第7話
「ちとせー!!!」
ちとせが入れられた、透明なガラスの棺みたいなものに駆け寄る。
「わあっっ!!!」
近くで見ると、半裸になったちとせがたくさんの管で繋がれていた。
「こっ‥これっ‥これはっ‥」
言葉を失い、あたりを見渡すと、その管が棺からのびて、部屋に所狭しとひしめきあっている何かの装置に繋がっていた。よくみると机があり、2台のデスクトップパソコンと椅子、机上にまた訳の分からない装置が置かれている。
装置、装置、装置、ちとせ。
急にあたりが明るくなったのと、見たこともないよく分からないたくさんのものに囲まれて、さらに非常に不可解な状況から、一生懸命、頭で理解しようと何度も何度もあたりを見渡す。時には凝視する。
「えっと‥これは人形なの?アンドロイド?」
考えうる、1番現実的な解を答えた。
「さすが、かよこさん、ご名答。でも最初の反応的にこいつの見かけは合格点みたい。」
りゅうまはしばらく黙ってかよこの様子を見ていたようだ。
「そいつはちとせじゃないよ。ちとせに似せたアンドロイド。」
「わかった!ちとせくんが好きすぎて、みのり先輩と共同開発で、ちとせくん2号を作ったんだ!!!」
「あながち間違っちゃいない。」
りゅうまはパソコンを立ち上げる。すごい速さでパスワードみたいなものを打つと、何かのソフトを起動させ、コンソール画面みたいなものに、高速で何かを打ち込む。
エンターを押すと、ピッ、と音がし、ゆっくりと柩が開き出した。
え?え?え?、かよこは目が釘付けになる。
りゅうまはその間に謎の装置とパソコンを行き来し、何やら調整している。
「生体メモリーオーケー。発動。」
カタカタカタカタッとパソコンに何か打ち込むと、それぞれの管がプシュー!!と大きな音を立て、外れ始めた。
りゅうまは部屋の奥に消えると、何かキラキラした赤色のペンダントを持ってきた。それを認識する機械みたいなものに入れると、ピコッと音がした。
管がすべて外れたところで、赤いペンダントを身につけ、一言、
「動け!!」
アンドロイドに命令する。
「‥承 知 し ま し た」
たどたどしい声で機械がしゃべる。ちとせ2号の口はその時動いてなかった。
プシュー!!!
すごい音とともに白い煙がもくもくとあがる。そのもくもくと上がった煙から、立ち上がった超絶イケメンが現れた。
ちとせそのものだ。
「すごーーーーーい!!!」
「アンドロイドの起動には初めて立ちあっただろ?今だに、すごい専門技術がいるんだ。誰にもは出来ない。」
準 備 モ ー ド に 入 り ま す
さっきの機械音声が喋った。突然、ちとせ2号が、
「‥せーのっ!!いち、に、さん、しー!!
ごー、ろく、しち、はち!!」
気合いを入れて体操をし始めた!!
あまりのシュールさに、かよこがポカン、としていると、
「アンドロイドもしばらく動いてないから、全身を潤滑させる必要があるんよ。人工的に作りが人間に寄せてあるから、方法は人間と一緒なの。」
りゅうまが説明した。
それにしてもシュールだ。
なんか、もっと、こう、スイッチひとつで全身がまわるとか、ロボットらしい方法はないものか‥
でも、これが、永遠のテーマである人間に近づけるということなのか。
ラジオ体操第2まで行って、ちとせ2号はふぃーっと満足そうにため息をついた。
「準備モード、終了です!」
ちとせ2号が喋った!!キラキラした目でニコニコしている。
「初めまして!空我 流星(くうが りゅうせい)と申します。」
名前、ちとせじゃない!苗字で呼んでも名前で呼んでもカッコいい感じの名前だ。見かけは完全ちとせだが、改まった感じのちとせ、って感じ。
「説明しよう。説明する前に実物を見て欲しかったからね。こいつは、まだ試作品だけど、みのり先輩の最高傑作、(理想の王子様・空我 流星)だ。女子の、最高の王子様を目指して作られている。」
「色々つっこみどころは多いけど、しつもーん!!どうして見かけがちとせなの?」
「どうしてって、決まってるだろう!!俺たちの中で最高の色男って言ったらちとせだからだ。だから、ちとせの完璧な容姿をモデルにさせていただきました。」
モデルっていうか、ちとせそのものの見かけだ。分からなくもないが、ちとせ本人と混同して紛らわしくないか?
「もうひとつ質問。遊びで披露してるんじゃないなら、私にこの子を公開した理由は?」
「そう、それがとっても大事な話なの。単刀直入に言うと、こいつは、うちの大学とある企業が共同開発している発売前の試作品で、みのり先輩が立ち上げから中心となって開発している、社会的にも、うちの大学的にも、俺たち的にも、とってもとっても大事な大事な商品なの。完全な完成段階前に、ユーザーテストや社会実験を行うんだけど、その被験者のバイトをかよこさんに頼みたくて今回ここに呼んだわけです!!」
「面白そう!!して、バイト代は?週何日、何時間のお仕事??」
「その質問からしてきたか!意外に現実的だね、かよこさんは。時給×万円だよ。基本土日の大学が休みの時も多いけど、平日に何時間とかもあるよ。テストや実験による。結構拘束されるかもね。遠出することもあるから、交通費などは全面的に出すよ。もちろん、学業が大事だから、そっち優先のスケジュールを組むよ。」
あまりにも、美味しい話だ。今、日頃はかなりの暇人だし時間的にもオッケー。しかし、時給が万札とかあまりに法外すぎる。
「それ、人体実験とかしないよね??あと、流星君の使用用途は?」
「詳しくは後日、みのり先輩と教授も交えて大学で話をしよう。今何言っても怖いっしょ。」
何日の何曜日、何時に西口教授の研究室に行って話を聞くことになった。研究棟の場所を教えてもらう。
「じゃ、そういうことで。今日、もっと、流星君とふれあいを持って欲しかったけど、これから俺たち実験だから、これでお別れ。本当に、本当に今日は展示に来てくれて、話を聞いてくれてありがとう!!入り口まで送るよ。」
「じゃあ、ロボット展に誘ったのは、これが目的だったわけね??」
「??、そうだよ。あ、あと、今日見聞きしたことは絶対に誰にも話しちゃだめ!!!家族にも。口の固さだけは誓って??」
かよこは了承する。
「また疑問が湧いてきたら気軽に俺に質問して。答えられる範囲でちゃんと答えるから。」
そこまで言うと、りゅうまは流星にスリープ!!と言った。流星は静かに目を閉じ、その場に座りこむ。
「周 囲 安 全 確 認 オッケー」
機械音声が喋り、プシューッと完全に動かなくなった。
りゅうまは長い手錠のような鍵で流星を机に結びつけると、じゃ、行こうか、とかよこを促した。
いくつもの認証扉、廊下を抜ける。
一階の関係者以外立ち入り禁止の扉まできて、お別れ。
「でも、ほんと、めったに出来ない機会だし、かよこさんしか出来ないことだし、最新のアンドロイド技術に直接触れる仕事だから、悪くないと思うんだ。考えといてね。」
帰りの電車で一人、色々と思案する。疑問や謎もかなり多い。
しかし、自分でもワクワクがおさまらず、頭が興奮しきってるのが分かる。
今度の教授の部屋での話が楽しみすぎてしょうがない。
アンドロイドについて色々とググりまくった。
「街の大きい書店で、予習用の本買おうかな。今から、機械工学についても勉強するとプラスになるかも‥」
色々とりゅうまに質問する事項を考えていると、ふと、思った。
「やっぱり、りゅうま君、下心の方じゃなかったんだ‥」
良かった、じゃなくて、まあいいか、と思った。
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