三田さんの話2
三田さんは言った。
「結局その子、亡くなったの。
母親の彼氏に殺された。」
私はドキリとした。
三田さんに、住んでいたアパートを今すぐ聞きたかった。
しかし三田さんは続けた。
「母親がいない間に殴り殺されたのよ。
その時、私ちょうど実家に帰ってたの。
数日アパートの部屋を留守にしていて、帰ってきたら警察やマスコミがいてね。
私もあれこれ聞かれて精神的に参った。」
少しの沈黙をついて私は聞いた。
「あの、そのアパートって、、、。」
私は自分のアパートの名称を言った。
三田さんは目を見開いて言った。
「そうよ。」
そして困惑の表情を浮かべながら言った。
「もしかして、そこには今、あなたが住んでいるの?」
私は彼女の目を見て答えた。
「はい。
事件があった部屋の隣、三田さんが住んでいた部屋です。」
三田さんは「そう。」とだけ言って下を向いた。
今度は私が話を続けた。
「友人が引っ越しの時に泊まって行ったんです。
そうしたら、夜中に怖い思いをしたみたいです。
私自身は、そういった事はありません。
友人は事件の事は知らないし、長い付き合いですが霊感があるとかいう話は聞いたことないんです。」
私は話し終えて「だから何なのだろう」と思った。
「三田さんは、その子の霊を見たことはありますか?」と聞きたかったのだ、私は。
まさか、そんな聞き方は出来ないが。
しかし、三田さんは言った。
「私も何度か不思議な体験はしたの。
あの子が亡くなってからね。
空き部屋のはずなのに壁越しに足音が聞こえたり、壁をノックするような音がしたり。
私に助けを求めてるんだって思った。
亡くなった後も恐怖に怯えて、可哀想に。
怖いとは思わなかった。
ただ、助けてあげられなくてごめんなさいって、、、。
だから、あの部屋に住み続けるのは辛かった。
でも離れられなかった。
ノックが聞こえてくるのは玄関入ってすぐの3畳間。
その部屋にお供えしていたの。
お菓子とかジュースとか。
今でも思い出すと辛いわね。」
私は伸枝が3畳間の部屋の前で、へたりこみ震えている姿を思い出していた。
やはり、殺された男の子は苦しみながら『あの場所』で、さまよっているのだろう。
私は母を思い出していた。
助けられなかった母の事を。
今日は帰りにお菓子とジュースを買って帰ろうと思った。
濁った渦 さとこは執筆中 @python8
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。濁った渦の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
さとこの呟き/さとこは執筆中
★28 エッセイ・ノンフィクション 連載中 34話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます