第11話 月明かりの夜にて
月明かりに照らされた草原の世界を、一台の車両が走っている。
夜風に晒された草木が、独特の音楽を放つ世界。夜にしか見えない、草木達の空間たち。
草原の世界を走る車両に乗る娘は記憶辿りの魔法使いは外の光景を眺めていた。
全てを終え、行く宛ても知らぬまま先へと進む車両の中で、彼女は耳にする。
うぅ。――といううめき声。その声にアンジェラは顔を上げ、そのうめき声を上げた男の顔を覗き込んだ。すると、ゆっくりと開かれた瞳と視線が合った。
「目が覚めたんだね、キース」
意識を取り戻した姉の恋人の様子に、アンジェラは安堵の息をした。
すると、アンジェラの頭に何かが乗っかった。アンジェラは頭に乗っけられた『それ』を見て、目を丸くした。だけどすぐに彼女はそれを。キースの手を跳ね除ける。
「なに。急に慣れ慣れしいんだけど」
「いや。ようやく約束を果たせたと思って」
「だからって急に子供扱いしないでよ」
「君は子供だろう。私とは一回りの差のはずだ」
「あっ。妹って認めたわけでもないからね。お姉ちゃんの恋人だってのはともかく」
「いいや。俺ッチは認めないッスよ」
口論をしていると、運転席に座る謎の男が口を挟んできた。
彼の言葉にアンジェラは怒りの足を放つ。
「うるさい。だいたいあんた何者」
「ちょっと。席を蹴らないでほしいッス! 安全運転ができなくなるでしょ!」
前の座席から、悲痛の叫びが上がった。
アンジェラは蹴りを止めると、静かな吐息をした。
「ねえ、キース」
「なんだ?」
「その……ありがとう。外に出してくれて」
アンジェラは人差し指で頬を掻きながら、静かにそう述べた。
「よくわかんないけどさ、これだけはわかるんだ。月って、こんなにも綺麗だったんだね」
「それが自由なんだ、アンジェラ」
「そうかな。私はそうだとは思わないよ。だってお月様を見るだけが自由って答えだなんて。狭いにもほどがあるよ。それに、お姉ちゃんが私に与えてくれたものなんだよ? きっと、いろんな答えがあると思うんだ」
アンジェラはまだ知って間もない『自由』について、己の中の答えを発した。
そこに、囚われの娘の姿も。自由を知らない魔法使いの姿もなかった。
あるのは――自由を知るための旅に出た。アンジェラ・レストという娘。
「そうか。それならゆっくり探すといい。時間はいくらでもあるさ」
アンジェラの言葉に、キースがそう笑った。
そうして、アンジェラ・レストの旅路が始まった。
記憶辿りの魔法使い 神崎裕一 @kanzaki85
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