第46話 レオーラの呼び出し

 ――あのバイキングの後、レオーラに相談してから1週間後、私たちは『金獅子亭』に呼び出された。


「2人とも、いらっしゃい! 今日はお酒でも飲んでいくぅ?」

「……君は、私たちに酒を飲ませるためにここに呼んだのか?」

「ちょーっとした冗談よっ! だから、そんなに睨まないで、ねっ」


 そんな彼女と「俺は飲んでも大丈夫ですよっ!」と言っている隣の彼に呆れてため息を吐いた。そんな私の様子を見た彼女が私を宥めながら、ギルド内の彼女の家へと案内される。まぁ、大事な話をするのにレオーラの家はとても適しているだろう。あそこは防音魔法もされている。それに、知らない所に呼び出されるよりは、1回行ったことのある場所の方が私も気が楽だ。

 それにしても、ここはいつ来ても騒々しいな。この『金獅子亭』では、冒険者ギルドと酒場も兼用している。軽い食事やおつまみもやっており、そのため昼だというのに飲んだくれも少なくない。まぁ、あまりに騒々しい奴はレオーラに叩きめされるからか、迷惑なのがいないみたいだ。それに、とても楽しそうで心が――いや、何を考えているんだ、私は。考えを振り払い、足を進めた。



――――


「単刀直入に聞こう。私たちを呼び出した理由はなんだ」


 私の隣に彼が座り、テーブルを挟んで正面にレオーラが座っている。


「呼び出した理由はね、簡潔にいうと実は貴方達に護衛依頼が来ているの」

「護衛依頼? 私と彼とが?」


 確かに彼の腕は確かだが、結成したばかりのパーティーにとは不思議だ。相手は誰かと訝しそうにしていると、彼女が教えてくれた。


「貴方も知っている人よ」

「私も……?」


「ハインリッヒ・ペリティカ、

よ」

「――は?」

「えぇ、ハインツ王ですかっ?!」


 突然のことで、思考停止してしまう。固まっている私の横で、王の愛称を叫ぶ彼に、更に混乱しそうになる。


「い、いや待て。あの人は護衛が要らないほど強いだろう。それに、王宮騎士もいる。特にこの国の護衛の魔法騎士達は優秀ぞろいで――」

「それに加えて、ライルちゃんとセティちゃんも連れて行きたいそうよ!」


 何故そうなるんだ…。眉をひそめていると、隣の彼は心配そうに私の様子を窺っている。ふと、レオーラの話を聞いて、ある顔が浮かぶ。


「なぁ、その護衛は《あの子》もいるのか?」

「……えぇ、そうよ。本当は無理にとは言いたくないのだけど、今回は重要なことだから貴方達、特にライルちゃんには来てもらわないと行けないの」


 申し訳なさそうな顔のレオーラに、ため息を一つ吐く。断るという選択肢は最初からなかったようだ。


「いや、私は別にいいのだが、顔を見たくないのはあちらだろう」

「あら、意外ね。ライルちゃん、あの子のこと苦手だと思っていたのだけど」


 苦手じゃない、と言ったら嘘になるが決して嫌いな訳ではない。……いや、嫌いになり切れないというのが本当のところか。


「あ、あの! ライルさんが言うあの子……って誰ですか?」

「それはね――って、そんな顔しないでライルちゃん! ごめんなさいっ!」


 誰だって自分のことを勝手に言われたくないだろう。レオーラは、そんな私の気持ちを汲んだのか、申し訳なさそうにしている。後で知られるだろうが、他人が言うのとそうでないのは別物だからな。私のそんな様子に気付いたのか、知りたいと思いつつも、横の彼はこれ以上詮索するのはやめたみたいだ。いつもは強引な奴だが、意外と気遣いが出来るんだな。


「ライルさん、もしかして何か失礼なことを思いました?」

「……いや?あぁ、そうだ、レオーラ。先程言っていた重要なこと、とは一体なんだ?」


 彼の言葉に、少しドキリとしてしまうが、表面には出さず誤魔化すのように話を変えた。彼は納得いってなさそうだったが、私と同じく重要なことがどんなことか気になっていたみたいだ。ちょうど問いかけて良かったかもしれない。


「あら、あたしとしたことがうっかりしていたわ!というのも、実はね――


 『海上国スィートリア』の近くに保管されている《青の魂》が狙われているようなの」

「……なんだと?!」




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人嫌いの加工術師 ジョーカー @raru0141

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