籠城と石……はおまけ

「さあ、掛かって来い! この東夷アズマエビスどもが!」


 城壁に立つ男の指揮と共に、巨大な岩が放たれた。大岩はゴロゴロと転がり、壁を登ろうとする敵たちをなぎ倒していく。


 その転がる大岩を見て、三神は感嘆の声を漏らす。


時遡昇比売ときさかのぼりひめ、ここは?」

「急いでタイムワープしちゃったから結構時間を飛ばしちゃった。ここは日の本の……」

「何者だ! 怪しいやつらめ!」


 突如として現れた三柱を鎧武者達が槍を突き出して威嚇する。そもそのはず、ここは籠城中の城内ど真ん中である。三柱を敵と見做してもおかしくない。


 磐造狒々命いわつくりひひのみことは槍の先端が鉄であることを見て少々不快な顔を見せる。しかし、気を取り直して威厳のある声で制した。


「ヒトどもよ。我らは八百万やおろずの神々である。貴様らの敵では無い。その貧相な塊のついた武器を下ろせ」

「貧相な武器だと! 帝の命にある我らの武器を嬲るとは!」


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。磐ちゃんは別にそんな気はなかったのだが、普段の恨み辛みがつい口に出てしまった。皆も気をつけよう。


「まあ、抑えてよ。僕らは本当に神なんだ。君たちに干渉しないから勝手にやってよ」

「勝手にだと! キサマ、舐めた態度を!」

「おじちゃまに青銅焔神せいどうのほむらかみ、ダメよ。ヒト相手でも、もう少し言葉を選びなさい」


 説教されて二神は少しシュンとした。


 それを見て周りが戸惑いを覚える。この少女は一体何者だ? それ以前に、この峻険な城と鉄壁の守備の中、怪し気な三人はどうやって入って来れたのだ。事態を呑み込めず鎧武者達がざわつき始める。


 そこに、先程、指揮を執っていた男が現れ、鎧武者たちを怒鳴りつけた。


「何をしておる。敵を撃退したからとて、気を……ん、その者たちは?」

「私たちは八百万の神よ。それよりも、先程あなたが使った道具は石ね?」

 

 男は戸惑いつつも答えてしまう。


「あ、ああ。そうだが…」

「おじちゃまは石の神なの。私たちはどのように石が戦いで使われているのか見に来たのよ。さっきのアレは何?」


 男が混乱で二の句を告げない隙に時遡昇比売ときさかのぼりひめが無遠慮に言葉をぶつける。


「い、いや、そもそも、お前たちは…」

「アレは城壁を登ってくる敵を撃退するための籠城用の兵器じゃないかな」

「うむ、見事なる大岩であった! あれ程の岩を用意するなど生半なまなかでは出来ん。お主、かなりの岩好きだな」

「岩好き? いや、別にそうでも……」


 妙な褒め言葉に戸惑いを男は覚えたが、満更悪い気分でもなかった。


「ねぇ、教えて。この時代でも武器に石を使うの?」

「あ、ああ、石は使うぞ。籠城で相手に投げつけたり、乱戦で相手の顔面を殴ったりとな」

「うーむ、何だかスマートな使い方ではありませんね」

「スマ……? なんだって?」

「良いのだ。石とは本来かくあるべき道具である。鉄のように、お上品に装飾された武器など男の本懐ではないわ」


 一体何を聞きたいのだ、と男は困惑した。


 どうも敵ではないようだが、怪しすぎる。それも道理である。突然、得体の知れない者たちから石を使った戦い方を尋ねられれば、戸惑わない者はいない。


 男の混乱など他所に青銅焔神せいどうのほむらかみは尚も質問を重ねる。


「石は主流の武器なのですか?」

「主流、というより欠かせない物ではあるな。弓のように訓練しなくとも使える手軽な飛び道具だな」

「ヌゥ、どうだろうか。ワシの加護を与えるから石だけで戦ってみてはどうだ?」

「お、お主、本気で言っておるのか?」


 ゴロツキの喧嘩ではない。一所懸命の武士を相手に石だけで戦うなど自殺行為である。

 その時、男の元に伝令が駆けてきた。


「公! 新手がまた攻めてきております!」

「懲りない奴らだ。ああっと、お主ら、邪魔するならば早くここから立ち去れ。我々は忙しいのだ」


 これ幸いと胡散臭い連中の質問責めから逃れた男は足早でその場を去っていった。

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