パフィン(ニシツノメドリ) 題名「同じ目」
「今日のらいぶもきらきらしてたねー」
「ペパプのみなさんすっごい輝いてたでーす!」
らいぶが終わった帰り道。タヌキとパフィンはそんなことを話していた。いつもなら今日のらいぶの話題でいっぱい盛り上がれるのだが、今日は少しだけ違った。
「うーん....」
「タヌキちゃんどうしたんですかー?」
「うん、えっと....らいぶが終わった時、コウテイさん元気なかったなーって....」
「そうですか?パフィンちゃん覚えてないですー」
「私の見間違いかもしれない、けどね、らいぶが終わって帰る時にコウテイさんが私たちの方をちょっと見て....なんだか悲しそうな顔をしたの。まるで誰かを探しているような目だったなぁ」
そしてタヌキは前を見ながら、こう言った。
「パフィンちゃんは、誰かを探してたりしてる?って、そんなことないか」
パフィンの足が止まる。しばらく歩いてからそれに気づいたタヌキが立ち止まり、振り返る。
立ち止まった彼女は少し俯いていた。
「....パフィンちゃん?」
「....ちょっと喉乾いてきました、お水飲みにいってきまーす!」
そういって彼女は空へ飛び上がって森の奥へとへ飛んで行った。
「あいかわらずパフィンちゃんは元気だなぁ」
あんなに元気なんだからコウテイさんと同じ目をしていたのも、最後の声が震えていたのもきっと何かの間違いだろう。
「私疲れてるのかもな....帰ったらちゃんとねよう」
タヌキは自分の縄張りへと足を向かわせた。
パフィンは森の一番奥にふらふらと降り立つ。そのまま数歩歩き、一番近くにあった木に寄りかかるとすぐに膝が崩れてへたりこんでしまう。
彼女は自分の胸に手を当てて落ち着かせようとする。しかし目からはとめどなく涙が溢れ、口からは鳴咽が漏れ出す。
思い出したくない、けれども思い出してしまう光景が【また】目の裏に映し出される。
自分をかばった、エトピリカちゃんが
セルリアンの触手に身体を貫かれ
貫いた触手の周りの黒い
そのままだらんと無抵抗になった彼女が食べられて
ハンターに助け出されても、動物の姿に戻っていて
貫かれた跡の穴はまだ開いてて
目はより黒く濁り、見開かれていた
すぐにハンターにその目は閉じられたけど、あの生気を失った瞳の色は忘れられない
まだ口からは鳴咽が噴き出る。彼女のわずかに残った理性が、大声で泣かせることに羞恥心というブレーキをかける。
彼女は必死に深呼吸をしようとする。しかしその息すらも震えてしまい、楽にできない。
それでも彼女は心を落ち着かせるために震えを抑えようとする。
森の奥に、彼女の呻きと呼吸音が吸い込まれていく。
心が落ち着くまでのしばらくの間、彼女は地面に座り込んで自分の胸に手を当てていた。
涙が出なくなり、息の震えもなくなる。彼女はゆっくりと立ち上がり、地面にできた涙の跡を足で消す。そしてまたいつもの生活に戻るため、小さな翼を羽ばたかせて大空へ舞う。
彼女が飛び立った後。そこは、彼女が泣いていたという痕跡はどこにも残っていなかった。
森の奥の
それから数日後。
彼女は一人、海岸で岩に座ってジャパリボーロを食べている。
いつも一人で食べている時、彼女は決まって空へ食べ物を高く放り投げてから口でとって食べる。
遊びの面もあるが、最大の目的は
【空の上にいるあの子にも、おいしさを分けてあげるため】
というもの。
「モグモグ....えへへ、おいしいですかー?もっとあげちゃいますねー」
そう言って彼女はまた、いつものようにボーロをもう一つ手に取り空へ高く投げ上げる。
その時、放物線の頂点にあったボーロが一瞬のうちに消えた。
下で口を開けて待っていた彼女はボーロが落ちてこないことに少し違和感を覚えた。けれどもだんだんと目に涙がにじみだす。
(エトピリカ、ちゃん....?)
「....ちょっと目にゴミが入っちゃいました」
彼女は目をこするようにして涙をぬぐう。
「パフィンちゃーん、そこで何してるの?」
そこへタヌキが声をかけてきた。
「あ!タヌキちゃん!パフィンちゃんはジャパリボーロ食べてる最中でーす!」
彼女は振り向き、にっこりと笑う。
彼女が泣く顔を想像させないような、とびっきり嬉しそうな顔で。
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