第45話 2人で仲良く森林デート?
「ライルさん、デートしましょう!」
「は?」
彼の武具とペンダントに加工術を施して2週間たったある日、そんな事を言われた。
「いきなり何を言っているんだ? 私たちはそんなことをする間柄ではないだろ」
「えっと、それは深い訳がありまして。あのですね、ちょっと前にライルさんと剣の素振りをしたじゃないですか」
「あぁ、あの時か。ただ私の体力のなさが露呈しただけだったな」
一週間前のことだったか、することもないので、彼に剣を教えてもらうことになった。まずは素振りだったのか、10回程度で腕が痛くて続けられなかった。あの時の、彼の信じられないものを見たような顔を一生忘れることができないだろう。
「それで、レオーラさんに相談したんです。ライルさんの体力をつける方法を聞いたんです。そしたら、デートがちょうどいいんじゃないかって言われたんですよ!」
「いやいや、どうしてそうなる。君、彼女に騙されているだろ」
普通デートというものは、恋人またはそれに近い関係の2人がどこかに出かけることを呼ぶものだろう。それがなぜ体力をつけることになるんだ。確かによく歩くから運動にもなるだろうが、私たちがすることではないだろう。
「そんなことないですよ! 2人で平原や森林とかデートしたら、体力つくじゃないですか」
「うん、うん?」
まてまて、それはデートじゃなく散歩じゃないのか? わざわざ、デートにしなくてもいいだろう。というか、それがデートなら、私たちが2人でクエストに行くことも、鍛冶屋で武具を買うこともデートになるんじゃないのか?
「あ、それもそうですね。じゃあ、これからは待ち合わせをしましょう!」
「そうじゃない! なぜデートにこだわるんだ!」
「だって、ライルさんと仲良くなりたいなら、デートしたほうがいいってレオーラさんが……」
それは恋人になりたい2人がすることで私たちがすることではない! 彼女がニヤニヤした顔で彼に言っていたことが容易に想像できる。少し彼女を殴りたい気持ちになったが、なんとか抑えた。
「そもそも、体力や足の筋肉はつくが、全体的に鍛えなければ意味がないだろう」
「それはちゃんと考えてます! ちゃんとライルさんでもできる簡単なストレッチや筋トレとか調べました! それらと一緒にデートしましょうね!」
「せめてジョギング、またはハイキングと言ってくれないか!」
――――
結局、2人でバルチェリア森林に出かけることになった。服は運動しやすい恰好にして、ローブも涼しくなる術を発動させている。仮面はサングラスにしているので日差しも問題ない。彼はそんな仮面を羨ましそうに見ていたが、これは誰にもあげるつもりはない。彼用としてならいいが、わざわざ贈るのも何か違う。そもそも、私と違って仮面なんて必要ないだろう。確かに便利ではあるが、こんなものがなくても彼は十分に強いからな。
「空気も澄んでいて、日差しもよくて、今日は素晴らしいデート日和ですね!」
「せめて曇りの日にしてくれないか? こんな日は家に引きこもって本を読んでいたかった……。
というか、デートじゃないからな」
待ち合わせをしたわけでもないんだ。これはデートではなくハイキングというべきだろう。不本意だがな。そもそも、私は君と仲良くなるつもりはないというのに、なぜ2人で出かけなければいけないんだ。運動が必要なのは理解しているがな。
「そんなに俺とデートしたくないんですか?」
「したくない以前の問題だ。友人になりたいのなら、ジョギングとかハイキングで問題ないだろう。――いやだからといって私が友人になる訳ではないからな! 勘違いしないでくれ!」
はいはい、といった感じで彼は軽く受け流す。どうせ分かっていないのだろう。言っておくが、今回は私が体力をつけるために仕方なく付き合ってもらっているだけだ。
前々から散歩とかはしていたが、それだけでは足りないのが分かっていた。それに、彼のようなとは言わないが、私もしっかり剣を扱えるようになりたい。魔法は魔石があれば発動できるから問題ない。
そもそも、私がろくに剣が扱えなかったのは、病弱であったのと練習不足もあるが、それだけではない。妹の剣と魔法の腕がとても素晴らしく、彼女に何度も打ち負かされてきたことが大いに関係しているだろう。どんなに頑張っても彼女を剣で負かすことはついぞ出来なかった。まぁ、結局自分が何もしなかったのが一番の要因なのだがな。
「というか、ハイキングではなくクエストに出かけた方がいいんじゃないか?」
「それがですね、周辺でできる難しいクエストの依頼が全くといってないんです。」
「何?」
確かに、最近は討伐系のクエストがめっきり減り、盗賊討伐や薬草採取がほとんどだった。まぁ、知らないところにいけて新鮮で楽しかったし、盗賊を倒した彼の姿はなかなか勇敢で少し格好良かったと思うが(少し、少しだけだぞ!)。それにこのバルチェリア森林も、寒くもないし、暴れているモンスターもいない。異常ではないことは良いことなのかもしれない。だが、あんなに近辺を荒らしていたシャドーモンスターが出現しなくなったのはかえって怪しい。まるで、嵐の前のような静けさだ。
嫌な予感がする。もしかしたら、誰かが何かしら企んでいるのか……。シャドーモンスターの出現がなくなったというのなら、≪亡霊≫が関わっているかもしれない。私は彼らに狙われているようだから、他人事と思えない。とりあえず、レオーラに調べてもらうか。ギルドマスターである彼女なら、何かしら情報が入るだろう。もしもの時に備えなくては。
「急に立ち止まってどうしたんですか? も、もしかして、疲れたり、具合が悪くなったりしちゃいましたか!?」
そう言って、心配そうにオロオロしている。もしかして、私が倒れないか不安なのだろうか。少し、過保護な気もするが、私が貧弱というところもあるから、あまり強くは言えないな。
「安心してくれ。少し考え事をしていただけだ」
「本当ですか? なら良かったです! でも、疲れたらすぐ言ってくださいね。休憩も大事ですから」
といっても、そんなに歩いてはいないし、適度な速度だから、疲労感はあまりない。それよりも、木陰から日差しと、そよ風がとても心地よく感じる。時々、おとなしいモンスターが愛らしい。自然な風景と相まって心を落ち着かせてくれる。とても爽やかな気分だ。だが、それと同時に少し空腹感を感じた。そろそろお昼時だからだろうか。そんなことを考えていると腹が鳴った。少し頬が熱い。
「あ、あんまり見ないでくれ」
「ライルさん、大丈夫です。サンドイッチとか用意しているので、安心してください!」
「そ、そうか。だが、こんなところにテーブルも椅子もないぞ。どこで食べるつもりなんだ。――もしかして持ってきたのか?」
「いやいや、流石にそれは持ってきてませんよ。代わりに、ビニールシートを持ってきました!」
得意げにアメジストのペンダントから緑と白のチェック柄のシートとバスケットを取り出した。これは、ハイキングというよりはピクニックなのではないだろうか。まぁ、目的は屋外で食事ではなく、自然の中で歩くことだから、ハイキングでいいのだが。それに、こんな自然の中で彼が作ったご飯を食べられるのは悪いことではないかもしれない。
「というか、それを広げるのはもっと広い場所の方がいいんじゃないか」
「! それもそうですね。一回しまっておきます!」
その後、木陰がある少し開けた場所にシートを敷き、2人でお弁当を食べた。サンドイッチはハムレタスや玉子、ツナなどさまざまサンドイッチが小さく切り分けられていた。そのため、小食の私でも色んな味を楽しめた。なかには、スモークサァモンとチーズのもあって、それが最も美味しく感じた。それらとともに、暖かいコンソメスープを飲み、デザートにオレンジを食べた。どれもこれも美味しく、私のお腹を満たしてくれた。彼は冷たい紅茶も持ってきてくれたようで、それを飲んで一息つく。
周りは木々だらけだが、鳥の声やささやかな風の音が私の心を癒す。ふと、ラビッタが怯えもせず、私たちに近づいてきた。普通この種族は警戒心が強く、群れから離れようとしない習性なのだが珍しい。
「あれ、この子前に助けたラビッタじゃないですか?」
「そうか? そう言われれば、確かに似ている気がするが……」
あの時、真っ先に見つけたラビッタに色も大きさも似ている。よく見ると、その口には薬草や木の実が挟まっており、それを置いてラビッタはどこかへと行ってしまった。
「――これは、どういうことなのだろうか?」
「もしかして、ラビッタの恩返しとかかもしれませんね!」
「それだとまるで絵本みたいじゃないか」
といいながら、ラビッタが置いたものを拾う。どれもこれもバルチェリア森林で採れるものであった。特別、珍しいものはないが、何か使う機会があるかもしれない。とりあえず薬草は私がしまうとして、木の実は彼に渡しておく。この木の実は料理のソースにもなるし、私が使うより料理上手な彼が使った方が何倍も良いだろう。渡したとき、少し戸惑った顔をしたが、私の意図が分かったのか
「これで美味しいご飯をつくってほしいってことですね!」
と良い笑顔でいった。――別にそこまでは思っていない。確かに彼の料理はなんでも美味しいが。
その後、また休憩をはさみつつ2時間程度バルチェリア森林を巡り帰路に着いた。
「ライルさん、大丈夫ですか? 急にお腹が痛くなったり、フラフラしたりとかしてませんか?」
「大丈夫だ。少し足が痛くて疲労感を感じるが、風呂に入って晩飯を食べてよく寝れば治る」
「それなら、ちゃんと下半身のマッサージをしましょう! これでもうまいんですよ!」
「い、いやそれは別にいい」
手をワキワキとさせ私に近づこうとする彼から逃げながら、ふとバルチェリア森林の様子を思い出した。
暴れているモンスターは全くおらず、あるものは木の実をとり、あるものは自分より小さい獲物を追いかける。あの時は、大型モンスターがなりふり構わず襲ってきていたが、彼の強さが分かるのか誰もやってきていない。穏やか――とは言えないが、以前≪緑の魂≫が奪われたことがまるで嘘だったように見えた。
だが、これは偽りの平和でしかないのは確かだ。私が代わりにつくった加工術でなんとか繋ぎとめているだけだ。今はなんの問題もないが、いつ といっても、≪緑の魂≫を取り戻したところでそれでいいのかも分からない。そもそも、邪神から現れた5つの石がどのようなものか私たちはよく知らない。人の手に余るモノだからという理由で今まで調べようとする人はいなかったようだ。
だが、このままではいけない。どういうものか知らないままでは敵が何を考えているか分からない。一回、レオーラに調べてみたいと言ってみるべきか?? それか、奴の力を借りるべきかもしれないな。
――そう考えている間も彼は私を追いかけてきた。全力ではないようだが、なかなか恐怖を感じる。なんとしても、彼に捕まらないようにしなくては……。
「ライルさーん、逃げないでくださーい!!」
「嫌に決まっているだろう!!」
――この時の私は想像もしていなかった。敵の目的がとても強大であることに。そして、それが私自身にも関わって来ることであったことも――
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