第12話

 

「俺のダガーあるのか?」


「ええ。 ほらここに」



 ライラがバックを開いて見せてきた。 あの少し反りの入った2本のダガーは確かに俺のものだ!



「でも、こんなダガーがあったからって何が出来るのよ」


「グギギ。 見カケヨリ丈夫ナ奴ラダ。 ダガ、モウボロボロダナ。 ツギデオワラセテヤル!」


「おいヤバイぞ! アイツ魔法詠唱してやがる! 早く渡してくれ!」


「分かったわよ! ほら、使いなさい!」



 ライラからダガーを投げ渡される。 受け取って軽く握ってみるが、特に変わった所はない。慣れ親しんだ感触だ。 よし、これなら何とかなるかもな!



「グギギ。 ソンナモノガ俺様ニ効クワケガナイダロ!」


「ふん……それはどうかな」



 ダガーに魔力を通して魔道士ゴブリンに投擲する。 ダガーは簡単に防御魔法を貫通して魔道士ゴブリンの体に突き刺さった。 魔道士ゴブリンの太腿から緑色の鮮血が飛び散る。


 

「グギャ! ナンダト!」


「そんな物がなんだって?」



 痛みで魔法の詠唱が中止されたようだな。 この隙に身体強化魔法を使い一気に距離を詰める。 魔道士ゴブリンの太腿からダガーを抜いて斬りつける。 ダガーは魔道士ゴブリンの皮膚を易々と斬り裂き、見る見るうちに出血が増える。



「グギギ……クソッ! ナゼ防御魔法ガ効イテイナイ!?」


「何でだろうなあ? お前の魔法が下手くそなんじゃあねえか」


「クソッ! クソッ! オマエミタイナ弱イ人間ガ俺様ニ勝テルワケガナインダーー!!」



 魔道士ゴブリンを斬り続けていると、頭に血が上った魔道士ゴブリンが魔法を連続で使ってくる。 かなり出血している筈だがタフだな。 防御魔法のせいでダガーが致命傷を与えられていないのか。

 闇雲にうって来た魔法を掻い潜って懐に潜る。 狙いは皮膚の薄い首筋だ。



「これで終いだな! ――って! うおぉぉお!!」



 もうすぐでダガーが魔道士ゴブリンの首筋に刺さる瞬間に、俺は何処からか飛んで来た魔法で吹き飛ばされた。 クソッ! 風属性の魔法か。 新手か!?



「このデカいゴブリン、見た目の割に素早いな!」


「私の魔法も中々当たりませんわ!」



 あんの勇者ども〜〜!! もう少しって時に邪魔しやがって。 あの距離なのに、かなりの威力だった。 ……結構痛かったぞ。



「せっかく作った隙が台無しだぜ。 さて、どうしたもんかね。 ライラ、何とかして隙を作れないか?」


「そのダガーの事は後で聞くとして、隙くらいなら、なんとか作れるかもしれないわよ」


「冒険者の秘密……って訳にはいかなそうだな。 まあいい、その話は後だ。 頼んだぞ」


「グギ……ギ。 不運ダッタナ。 モウ終ワラセル。 オ前達全員吹キ飛バシテヤル!!」


「させないわよ!」



 ライラが再び身体強化魔法を使い突っ込んでいく。 ライラが攻撃を仕掛けているが、やはり素手と杖では厳しそうだ。 防御魔法であまり効いていない。 それにアイツは魔法詠唱を続けている。あの魔法が完成したら俺達の負けだろう。



「聖なる光よ、我が敵を打ち払え。 ホーリーボール!」


「グギギ。 ……全然効カンナ!! ソノ程度カ!」



 ライラが魔法を放つ。 ホーリーボールは聖属性魔法の球体を発射する魔法だが、アイツにはあまり効いてない。 体を少し浮かせただけだ。



「その程度? どうかしらねっ!!」



 ライラが浮いた魔道士ゴブリンに追撃を仕掛ける。 杖を下段から上にフルスイングする。 杖はそのまま防御魔法にぶち当たり止まってしまうが、ライラはそのまま蹴りを繰り出す。 身体強化魔法を全て脚に集中させた渾身の蹴りだ。蹴りは防御魔法を突き破り魔道士ゴブリンの股間に直撃した。


 ――グチャリ


「グギャアアア!!」


「今よ!」



 ……何か聞いてはいけない音が聞こえてしまった。 男としては同情するが、隙が出来た!



「同情するぜゴブリン君! だが、隙だらけだぜ!」



 ダガーに魔力を込めると、刀身が蒼白く光りだし熱を帯びる。股間を抑えて、悶絶する魔道士ゴブリンの首筋をダガーで斬りつける。ギリギリの所で腕でガードされるが、刃は止まらない。 その腕ごと魔道士ゴブリンの首を刎ね飛ばした。



「グギ……ギ。 俺様ガ……人……間ニ……」



 魔道士ゴブリンはそう言って動かなくなる。



「ハァ……ハァ。 何とか倒せたな」


「……そうね。 もう魔力空っぽよ」



 俺も最後の一撃で魔力を殆ど使っちまったし、魔法を受けたせいで全身が軋む。

そういえば勇者はどうなった!?



「グゲゲゲ。 ドウシタ、モウオワリカ?」


「くそっ! 剣が効かない。」


「ここは一旦退散しましょうユウト!」


「ダメだよ。 こいつはここで倒さなきゃ!」



 勇者達と将軍ゴブリンの闘いはまだ続いているようだ。 お互い有効打はまだないようだが、勇者達のスタミナが切れ始めて徐々に押されている。加勢に行きたいが、こちらの体力も限界に近い。



「何か良い手はないのか……そういえば、あの店の偽物魔剣。 ……あれに似た事が出来れば……」



 勇者が何かブツブツ言ってるがよく聞き取れない。 何かするつもりなのか?



「シャルロット少し下がっててくれ!」


「え? わ、わかりましたわ!」


「ハアアァァァァアアアア!!」



 勇者がシャルロットを下がらせて何かし出した。 な、何だあの魔力!!

 勇者の周りに魔力が渦巻いている。 普通は魔力の状態で目に見える事はないが、あまりの魔力密度で目に見えるようになってやがる! 何をしでかすつもりだ!?



「勇者様は何をしているの!?」


「分からなねえが、ありゃあヤバイ! 人一人の魔力量じゃねえぞ!!」



 渦巻いていた魔力が全て勇者の剣に集まり始める。 魔力が全て火属性に変換されて剣に纏わり付いた。 最早刀身が見えず、焔自体が刀身のように見える。



「いくぞおお!!」


「グゲ……ナ、 ナンダソレハ!! グゲ……ゲ」


「熱っ!!」


「きゃあ!!」



 勇者がその剣を将軍ゴブリンに向けて振り下ろす。 剣と共に焔の莫大な熱量が、熱波となって離れた俺達の所まで届く。 受け止めようとした将軍ゴブリンの剣は、バターのように、瞬時に焼け切れてしまい将軍ゴブリン自体も真っ二つになってしまう。 勇者の剣は将軍ゴブリンの体を斬るだけではなく、滝の水を蒸発させ、地面を切り裂いてようやく止まったようだ。



「やり……ましたの?」


「ああ。 ……やったよな! ゴブリン倒せたんだよな!」


「クエストクリアだ!」


「やりましたわ〜!!」



 呆気に取られてる俺とライラをよそに、勇者とシャルロットが大喜びしてる。 ピョンピョン跳ねちゃって、嬉しそうだな。


 ああ、そうだ……そうだったな。 色々起こって忘れてたが、これゴブリン討伐クエストだったわ……。

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嫌われ者は主人公をただ観る 自堕落ペン @poke0310

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