人生最後のゲームであそぶ1本

ちびまるフォイ

ゆるやかで穏やかな最期のひとときのゲーム

「ここは人生最後のゲームの場所です。

 好きなゲームを選んでください」


目の前には最新ハードから思い出のあのゲーム機まで揃えられている。

ゲームソフトも壁一面に飾られ、そのどれもに見覚えがある。


「人生最後のゲームというと、プレイしたら死ぬんですか」


「いいえ、クリアもしくはゲームオーバーになったら終了です」


「そうですか……最新作とかはないんですか?

 ファイナル・クエスト19とか」


「未来のゲームソフトはありません。

 ここにあるのは、あくまでもこれまであなたがプレイしたゲームです。

 どうぞ、最後にふさわしい1作を選んでください」


「選ぶと言っても……」


なにがいいのか見当もつかない。

まだ死ぬ覚悟もできていない。


「クリアする前とか、死ぬ前にゲームを辞めたらどうなるんですか?」


「お試し期間として死にません。

 ただし、そうやっていつまでも死なない場合は

 こちらで強制的にクソゲーをプレイさせます」


「うわぁ……」


それだけは避けたかったので、近くにあった街シミュレーションゲームを手にとった。


「ほう、シミュレーションゲームですか」


「はい、こうやってコツコツやるの好きなんです。

 これならクリアもゲームオーバーもないですし、長く遊べるから生きていられる」


ゲームを開始して、街を作っていく。

楽しくやっていたのは最初の数時間であとは苦行になっていった。


「どうしたんですか? ずいぶんと顔色が悪そうですよ」


「こういうコツコツ積み重ねるゲームって、ずーーっと熱中するタイプじゃないなって」


画面は代わり映えせず、見るものといえば数字ばかり。

成長するにつれ変化の幅はとぼしくなりしだいに飽きがやってくる。


クリアもゲームオーバーも自分でコントロールはできるが、

退屈と延々と向き合い続けたあげくに死ぬなんていやだ。


「や、やっぱり別のにします! もっと充実させたいです!」


今度は子供の頃に熱中したアクションゲームを選んだ。

操作方法は体が覚えていて、めまぐるしく変化するゲーム環境に目が離せない。


「ああ、やっぱりこれだよ! ゲームしてるぞって感じ!

 こんなに充実した気分のまま死ねるなら本望だ!!」


すでにクリア済みということもあり、ゴールまで近づくととたんに怖くなった。

あまりにスムーズに進みすぎたがゆえに今の人生を捨てきれない。


熱中していたので過去の思い出にひたるどころではなかった。


「あ、あの……」


「また変更ですか?」


「やっぱり王道のRPGがいいかなと」


自分が一番最初にやって感動したRPGに手を出した。

耳に残るBGMや懐かしいフィールドが子供の頃の思い出を呼び覚ます。


「いい人生だったなぁ……」


ゆっくりと進むことでプレイしながらも頭の中は

これまでの人生の走馬灯をかけめぐらせていく。


そのはずだった。


《 くりてぃかる! しゅじんこう に 9999ダメージ! 》


「うえぇえ!?」


ふいに現れた敵によりパーティは全滅寸前。

まだ走馬灯は序章くらいしか辿り着いていない。


「げ、ゲーム変えます!」

「またですか」


長く遊べて、熱中できるものはないか。

悩んだ末に手にとったのは対戦格闘ゲームだった。


「これならアクションゲームのようなスリルもあるし

 対戦相手がいるから飽きないし長く遊べるぞ!」


ゲームを始めるとチャレンジャーが乱入してきた。

これでも昔はゲームセンターで数多の挑戦者を退けたほどの腕前。


《 YOU WIN! 》

《 YOU WIN! 》

《 YOU WIN! 》


「っしゃーー! 余裕だぜ!!」


心配だった「敗北してデッドエンド」ということもなく、

かつての腕前そのままに対人で連勝を重ねていった。


代わる代わるやってくる相手に飽きもなく楽しんでいたが、

徐々にゲームがはじまるまでの時間が長くなっていった。



* マッチング中です...しばらくおまちください...



「またか。なんか、ゲームするほど長くなっているなぁ」


「おや、まだ気づかないのですか?」

「え?」


「あなたが対人で勝利するということは、

 このゲームを最後に選んだ人が敗北するということ。つまり死ぬ。

 勝利すればするほどプレイ人口は減るのはあたりまえでしょう」


「そ、そんな!?」


このままゲームを続けていれば、マッチングを見守るだけの日々になる。

いつか訪れる挑戦者に敗北しない限り死ぬことはない。

死ななければ代わり映えしない画面を操作もできずに見守ることになる。


シミュレーションゲームのほうがどれだけマシか。


「変えます! やっぱりゲームを変えます!!」


「もういい加減にしてください。これで最後です。

 この1作からの変更はもう許されません」


「本当に最後の1本……」


ごくりとつばを飲み込んだ。


人生の振り返りに満足できるくらいゆっくりで。

それでいて、ゲーム中はのめり込むほど熱中して。

画面にいつも変化があるようなゲーム。


それがあれば、最高のひとときを最後に楽しむことができる。


「なにを選べば……」


棚に手が伸びたが、俺はその手を引っ込めた。


「決めましたか?」


「はい、俺はどのゲームも選びません」


「なんですって?」


「俺が望む最後は、このままここでゆっくり老いて死にます。

 それが一番ベストな死に方だと思いました」


その場にあぐらを書いて座るとこれまでの人生をゆっくりと振り返った。

時間の感覚もうすらいでどんどん自分の体は衰弱していく。


やがて意識もおぼろげになって、強烈な眠気が襲ってきた。


「ああ……本当にいい人生だった……」


目をつむると、静かに息をひきとった。





《 FIN 》



画面には大きな3文字が映し出された。


画面内の男が死んだのを見届けると、クリアしたプレイヤーも同じように目を閉じた。



「自分の人生追体験ゲームはこれでクリアです。お疲れ様でした」

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