ジャガー コツメカワウソ 題名「私が私であること」






私、コツメカワウソ。

私のいっちばんの友達はジャガー。

いつも一緒だよ。


そんなジャガーとの関係が、いつまでも続けばよかったのに。














最近、ジャガーが自分のいかだを私に引かせてくれるようになった。

私自身、いかだを引いてみたくて仕方がなかったから、最初は思いっきりはしゃいだ。ジャガーを乗せて川下りをすごい速さでしたりもした。


今も私が引くことが多いんだけど、時々ジャガーが引く時のいかだの速さが前よりも遅くなっている。

最初は気のせいかな、と思ったりもしたけど気のせいじゃないみたい。

ジャガーの体も、前よりも絶対細くなってる。毎日抱きついているから、そのくらいは私でもわかる。



どこかわるいの?

博士たちにみてもらおうよ。



そう私が言っても、ジャガーは「鍛錬が足りなくなってきたのかな」「大丈夫、このくらいどうってことないから」って言ってる。





そんなある日、あの出来事が起こってしまった。





私たちはいつものように、川下りを楽しんでいた。私がいかだを引き終わって、次はジャガーの番だね、と言っていたとき。

突然、誰かがこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。音の鳴っている方へ顔を向けると、やってきたのは焦った顔で酷く息切れをしてるインドゾウだった。


「何があった!?」

ジャガーがすぐに聞く。

「ゼェ...ハァ....森でっ....たくさんのセルリアンが出た...!」

「みんなは無事!?」

「キングコブラちゃんが、避難させてるけど....すごく数が多くて....」


その時だった。

急にインドゾウがくぐもった声を出して倒れた。

彼女のすぐ後ろにまでセルリアンの群れが来ていた。

インドゾウは、セルリアンの群れに囲まれ姿がすぐに見えなくなった。

ジャガーは私をかばうように腕を回し、水中に飛び込む。


セルリアン達は水をものともせずに私たちを追いかけてきている。しかし泳ぎは慣れてないらしく、距離は十分に引き離すことはできた。



対岸に上がった時に、ジャガーが私にこう言ってきた。

「私が奴らを引きつける!カワウソは助けを呼びに行って!」



なんで!ジャガーも一緒に逃げようよ!



私はそう訴えたけど、ジャガーは聞く気がない。

「私だって元ハンターだ。後輩たちが来るまでは十分戦えるさ」



セルリアンたちが川を渡り終えて、こっちに向かってきている。

「早くハンターたちのとこへ行って!時間が無いんだ!」



でっ、でも.....ジャガーが.....




その時、ジャガーが私に見たこともないような怖い顔で怒鳴った。







「さっさと行けっっっ!!!!!!!!!」








初めてジャガーに怒鳴られた。私はジャガーが怖くて、その場から逃げ出した。

泣きそうになりながら。

一生懸命走った。


幸い、セルリアンハンターのヒグマ、キンシコウ、リカオンの3人も騒動を聞きつけてじゃんぐるちほーの入口まで来ていた。事情を説明すると、彼女たちはまず取り残されているフレンズの救助に向かうと言った。


「ジャガーが食い止めてくれているなら、私たちは私たちにできることをする」


もちろん、それが最善の策だろうと私は思った。けれど、少しジャガーのことが心配だった。








ハンターたちは、迅速かつ丁寧にフレンズたちの救助をした。無事かどうかを置いて。


セルリアンに襲われたフレンズはみな1箇所に集められていたため、発見はしやすかったらしい。


無事に帰ることのできなかったフレンズのそばで、仲が良かった子が泣いている。


その悲痛な叫びが、私の不安をさらに煽った。








ようやく全員の救出が済んだ頃になっても、ジャガーは私たちのもとへ来ることがなかった。私はハンターたちに、ジャガーの様子を見に行きたいと言う。彼女たちもそのことについて気になっているらしく、一緒にいこうと言ってきた。私は頷き、ジャガーを最後に見た川のそばへと向かう。




リカオンが地面に顔を近づけてジャガーの匂いを探し、彼女に私たちがついていく。と、急にリカオンが顔を上げた。

「近いです、おそらくこの辺りにいるはず...」

私はジャガーとかくれんぼをするときに、よくジャガーが隠れていそうな岩陰をくまなく探した。すぐに鬱蒼とした草むらと岩の間に、見慣れた黄色と黒の模様が見えた。



いた!ジャガー!



私はジャガーのところへ駆け寄る。


けれど、そこにいたのは全身に傷を負い息も浅く、野生解放をしていないのにサンドスターが体から出てきている、変わり果てたジャガーがいた。



「そんなっ.....ジャガーさん!ジャガーさんしっかり!!」

キンシコウが駆け寄り、ジャガーの体を揺さぶる。ジャガーの目がうっすらと開いた。まだ意識はあった。

「....ボスを呼んできます、ボスなら、ボスならきっとジャガーさんを助ける手立てがあるはず」

リカオンがそう言って駆け出そうとした。



ヒグマが、リカオンの腕を掴んで彼女を引き留めた。

「ヒグマさん!?どうして!?」






「....もう、手遅れだ」

ヒグマはそう言って、口を真一文字にして俯いた。ジャガーからサンドスターが出ていくのは留まるところを知らない。




「コツメカワウソ.....無事でよかった....」


何言ってるの、ジャガーが....ジャガーが....!


「言っただろ、ちゃんとハンターが来るまで戦えるって....」


嫌だよ....!ジャガーがいなくなっちゃったら....誰が一緒に川下りしてくれるの....!




ジャガーが突然、自分の毛皮スカートをぼろぼろの爪で引き裂き、切り取る。そうして細長くなった毛皮を素早く私の二の腕に巻き付けた。

ジャガーは私に巻き付けたそれをぽんと軽く叩き、手を添える。


「これで、1人じゃなくなったよ....私はいつだって、コツメカワウソのそばにいるから...!」


ジャガーがにかっと笑顔で私を励まそうとしている。私は正反対に、涙がぼろぼろと止まらなかった。



ふいにジャガーの添える手が滑り落ちた。


....ジャガー?


ジャガーは、薄目を開けてはいた。けれど、その目はどこか虚空を見ていた。私はジャガーを揺さぶった。反応がなかった。

そばにいたキンシコウは涙をぽろぽろと零しながら歯を食いしばっていた。リカオンは呆然と佇んでいた。ヒグマは変わらず俯いていた。


そのあとも、私はジャガーのことを呼んでみたり、体をゆすったりした。




けれど、ジャガーがそれに応えてくれることは二度となかった。





















あの事件から、どのくらいの時間が経っただろう。


じゃんぐるちほーの奥には、博士たちの手によって立ち入り禁止のテープが張られている場所がある。あの事件以降、じゃんぐるちほーから他のちほーに移動するフレンズもいた。前までのような生き生きとしたじゃんぐるは、もうそこにはなくなっていた。




今でも私は、たまにいかだで川下りをしている。いかだの上には、私の荷物があるだけで他には誰もいない。

それでも私は、いかだで川を下っていく。


あの事件のときに死んじゃったフレンズたちのために、博士たちがお墓を作ってくれた。

ジャガーもそこでみんなと一緒に眠っているから、私はジャガーに会いに行くために川下りをしている。


いかだをお墓の近くに止めて、私はみんなのお墓に向かっていき、そしてしゃがむ。



「ねぇジャガー!久しぶりだね!」


私はお墓の中にいるジャガーに向かって話しかけた。


「5日前にもきてたけど、私にとっては久しぶりなんだよ!ジャガーは私に会えなくて寂しかった?あっでもみんながいるからそうでもなかった?どっちなんだろ!」


そこまで言ってから私は一息つき、また話しかけた。


「最近さ、私が私であることって何だろうって思ってるんだってことは伝えたよね?それでね、私考えてみたの。私って何だろうってね」


お墓の上はちょうど、青い空が見える場所だ。私は上を向き、空を見上げた。あの時と変わらない青さが広がっていた。


「やっぱり、どう考えても私は『楽しいことを思いっきり楽しむ』っていうフレンズなんだと思えたんだよね!あ、当たり前かぁ!」


私はひとしきり1人で笑った。ジャガーが巻いてくれた毛皮の端が、少し風になびく。


「だからね、ジャガー!私はやっぱり『楽しいことを楽しいって思える』、そういうフレンズでいたいなって思ったんだ!今日はそれを伝えに来たんだよ!」


ジャガーの声は聞こえなかった。けれど、私にはジャガーがそこに確かにいるように感じた。


「あ、お腹すいてる?またみんなの分のじゃぱりまん、持ってきたよー!ちょっと待ってて!」


私はいかだに戻り、荷物を抱えて戻って来る。そして墓の前に、じゃぱりまんをたくさん置いた。


「それじゃあ一緒に!いっただっきまーすっ!」


私もじゃぱりまんを持ち、みんなの前で一緒にじゃぱりまんを頬張る。






以前のようなじゃんぐるちほーの活気が、確かにそこにはあった。

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けもフレ短編集〜特定の人にささるショートストーリー〜 井の中の蛙 @FlogInTheWell

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