第八話 魔女のメイク屋さん
魔法をかけましょう。
あなたがとびっきりうつくしく、あなたらしくなれる魔法を。
はい、これで土台づくりは完成ですわ。ほっぺたを触ってみて。吸い付く感じがしますでしょう? このもちっとした状態が肌が『メイクしてもいいよ』と言っている合図ですの。
メイク道具はこちらです。スキンケアと同じ、妖精印のメイクアップ化粧品。日本の魔女と妖精がつくったオーガニック化粧品ですから、すべて石鹸で落とせます。帰りにサンプルをお渡ししますから、今日はそれでメイクを落として下さいませ。
ええ、ええ、妖精印と言えば、近所に紅茶屋さんがありますわね。とってもすてきな店長さんがとっても美味しい紅茶を淹れてくださる。まあ、常連さんですの? では、店内で何度かお会いしたことがあるかもしれませんわね。
あらいけない、話がそれました。
ベースメイクの最初に使うのはこちら。くすみを消して顔を明るく見せる
妖精印のメイクアップ用品にはすべて自然界のものの名前が付けられていますの。レッド、とかイエロー、なんて名前より、断然乙女心をくすぐられますでしょう?
……まあ、そんなことをおっしゃらないで。女性はいくつになっても乙女でいて構いませんのよ。わたくしも、ほら、いつの間にかこーんなおばあちゃんになってしまいましたけど、心は十六歳のままですわ。ふふ。
まあ、ごめんなさい。また手が止まっていましたわね。
この下地は目の周りにこう、少量をちょん、ちょんと塗って、さっと伸ばします。薄くムラなく、やさしく、ね。
ファンデーションはクリーム系ですわ。パウダーファンデーションはせっかく土台でつくった艶を消してしまいますから魔女のメイクには厳禁です。
塗るところは、目の下から頬骨の高い位置。ここだけであらが隠れて肌が綺麗に見えますわ。
こうやってたっぷり乗せて、スポンジでスタンプを押すようになじませます。伸ばし過ぎには注意してくださいね。他の部分は、スポンジに残ったファンデーションを乗せるだけでじゅうぶんです。
チークはこの段階で一度仕込みますの。使うのはこのクリームチーク。お嬢さんの肌色なら、この珊瑚色が合いますわね。こうやってスポンジで……ね? 素敵な色でしょう?
仕上げはこのミネラルパウダーです。これにはシルクが配合されておりますの。
こうやって手の甲に乗せると……ほどよい艶が出ますでしょう? 当店でリピーター率の最も高い商品ですわ。これを、この化粧ブラシでくるくるとつけていきます。
うすく、うすーく。シルクのベールをまとわせるように、優しく、優しく……ほら、磨かれてさらに艶が出ましたでしょう?
これでベースメイクは完成です。
これだけでいつものメイクとずいぶん違う印象になったと思いますわ。どうでしょう?
魔女のメイクは『変身させる魔法』ではなく『その人のもつ美しさを最大限に引き出す魔法』ですの。どんな顔立ちの人も、どんな肌質の人も同じメイクを提案していますのよ。それでも何故か、人によって仕上がりの印象が変わるんです。もちろん良い意味で。不思議でしょう?
あとは大きめのブラシでパウダーチークを払うように入れて、眉をアイブロウパウダーで優しくなぞって……艶のあるリップを乗せて完成ですわ。
驚きましたか? 基本の魔女のメイクはアイメイクをしませんの。艶を与えて、血色良く、余計な影や色はつけない。
物足りないと思いますか?
もちろん、気分やシーンによってアイシャドウを乗せたり、アイラインを引いたりしても構いません。当店でも色物は揃えておりますわ。今の季節でしたら、目じりにミントか
ふふ、そうですね。魔女のメイクは化粧をして化けることが楽しい人には向かないかもしれません。お客様は如何ですか?
あら、まあ。気に入って頂けてとても嬉しいですわ。
濃いメイクが流行った時代には
このあと会うお友達の反応が楽しみ、ですか?
ええ、それはもう、きっと驚かれますわよ。
魔女のスキンケアとメイクは重ねれば重ねるほど妖精の祝福を受けて綺麗になりますの。店舗に足を運ぶたびに綺麗になっていくお客様を見るのがこの仕事の何よりの楽しみですわ。
お客様もお気に召したなら是非、またお越しになって下さいね。スタッフ一同、心よりご来店をお待ちしておりますわ。
それでは、本日はご来店ありがとうございました。お友達とのお出かけ、楽しんできて下さいね。
参考資料:必要なのはコスメではなくテクニック 長井かおり
空想職人女子図鑑 星野ゆり @hosinoyurico
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