 藤倉彩加の純情 鷹野友紀 @takanoyuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ