農耕と石 そして……時々 鉄

「おお! 黄金色の野だ。見事なコメであるな!」

「ここはどの辺りかな?」

「ここは今で言う中国の長沙あたりね」


 歴史を紐解くと紀元前1万年前から稲作が始まったとされている。米は栄養価、味、何より調理も容易であると言う三拍子揃った優れた作物であった。


 米の大量生産に成功した人類は狩猟生活を辞め、いつしか同一地域に留まる農耕生活に移行していった。それは、作物に使役される生活であり自由を手放した時代の幕開けでもあった。


「ほら見て。たくさんのヒトが武器を持って争ってるわ」


 農耕生活で同一地域に人が集まると社会が形成され、“村”が生まれた。村の中では、力ある者がおさとなり、村の自治に努めた。

 この時代、多くの村々が存在し、互いに争いあっていた。争う理由は、水や土地、それに奴隷の確保と様々である。

 画して相手を組み伏せた村は更に大きな村になり、また別の村を襲い、より大きくなった結果、支配階級が誕生して“国”となった


「見よ、彼らの手を! 石だ、石の武器だ!」

「ええ、そうね。あ、すごい。スリングも使っているわ」


 スリングとは投擲物を布で包み、遠心力により威力を高めて放つ道具である。石はどこにでもあるため、ただの布でも驚異的な武器として扱われた。


「あれ? でも、あの人、なーんか金属の武器を持ってない?」

「ぬ……ヌぬぬぅ! あの男か!」

「あれ鉄の剣ね。粗雑な作りだけど、木や石より扱いやすそうね」


 新石器時代には米などの穀物を栽培していた形跡が各所にある。初期の農機具は石を主体とした物だった。しかし、ヒトの中で金属の存在に気づく者が現れる。金属の有用性に気づいた彼らは、いつしか、金属製の農機具を使い始め、その金属を戦争に応用するのは自然な流れであった。


 磐造狒々命いわつくりひひのみことは憮然としながらも言葉を紡ぐ。


「ふ、ふん。たかが一人ではないか。石の前にはひとたまりも無いわ!」

「あれ〜? でも、あの人、すごく強いですよ」


 鉄の剣を振り回す男が石の武器を持つ集団に飛び込み、次々に倒していった。石器と比べて鉄の剣は圧倒的な破壊力を持っていた。男の剣は服の上から体を貫き、相手の石器の柄を叩き折る。


 いつしか男に恐れを為した村の面々が背を向けて逃げ出す。そこからは一方的だ。


「ググググッ、何たることか! たった一人に負けおって。おのれぇ!」


 磐造狒々命いわつくりひひのみことは足元にあった石を手に取り、やにわに集団へ投げつけた。


 だが、神の一撃は運良く当たらなかった。もし命中してしまうと、深刻なタイムパラドックスが起きるところだった。


「おじちゃま、ダメよ! 気持ちは分かるけど、神々はヒトに直接介入しては行けないっておじちゃま自身が言ってたじゃない!」

「ぬぅう、すまん時ちゃん。つい…」

「あれ? 彼らこっちに向かって来てません?」


 石を投げつけられた人々は磐造狒々命いわつくりひひのみこと達を新たな敵と認定したのだろう。嬌声を上げながら向かって来ている。


「仕方がないわ。じゃあ、次の時代に……」

「タイムワープ!」

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