ロリ神のせいで一日一回空中に浮かぶワードを言わないと死ぬ呪いに掛かっているんですがそれは。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

ロリ神のせいで一日一回空中に浮かぶワードを言わないと死ぬ呪いに掛かっているんですがそれは。





「はぁ………どうしてこうなったんだろ」



 とある高校の昼休み、僕は教室の自分の机にうつ伏せになりながら小声で呟いた。周りはクラスメイトは菓子パンや弁当をつついているが、聞こえてくるのは最近暑いだのドラマがどうのこうの、漫画のストーリーやそのキャラの魅力はどこが良いのか、気に入っている俳優が歌手活動を始めた、とかそんな話だ。正直友人同士で気兼ねなく自分の趣味や何が好きなのかなど、内容はどうあれ自分が思っている事を口に出して日々を過ごすのはとっても日常的で健康なことだろうと思う。

 でも、でもね―――、



(なんで僕だけこんな呪いにかかっているんだ………!)

 

 


 説明しよう。僕にはとある呪いにかかっている。いや、勝手にそう呼んでいるだけだけども日常生活に必ずという程に支障をきたしているのでこれは確実に『呪い』と表現しても良いだろう。



◇◆◇






 これは忘れもしない中学三年生の夏、丁度自宅近くの大きな神社でお祭りが開催されている真っ只中の出来事だった。これが地元では結構有名な祭りで『言の葉まつり』なんて名称が付くほど古くから続いている。特に地元の人なんかは参加しない人はまずいないといわれており、どうやら他の都道府県からも多くの人が訪れるほどの知名度らしい。要するにめっちゃ有名。すーぱーうるとらはいぱーでらっくす有名。






 ………いやごめん言い過ぎた。でもたかが一神社を中心としたお祭りが何でそんなに有名なのかまずみんな分かる? 土地柄とか地域性とか関係なしにね? ―――うん、まぁわからないよね。



 どうやら『強く念を込めた言葉を神に捧げるとそのことに関する願いが叶う』んだって。



 他にも『人の身に余るある能力が手に入る』って聞いたときには半信半疑だったなぁ。興味もなかったけれど。まぁ神に捧げるっていうのはそのままの意味、つまりは神社に参拝してお祈りするっていう事。これだけ聞くと簡単に聞こえるよね? でもこれがそうでもないんだ。それだけで願いが叶う程人生はイージーモードでもないしそこら中に飴が散らばっている訳でもない。



 これは僕が『呪い』にかかった後、実家とは別に住んでいる大好きな祖母から聞いた話なんだけど、「あの神社に住むコトハ様は随分と礼儀には厳しくてのぉ。参拝の最初から最後までの手順、一礼の腰の角度、何より強い思いのこもった言葉のすべてが正しく揃わないとあの言い伝えは実現なんてせんよ。ふぉっふぉっふぉ」って言ってたんだ。

 古い言い伝えっていう事もあって嘘か真かは定かではないんだけれども、たとえ可能性が低くても様々な人が願いを叶えようとこの神社に寄って来るわけ。



 まぁ参拝して実際に願いが叶った人がいるかどうかは分からないんだけれどもね。



 話を戻すよ。僕の場合は幼馴染と中学の友達と夜に祭りに参加していたんだ。作法というか、鳥居の前で一礼とか手水舎で手と口を清めるというのはしてなくて(友達と一緒だったから気恥ずかしかったというのもある)、単純に拝殿の前で彼女らと一緒に二礼二拍手一礼をしただけだったんだけど不思議な事が起こったんだよ。



 ででーん! なんと、僕の周りの時だけが止まったんだ。




 不思議な感覚だったなー。もう周囲を見渡すと無音。あらゆるものが動いていないからさ、ふと横を見てみると腰を45度に曲げている幼馴染&友達もその通りだったの。でね、時が止まった驚きよりもある姿勢に目がいっちゃってさぁ。



 そう、お尻を突き出している状態なの! もう一度言うよ。お尻を! 突き出している!! 状態なの!!! 幼馴染&友達には恵まれた方で顔面偏差値や性格も良くってさぁ………あ、僕? 普通のモブ顔というかそこらへんにでもよくいる顔なんじゃない(適当)? 二人とも女子だから『あれ、これもしかしたら胸を揉んだりパンツ履いてるか確認出来るんじゃん?』とか不覚にも邪念を抱いちゃったんだよねー。


 とまぁ、そんなことを考えている間になんか話し声があったんだけどまさか僕に向かって話しているとは思わなくてそのままスルーしてたわけですよ。こんな尻フェチな僕にとって見事眼福な状況を見事作り上げてくれた存在には感謝感激してたけど。そしたらね、

 


『………罰じゃ』

『え?』

『せっかくわれが目覚めて何十年振りに話しかけたのにことごとく無視しおってー! お主には祟りよりも面倒なものを与えてやるわー! 泣いて喜べぇー…ぐすっ………うわぁぁぁぁぁぁん!!!』

 


 僕に泣けって言ってるっているのに自分が泣いちゃった謎の存在Xのきんきんなロリヴォイスが辺りに響き渡ると白い光がぶわーっと押し寄せてきたの。大きい波が押し寄せて来るときの音に近かったね。

 そしたら次の瞬間、停止していた周りの時はいつも通りに過ぎていた。

 ………イヤ戸惑うよね!? いきなり時が止まって変な声が聞こえて光が押し寄せるとかなんか反応に困るよね? ビフォーアフターが仕事してないって感じかな。そしたらね、



 "カランカランッカランカランッカランッ!"



 って幼馴染と友達の二人で鳥居の近くまで歩きながら思ってたらさ、耳に直接鈴を鳴らしたようなけたたましい音が響いたんだ。












『おパンツぺろぺろクンカクンカしたいZE☆』



発言者:神薙かんなぎ 眞寿まこと

対象者:幼馴染、友達


《必須条件》

・誤魔化す事無く正しく言葉にする事

・ポーズを決める事 (自動)


※達成出来ない場合、壮絶な痛みの果てに死を迎える











 顔を上に向けたら空中に文字が浮かび上がっていたんだ。不思議だよね、ゲームとかラノベでいう『ステータス画面』みたいな感じ。彼女らには見えていなかったんだろうねぇー、二人から「どうしたのまこっち?」「神薙かんなぎさん、体調でも悪いのですか?」とか話しかけられるけど状況把握でいっぱいいっぱいだった僕は無視した。無視なんて失礼なことを人生で一回もしたことが無いのに、してしまった。


 ―――冷や汗が止まらないから。悪寒が止まらないから。お腹が痛いから。気持ち悪いから。吐き気がするから。喉が渇くから。呼吸がしにくいから。


 きっと周りから見たら僕は普通の状態にもかかわらず口を押えながら地面の一点を見つめるヤバい奴に見えていただろう。

 『なんで?』っていう疑問が一瞬脳裏を過ぎったけど、絶対アレ・・が原因だっていうことが分かる。ほら、空中に浮かぶ文字。そう自覚した瞬間、理解した。

 ま、その後抵抗虚しく僕は変なポーズをとってどうしようも出来なくてあの言葉を言い放ったら、体調の不調が回復した代わりに軽蔑した目で見られて二人からは友人としては見限られました。畜生め☆




◇◆◇


 回想タイムしゅーりょー。



 いやぁショックもショック。その日から毎日あーんな事やそーんな事な言葉を1日1回は言わないといけなくなるっていう『呪い』に掛かっちゃったんだよ。場所も時間も対象者も関係なくね。お陰でその後の中学時代は大惨事だったなぁ(遠い目)。




 『呪い』の条件で橋の下の薄汚いコンクリートの壁を情熱的に撫でながら愛の言葉を5つ囁くっていうわけわかめな事してたらホームレスのおっちゃんから哀れむ視線を向けられたことは絶対に忘れない。


 つい気まずくて互いに会釈しちゃったよ(てへぺろ)。



 ちなみに改善策は全く無し。色々方法は試したけど時間の無駄だった。『呪い』の影響で、お祓い中にブレイクダンスしながら『マッコリ☆モッコリ』っていうリズムを口ずさみながらノったのはとっても新鮮でした(マジ卍)。

 『変態ですーっ!!』ってちっちゃい巫女さんに山盛りに塩が入った桶ごと僕にぶん投げられたのは良い思い出です。





 ………って、このままじゃ顔を伏せながらどこの誰とも知らない誰か(?)に自分語りをしている痛い奴じゃないか。

 ったぁー、イテェー!! まるで看護師が『もう一回トライしますねー』とか言っておいて何度も採血に失敗したあの痛みぐらい痛いぜぇー!!




 意 外 と 大 し た こ と な か っ た。




「―――ねぇ」



 ていうか高校に入学してからもこの現象が続いているっているのはどういう事なのかな。いくら自分の声が無視されたからといってももう十分に僕は苦しんだし、許してくれても良いと思うんだけど。せっかく地元から遠く離れた高校を選んでもこの『呪い』はどうにもならないし。まぁ限定的にはなったけどね。



「――――――ねぇってば」



 はぁぁー、ったくあのコトハ? っていうロリ神(ロリヴォイスだったからそう呼んでる)も今思えば陰険で陰湿だよねー。今まで築いてきた友情や僕の輝かしい生活を送る筈だった高校生活をぶち壊して高みの見物でもしているのかな? まぁ神社に住んでいるらしいし僕の声なんて届いていないと思うけど。

 試しに小声で呟いてみよっと。



「やーいバーカバーカ。胸の成長見込みなしー」

「それはアタシに喧嘩売ってんのかぁーー!!」

「えべれすとっ!?」


 

 

 いきなり背後から両脇を持って椅子から立たされたと思ったらジャーマンスープレックスをかまされた。思い切り背中と後頭部を打ち付けてしまい視界がチカチカするが床の冷たさがキモチイイ。


 ………やっべ、教室の床って案外汚かったんだ。



「どーよ、眞寿まことの分際でこのアタシに暴言吐いた罰よ! 反省してるんだったら解放してあげる!」

「わかったごめん! わかったから離して下さい!」



 もー、帰りにファストフードやア○メイト寄りたいとか早く彼女彼氏と一緒に帰りたいとか考えている自分本位な奴らが真面目に掃除なんてする訳ないじゃん。どうせ駄弁ってぺぺっとやるくらいだよぺぺっと。あー髪と念の為に顔を洗いたい。もー、クラスメイトが廊下とか体育館とかトイレに行った足でこの教室の床を歩いているのにさー。消しカスや髪の毛、埃も落ちてるのに。うわー、ブレザー洗濯したい。もうちょっと考えながら行動して欲しいよねー。てかあの娘がプロレス技を仕掛けようとしてるのに他のクラスメイトは律儀に机をどかしたし。なんで彼女の舞台を整えちゃうの。みんな僕に何か恨みでもあるの? 現に「出た、夫婦漫才」「今日は大胆だな」「ふむ、スカートの下は短パンか。萌えるぞ」とかひそひそ話してるよ。

 あと最後のやつ良いぞ、お前とは仲良くなれそうな気がする。誰が喋ったか知らんが。




「ふふん、素直でよろしい」

「………それで、今日は何の用なの? 毎回昼休みに来る事は知っているんだけどさ」



 僕の目の前でふんぞり返っている彼女の名前は迦楼羅かるら 裕可里ゆかり。勝気でつり上がっている瞳、ポニーテイルに結ばれている茶色の髪が顔を動かすたびに揺れている。

 頭脳明晰、容姿端麗。更には運動神経も抜群とか前世にどれだけ善行を積めばそこまで恵まれるのって程すごく恵まれている。あと親がなんか代々続く呉服店を営んでいるお金持ち。

 彼女は入学してからしばらくすると滅茶苦茶話しかけてくるようになってこうして昼休みに毎回といっても良いほど会ってるわけだけど。



「お昼は食べたの?」

「いや、まだだけど…」

「よしっ(ぼそっ)………あっそう、じゃあ一緒に食べましょう!」



 彼女はそう言うと唯一仲が良い前の席の男子生徒からにこやかに椅子を強奪。ほら、コイツも平和的な昼休みを過ごしていたのに「どうぞどうぞ」なんて言って遠慮しているじゃないか。あとキミなんで僕に向かってサムズアップしてるの。

 全く、カースト上位の力を見せつけるんじゃないよ。彼女は僕と向き合う形になって持って来ていた手提げの中の弁当を二つ取り出す。僕はというと大きな正方形型のタッパーを取り出した。

 ………ん、二つ?



「………すごくお腹減ってるから二つも弁当を食べるの? 健啖家だねぇ」



 いつもは一つだけでお重にこれでもかってくらい豪華な食材を敷き詰めて弁当として食べているのに、今回は普通の弁当箱なのね。ステーキ、卵焼き、ブリの照り焼き、筑前煮、小松菜の胡麻和え………ッ! 庶民的なモノの中に高級的な品を入れやがった。しかも僕の好きな物ばかり。どうせ全部食材も高くて一つ一つお手伝いさん(元高級料理人)が作っているんだろうなぁ。前に自慢してたし。お金持ちの権力をここぞというときに見せてくる暴力女のくせに生意気な。く………っ。う、羨ましいなんて思わないんだからねッ………!



「違うわよ。二つ取り出した時点で察しなさいよ。眞寿まことは昼食といったら必ずおはぎばかりで、それだけだと体に悪そうだなって思ったから持って来たんじゃない。寧ろ毎日良く飽きないでそんな甘ったるいもの食べられるわね。はい」

「これが僕のマイフェイバリット食事なのだからしょうがない。あと喜んでイタダキマス」



 いやぁ~、さっすが僕みたいな貧民層にも分け隔てなく恵んで下さるなんてなんて懐の深くて品行方正な優しい御姉様なのでしょうか。軽い潔癖症の僕ですが、思わず貴方の為ならばそのおみ足をぺろぺろしても良いかと考えてしまいました。暴力女? はて?



「じゃあ、この卵焼きから………あむっ」

「………ど、どう?」

「―――うん、普通に美味しい」



 僕が食べ始めてからなんか顔を微妙に赤くして軽く息をはぁはぁしながら上目遣いで聞いてくるけどどうしたんだろうか。もしかしてこれは手作りで、何度も失敗した中でようやく成功した卵焼きを僕が選んだからかな。それを美味しいかと思ってもらえるかどうか緊張したからそんな顔になっているのかな。

 そんなピュアピュアしてるとは思わないんだけどなこの娘。



「そ、そうっ! なら朝早く起きて手作りした甲斐があったわ。こうべを垂れて感謝なさい」

「あ、やっぱりそうなんだ。 何か隠し味とか入れたの? 定番だよね?」

「ふえっ!? いや、そ、その………フフッ、お、乙女の秘密よ!」



 まぁこういうのは異性には秘密にしておきたいものなのかなー。深く聞かないでおこう。なるほど、君の卵焼きはちょいしょっぱめ派か。甘いもの好きな僕でも卵焼きは別なんだ。気が合うじゃないか。

 お礼に一つこちらからもマイフェイバリットフードO☆HA☆GIをおすそ分けをしよう。そういえば毎度タッパーを開けてからしばらくすると一つおはぎが消えているんだよね。ほら、今回も消えてる。

 まぁ深く気にせずにいこう。え、ちょっ何で分けたのに空の容器(別に持って来ていた)に入れるの? 半分だけ食べて仕舞った? 家で捨てられでもしたらショックで数日寝込むよ?


 そんなこんなで弁当を食べた後。ごちごち。



「さ、こっからが本題ね。眞寿の『呪い』の様子はどう? どことなく眼が死んでいるから今日は出てない?」

「出てないよ………。あと眼が死んだか死んで無いかで『呪い』の判別つけようとするの止めようね。裕可里」



 こちらの瞳を覗きながらからかうように訊いてくる彼女。睫毛はパッチリとしており口元は軽く口角が上がって小悪魔チックに映るが、毎度の如く僕のキュート(笑)な瞳を弄って来る。嫌に感じない程度に付き合いも少し長くなってきたのかと考えると思わず感慨深くなる。




 彼女は僕の『呪い』の事を知っている。




 入学して間もなく『―――貴方、何かに縛られてる?』って聞かれたときは正直いきなり怖いなぁ~、視えるのかなぁ~、もしかして同類かなぁ~って思ったけどどうやら違うらしい。

 裕可里曰く「眞寿の周りがぶわぁーって大きく白く光って見える」との事。何か小さい頃から"持っている人間"にはそういった光が見えていたんだって。初めは喜んだけど、良い意味でも悪い意味でも"持っている人間"は光るって聞いたときにはテンションの下がりが半端なかったよ。




「う、うっさいわね! とにかくまだなのね! 眞寿のその空中に文字が浮かぶ『ステータス画面』現象はとても興味深いわ。しばらく観察させてもらうから」

「………はぁ」



 そうなのだ。この通り僕は彼女に『観察』されている。僕の奇行を目撃した人間でもありその原因はどこから来ているモノなのかを探るためだという。

 まぁこの『呪い』を解く手がかりが見つからない以上、僕の周りに取り巻く光が見える裕可里を今は頼りにするしかない。道のりはまだまだ長いけど地道に行くしかないか…。って思ってると、




 "カランカランッカランカランッカランッ!"




「うわぁ…………」

「きたっ? 来たのね!!」



 いつもの聞き慣れた鈴の音が鳴った。思わず頭を抱える。間もない頃は身構えたりもしたけど今ではもう慣れた。どんなことを言わなきゃいけないのか今も考えるだけでも憂鬱だけど、この状況を避ける手段が無い以上受け入れるしかない。覚悟して上を向こう。さぁ、どんとこいやぁっ(やけっぱち)!!










『みんな聞いてくれっ!! 僕はパンツを舐める変態で………"ED"なんだっ!!』



発言者:神薙かんなぎ 眞寿まこと

対象者:クラスメイト全員

《必須条件》

・誤魔化す事無く正しく言葉にする事



※達成出来ない場合、壮絶な痛みの果てに死を迎える


 








(これだけは言いたくねぇっ!!!!!!)



 気持ち悪っ、お腹痛っ、頭痛ぁっ! 慣れっこでも辛いけどこんなの気にしていられない。思わず反射的に心の中で叫んじまったぜ。久しぶりの変態的なワードだしこんなん言ったら男としての尊厳を失っちまうぜっ。誰が好き好んで言うかロリ神のブワァーカ………………イッテェェェェェェェェェ!!!!!



「あ、相変わらずすごく苦しそうね………。今回は重い日・・・なんだ」

「……っ…………―――」

「って、やっぱりこの状態になると喋れないのね。―――容赦ないわ、すっごく辛そう。んっ」



 そう。このモードに突入すると空中に浮かんだ文字以外は話せなくなり、あらゆる激痛や体調の変化が現れるのだ。


 まさに"地獄の時間ヘルタァイム"(イケボ)。


 

 今にも次第に強くなっていくこの痛みが永遠にも続くでのあろうかと思わず錯覚するけどこの解決方法はただ一つ。『指定されたワードを言う』しかないのだ。もはや絶望でしかない。



「ち、ちょっとまたカメラで眞寿の様子撮って良い? 何か今までと変化があったら教えてあげるから!」

「…っ………―――」

「顔あげてー……そうそう、歯を食いしばっている感じが必死感出てるわよー。いつも通り渦巻いてる渦巻いてる・・・・・・・・・・。天井まで行くんじゃないコレ? もっと頑張りなさいよ」



 コイツうるせぇ! 毎度の事ながらスマホで動画撮ってんじゃないよ人が苦しんでいる様をニヤニヤしながら画面越しに見てんじゃないよドSですか僕が好きなんですかそうなんですか?

 ………はいごめんなさい冗談です! でももうなんか慣れてきちゃったのよぉーーーーーー! あれから痛みとか不快感とか何回も経験してきたせいで感覚が鈍くなったのかなぁ………。でも痛い事には変わりないんだけどねぇーーーーー!!!! 激おこぷんぷん丸っ!! もー情緒不安定かいっ☆ 

 あぁ渦巻いているっていうのは裕可里曰く「眞寿の周りがぶわぁーって大きく白く光って見える」ヤツがうねうねと細長くなって足元から頭にかけてゆっくりと渦巻いているらしい。どういう現象で何を意味するのかは分からないけどそれを暴くのが彼女の当面の目標らしいね(キリッ)。




 あーもう、このままじゃジリ貧だしもう言っちゃうかぁ。中学校時代は場所も時間も対象者もバラバラで、尚且つ変態的な発言しかしてこなかったからみんなから嫌われちゃったけど、高校に入学してからは何故か・・・高校生活の中でしかこの『ステータス画面』、つまりは『呪い』が出現しなくなったんだよねー(休日は家でだよっ☆)。ランダムじゃなくなったし言葉にするワードも特に苦でもないし、どういうこったい。



 ………あぁ、思考が纏まらない。なんだかぼうっとしてきた。視界もなんだか薄暗い感じがする。言わなきゃ。死にたくないし、違うけど、決して違うけどっ! どんな嘘でも、適当な言葉でも、言わなきゃ。



 意を決して僕は立ち上がる。正直フラフラな状態だけど言わなきゃ死ぬ。………でも、なんだか前と比べて臆病になっちゃったなぁ。昔ならふっきれていたからどんな言葉でも適当に言えば良かったけど、今はなんだか怖い。


 僕に向けて遠巻きに心ない陰口を吐いたり、昨日までは雑談していたクラスメイトが急に次の日には僕を無視したり、幼馴染や友達に何度弁明をしても理解されずに引かれて繋がり自体無かったことにされて。


 こんな『呪い』を持って良かったと思う事なんて一つも無かった。



 彼女と出会うまでは・・・・・・・・・



 迦楼羅かるら 裕可里ゆかり。特別な眼を持つ彼女だったからこそ高校入学から僕に気が付いてくれて、尚且つ自分の昼休みの時間まで犠牲にして僕と一緒にいてくれる。初めは僕を揶揄からかってSNSを使って陥れようとしているのかとか思ったけど、彼女からそんな悪意は感じられなかった。寧ろ僕の『呪い』の事を知っても「ふぅん、そんな不思議な事があるのね」で終わり。正直そんなあっさりとした反応をされるとは思わなくて、実際にされた中学時代の反応を伝えると「そんな上辺だけしか見ていない人間なんて羽虫以下ね。結局は貴方の本質に向き合おうとしなかった彼らの幼さが原因じゃない。よってたかって自分らとは異なる人間を排除しようとしたがる集団習性そのものじゃないの。くっだらない」と一蹴。

 彼女が自分の事でもないのにそこまで言うのに思わず笑ってしまったんだ。僕って単純。



 同時に、彼女からは嫌われたくないなぁって思ってしまった。



 裕可里の事だからそんな僕の想いは欠片ほども気にしないんだろうけど、それでも僕がする。だって気の弱い人間だから。弱い人間になってしまったから。


 人との繋がりがどれだけ脆いモノか身を持って知っているから。



 ………さぁ、言おう。



「『みんな聞いてくれっ!!』」



 クラス中の視線が僕に集中する。『ワード』を口に出す最中は不思議と全く痛みや不快感といった絶不調状態ではなくなる。言いたくはないが今から言う言葉は普通ならばドン引きする内容なのは間違いない事だ。今までは何度かこういう事があったが、どれも際どくない『ワード』ばかりだったので僕がこんな突発的な行動をとったとしても「またか」という呆れ笑いだった。さらにその後裕可里がフォローに回ってくれたおかげで以前の状況にはなっていない。でも、これを聞けばみんなはどう思うのだろうか。怖い。





「『僕は――……―――…――!??』」





 『ワード』を最後まで言おうとするが言葉を発する事が出来ない。なんで。どうして。これからの高校生活や恥も外聞も全部捨てて言おうと決意したって言うのに!


 再びやって来た不快感や痛みを堪えながら、口に出そうとした『ワード』が間違っていたのかと空中に浮かぶ『ステータス画面』を見据えるが、そのとき驚くべき変化があった。








『みんな聞いてくれっ!! 僕は彼女の愛情たっぷりの手作り弁当を食べたよ♡ 指に絆創膏までしてけっなげー☆』



発言者:神薙かんなぎ 眞寿まこと

対象者:クラスメイト全員

《必須条件》

・誤魔化す事無く正しく言葉にする事

・心を込めて口に出す事



※達成出来ない場合、壮絶な痛みの果てに死を迎える







 内容が、変わっている…………!? 文章的に裕可里の事だろうが、正直今までこんな現象が起こったのは初めてだ。光が見えるという彼女を見てみるが相変わらずスマホを構えてこちらに向けていた。



(特に僕の周りの光の動きに変わったことがないっていう事なのか………? それにしても指にまで目がいかなかったな。まさか裕可里が指に切り傷まで作って弁当を用意してくれていたとは。友人の健康管理に敏感だな。それはさておき、はぁ………偶然だとしても初めてだから動揺しているな。―――よし、いったん落ち着こう僕。そして開き直れ



 未だ教室中のみんなが僕を見ている。今のハプニングでだいぶ間が空いたと思うけど僕なんかに視線を向けて貰って悪い事をしちゃってる感あるわー(←てへぺろ)。よぅし、軽い感じで言っちゃお☆




「『僕は彼女の愛情たっぷりの手作り弁当を食べたよ♡ 指に絆創膏までしてけっなげー☆』」






「「「「「リア充くたばれ」」」」」

「や、やめろぉーー!!」





 知ってた。ちょっ、まっ………! 物投げないで! 空き缶とか空のパン袋を結んで丸まったヤツを投げるならまだ判る。でもキミ坂本君だっけ何シャー芯をこっちに構えてるの絶対こっちまで来ないよやるだけ無駄………っっっぶねぇ!!! めっちゃ喉元狙ってきてんじゃん(困惑)めっちゃ投げるのうまいじゃん(恐怖)! 机に置いてたタッパーを盾にしなきゃ、やられてた………ッ! THE・モテない軍団の男子達が僕にこんな事言われても"殺意♡殺意♡(きゅんきゅん)!"としか思わないよねっ。




 十 分 過 激 だ っ た。




―――そして僕はある人物の事をすっかり忘れていた。『ワード』的に彼女の事を指しているのは明白。みんなは僕たちが弁当を食べていたことを知っているし、そもそも用意したのは彼女だ。さらに仕方ないとはいえ彼女が料理を頑張って作った証ともいえる絆創膏を貼った指を小馬鹿にするような発言をしてしまった。


 つまり、



「~~~~ッッ……!」



 彼女、裕可里は顔を真っ赤にしながら小刻みにプルプルと震えていた。



「い、一旦落ち着こう! 話し合えば分かり合える筈だよ!」

「………そんな時間は当に過ぎ去ったわ」



 心なしか裕可里の後ろからゴゴゴ………ッ!と異様なオーラが見えるのは気のせいか。なんか凄い寒気がするし、冷や汗も滝のように流れているのが分かるよ。アイスバケツチャレンジの方がまだマシなんじゃないかってくらい。いややった時ないしやるつもりもないけどさ。

 いや、うん。ふざけてる場合じゃなかった。マジで。



「人が努力した事をみんなの前で揶揄からかってぇ………! 悔い、改め、なさーい!!」

「いや理不尽―――」



 言葉を続けようとした瞬間、胸倉を掴まれて後ろにぶん投げられた。脳天から衝撃が走ったと思ったらブラックアウトした。


 そこから記憶は無い。



























「………はっ」


 気が付いたら家のベッドに仰向けになっていた。どうやらあの後保健室で横になってたみたいだが、そのまま放課後になっていたようだ。いやぁ保健室の先生(結婚して妊娠中)から聞いた話だけど何か僕、教室の後ろの壁に頭から突き刺さっていたっぽい!

 ………なんで僕生きてるんだろうねぇ? 最低限、最低限(ここ強調!)たんこぶ位は出来てもおかしくないんだけど、世の中不思議に溢れてるね。

 ま、その後裕可里が来て一緒に歩いて家に帰宅した訳だけどぼうっとしてたから話全然聞いてなかったよ。なんか、今度一緒に買い物に行くとかうんたらかんたら言ってたね。まぁこんな目に遭ったお詫びと考えたら辻褄が合うね。え、そもそもの原因は僕? 関係ないね(すっとぼけ)。


 

 さて、明日も学校だ。正直僕が抱える『呪い』のせいで登校するのは億劫だけど、決して嫌な訳じゃない。そう思えるのは―――、



 うん、言わないでおこう。これは胸に秘めたままにしておくべきだ。そう思いながら、僕はそっと瞳を閉じた。




 


















 



◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇




「ウフッ………うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ、グヘヘッ」



 おっと、乙女らしくなく笑う声が一瞬だけ洩れてしまった。淑女を目指すのならばこういった小さなことでも気を付けなければ。



「裕可里、気持ち悪い」

「うっさいわね夏雅莉かがり。アンタには分からないだろうけど好きな人の事を思い出すとどんな形であれ感情が出るものなのよ」

「そう、なの………? わからない」



 自室の畳の上でごろんと寝そべっていた私に正面から・・・・話しかけるのは小学生程の女の子。髪型はおかっぱボブで綺麗な赤髪。滅茶苦茶顔が整ってて可愛いんだけどずっと眠たげな表情をしていて一切笑わないのよね。勿体無い。間延びした話し方も特徴的で、思わずこっちが眠くなっちゃうわ。ふわふわ浮きながらもこてん、と首を傾げる。



「ま、いつか誰か好きになったら分かる日が来るわ」

「………? 私、人間じゃ、ないから……やっぱり、よく、わからない」

「………そうだったわね」



 思わず溜息を吐く。この感情を共有出来ないからではなく、夏雅莉かがりが人間ではない存在であった事をすっかり忘れていた私の配慮の無さにだ。


 この娘は、いわば『精霊』と呼ばれる部類のある神社の神によって創造された四大精霊の一柱らしい。彼女は『火』を司ってて、他は『風』『水』『土』の属性エレメンタルを持つ精霊が三柱いるみたいだけど他は夏雅莉かがりが目覚めたときにはいなくなっていたみたい。

 更には彼女たちが仕えるべき神様もどっかに行っちゃったって話だけど………最近見つかったみたいね。



 そう! いとしの彼と一緒に!!



「気に病む必要は、ない。あるじにも出会えたから。でも、なんであるじは、彼の側に、いるんだろう?」

「それは眞寿だからよっ」

「裕可里、分かり、きってたけど、理由に、なってない。そういえば、あの人間の、どういうところ、が好きなの?」

「えー? そうね………」






「まず彼の人柄が好きね。基本的には穏やかな性格だし相手を思いやる懐深さを持っているわ。八方美人ではないけれど他人から話しかけられれば無難に対応する所も大人な気がしてとっても魅力的。交友関係も広い訳じゃなくてしっかり自分を理解してくれる友人を選んでいるのも好印象ね。私もその中の一人なのだけれど!そうね彼の好きな所を語る上で欠かせないのは私と彼がどのように運命的な出会いを果たしたのかを話す必要があるわね。その出来事があった後に神社で参拝したら夏雅莉かがりと出会ったのだけれどまぁそれは置いておいて。あれは中学三年の夏ここから結構遠く離れていたところでお祭りがあったのよ。私と友達はそこで集合しようと約束していたんだけれど両親が私に着せる浴衣で張り切っちゃって集合に完全に間に合わなくなったわ。電車に乗ってからその有名な神社まで急いで走っていたんだけれど都合の悪い事に草履の鼻緒が切れちゃったのよね。どうしようかと泣きべそをかいて困っていたらそこに現れたのは眞寿だったの! 彼はとても心配そうに話しかけてくれて私が安心出来るように微笑みかけてくれたわ彼も急いでいたようだったから困ったでしょうにね。恥ずかしかったけど丁度近くに草履を売っているお店があるっていうからそこまでおんぶして連れてって貰ったのよウフフ眞寿ってば案外背中がガッチリしてたし近くで嗅いだ初めての男の子の匂いにはドキドキしちゃったわ今思えばうなじを一舐め二舐め以上ペロペロしてもばれなかったんじゃないかしらえへへお店に着いたら後はお店の人に任せて彼は行っちゃったけどそれ以来私は彼をずっと、それこそ彼の通う学校家の場所、家族構成、性格、電話番号、人間関係、趣味、血液型、身長、体重、好きな物、嫌いな物とか挙げたらキリがないけど彼の事を調べ尽して誰よりも想い続けたわ。彼が仲良くしてあげていた雌豚がいたみたいだけど所詮は家畜いいえそれだと私たちに食されている牛豚鳥達に失礼ね精々耳障りな羽虫程度かしら。眞寿が羽虫と一緒にお祭りに行って参拝した後に彼の言う『呪い』、まぁ彼に憑いたロリババアのコトハが『言葉を司る神』であって不敬を働いた眞寿を苦しめる為に仕掛けた存在維持装置らしいけど、それを見たくらいで離れるなんて愚かの一言でしかないわやっぱり彼の側にいるべきは彼の良い所も悪い所も受け入れることが出来る私くらいねだからこそ『呪い』を抱えた眞寿が孤立しないように彼の進路も調べ上げて一緒の高校で素晴らしき高校生活を送っているのだけれど。当たり前だけど彼と再会するイベントである入学時イメチェンした私の事を覚えていないのも仕方ない事よねでも私が覚えている優しくされたこともおんぶした時話した言葉一言一句も表情も改めて彼の全部を自分のものにしたいと思った絶対に。眞寿って自分じゃ自覚してないけどカッコいいから他の雌豚にマーキングされる前に何よりも先に話しに行ったおかげで今の地位を確立して彼の側にいる事も出来た。女子内の情報の影響力って侮れないからまぁいざというときに利用する為にも友好関係は自分から広げたりもしたし外堀も埋めたりしたからばっちり!まぁ億劫だったけど。今日のお弁当だって眞寿の好きな物ばかり作って入れたし味付けの好みも彼に合わせたうふふ彼ったら私の自信作の卵焼きを美味しそうに食べてくれて嬉しかったしその姿を見るだけで興奮して濡れちゃったぁ。イロイロ・・・・秘密の隠し味を入れた甲斐があっ―――」

「裕可里、もう、いい」

「えぇ? 今のはほんの一部に過ぎないわよ?」

「いい」



 語っても語り尽くせないのに。珍しく彼女にしては強い口調で言うのね。あら、ふわふわ浮いていたのにすぅっと消えちゃった。きっと眠くなったのね。元々コトハの補佐役だった夏雅莉かがりが『文字や言葉を変更する』力を使うのも相当疲れるらしいし。普通の人には見えないステータス画面や様々『視える』私に協力して貰っているし迷惑ばかりかけているからゆっくり休んで貰いましょう。どうやらコトハは夏雅莉かがりの能力に抵抗出来ないっぽいしいつも書き換えているせいか涙目だった。ふっ、歯を食いしばってこっちを見てたしイジメがいがあったなぁ。そんな姿を眞寿にも見せてあげたかったけど、なんで憑いている彼自身には見えないのかしら。不思議。

 はぁ~~~~、でもなんか不完全燃焼ね。ま、いいわ。今度の週末眞寿とデートに行く約束したしねっ! ………あっ、眞寿特製のおはぎどうしようかしら。半分だけ持ってきたけど様々な使いようがあるわよね。あーんな事やそーんな事にだったり………うふふ。




 前は冴えなくて性格も暗いメガネっ娘だったから高校デビューを果たした後の私は分からないでしょうね。でも眞寿、アンタは私のことは覚えてないでしょうけど私が覚えているわ。

 控えめに言って絶対に幸せにしたい。いいえ、する。




「私と貴方の未来のために―――狂おしいほど大好きよ、眞寿♡」




 私は改めてそう言葉を呟くと瞳を閉じた。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロリ神のせいで一日一回空中に浮かぶワードを言わないと死ぬ呪いに掛かっているんですがそれは。 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ