Fire & Swords …sometime Stones
「ここはお国を何千里、か。何だって俺はこんなことをしているのだ」
「ボヤくなよ……腹が減るだけだ」
「奪回作戦か……うまく行きゃ食料も手に入るはずだぜ。うまく行けばな」
仲間の死を目の当たりにし、疲れ果てた男たちは本音を漏らす。
彼らはアメリカ軍により奪われた飛行場を取り戻すべく島に上陸した部隊の一員である。先日の戦いで多くの被害を出し、這々の体で転身──もとい逃げてきたところであった。
この戦争当初、優勢であった日本は、ミッドウェー海戦以降、劣勢を強いられていた。日本はどんどん領地を失い、アメリカ軍の物量と合理性の前に敗色が濃厚になっていったのである。
そんな彼らのいる場所に彼の三柱が姿を現した。
「……腹減りすぎて頭がおかしくなってきたらしい」
「奇遇だな。俺もだ。いきなりへんな三人組が目の前に立ってるぞ」
男たちが空間を割って現れた三神に理解が及ばず幻覚として扱い始めた。
「え、幻覚じゃない? 八百万の神だって?」
「ははあ、霊験あらたかなるかな。御国への忠勤厚い我々に神々の加護があらんことを。アーメンソーメンナンマイダー」
「罰当たりな野郎だ。そんなお願いじゃ神様だって聞いちゃくれねぇぞ」
神を崇めない彼らに大柄の男が睨みつけてきたが、腹が減ってそれどころじゃない。というより、彼らは三神を幻覚以外の何者でもないと決めつけていた。
「主力部隊が引き上げたってのはガセだったんじゃないか?」
「命があるのが不思議だよ。俺の横にいた田中なんて振り向いたら頭に大穴が開いてたぜ」
「石では戦わなかったのかだって?」
「この幻覚はバカなのか?」
「石で戦うなんざ原始人に言ってくれや」
大柄の男が今にも掴みかからんとしていたが、その横の細身の男に取り押さえられた上に少女に叱られた。
「お上はまだやる気なんかね。あれを見る限り応援を待った方が良くないか?」
「全くだが、俺たちの言葉なんて届きもしない。むしろ、これが耳に入ればステキな指導が待ってるぜ」
「ん、何だ? 俺たちがどんな道具を使っているかだって?」
少女が微笑みかけて質問してきた。
「そうだな。俺たちゃこの銃が主軸だな。あとはこの手投げ弾だな。相手を殺すのも自決に使うのも好きにしていい代物さ」
「あとは機関銃を数挺、迫撃砲が何砲かあるくらいかな」
「それがなくなったらどうなるかだって? ああ、この銃剣で斬りかかるのさ。ステキだろ?」
「石……? まあ、腹立ち紛れに投げつけてやることもやぶさかでは無いな」
大柄の男がションボリして肩を落とす。この男はどれだけ石が好きなのだ、と彼らは呆れた。
「休憩は終わりだ。まったく、辛いねぇ」
「俺たちには守らなきゃいけない人がいるからな」
「私語は終わりだ。そろそろ行くぞ」
「神さま、御国のために働く俺たちにお力をお与えください、ってね」
背嚢を担いだ彼らの背中を三神は黙って見送っていた。
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