従者の追憶

@araki

第1話

 私は想う。

 彼の王はいつも笑っておられた。

「なんて穏やかなお顔」

「心根の優しい方なんでしょうね」

「あの笑顔こそ国が豊かである証だ」

 彼の王はいつも笑っておられた。

「俺たちは貧困で苦しんでるってのに……。あの人は民の心が分からないのか?」

「冷酷なのよ。私たちは単なる駒。国を動かす部品としか思っていないんだわ」

「きっと王の周りは食べ物で溢れてるに違いない。余裕があるから笑ってられるんだろう」

 彼の王はいつも笑っておられた。

「おいあいつ、断頭台の上でも笑ってるぞ」

「信じられない。死ぬのが怖くないっていうの?」

「気が触れてるんだわ。玉座から引きずり下ろして正解ね」

 彼の王は――なぜ、あの涙を隠してしまわれたのだろう。

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