4年前のこの場所と1年後のこの場所で

小鳥遊凛音

4年前のこの場所と1年後のこの場所で

いつもの朝・・・


「早く起きなよ、時間無くなっちゃうよ?・・・」


声がした。


「ん・・・昨日あまり寝ていないんだ、もう少し眠らせてくれよ・・・」


「もう、そうやっていつも夜更かししているからそうなるんだよ?そんなのだと、いつか遅刻しちゃうからね?」


「仕方無いな・・・眠いが起きるとしようか。」



今、起こしに来ているのは、丁度俺が中学一年の頃に出会った一人の少女、名前は高坂雅(こうさかみやび)

明朗活発、男子からも人気がある面倒見が良い女の子だ。

そして、起こされている俺は、塚原海(つかはらかい)。雅も俺も同じクラスの高校二年、毎日こうやって雅が俺を起こしにやって来る。



雅「ご飯出来てるっておばさん言ってたから早く食べちゃってって言ってたよ。じゃあ、私下に降りてるから。」


海「分かった、着替えて行くよ。」


俺は急いで着替えて食事をする為一階へ降りて行った。


海の母「海、いつも雅ちゃんに迷惑掛けずに起きられないの?」


海「仕方無いだろう?色々と忙しくて寝る時間も惜しんでるんだから。」


雅「いえ、おばさん、私なら大丈夫です。海には色々と助けられていますし、それに・・・」


母「雅ちゃん、そんなにいつまでも背負う事は無いんだよ?こうやってこの子も元気にやっている事だし、例え元気じゃなかったとしても、あなたを責める事は何も無いんだから。」


海「もう、朝っぱらから何辛気臭い話してんだよ、飯が不味くなるから止めろよな。」


俺は二人の話を無理矢理止める。そう、もうあの時の事で雅を思いこませたく無い。

飯を早く食べ終えて、俺と雅は学校に行く。

中学一年のあの出来事の後、しばらくしてからこのような生活が続いている。


「私立星ヶ浦高等学校」・・・雅と俺が通う学校、その二年C組が俺たちのいるクラス。

今日もいつものような無駄に明るい(二つの意味で)教室、二人揃って入って行った。


「よっ、今日も仲睦まじぃお二人さんのご登場ですか?」

定番の冷やかしをして来たのは、友人の後藤翼(ごとうつばさ)


「ちょっと、翼、毎日冷やかさないの!」

そして、それを止めるのは、雅の幼馴染の成澤華(なるさわはな)


翼「いいじゃん、いいじゃん、もうカップリング成立みたいなもんだし。」

華「はぁ~、あのね、そうやってバカな事してると今度のデートキャンセルするわよ?」


溜息混じりにあきれ果てた表情でこう言う二人は所謂彼氏&彼女の関係だ。


この学校は私立で名前の割に校風は自由奔放に近いので居心地が良い。


高校二年と言う事もあってか、そろそろ将来についての進路等を考えて行く必要があるのだが、俺はまだそんな感覚があまり無く、どうしようか迷っている最中・・・


ある日のホームルーム、その迷っている事を強いられる事になるのだが・・・


担任「よし、今日は先日から言っていた進路希望調査票の提出日だったな。親御さんと話合って決めて来たか?」


致し方無く、一応は大学進路希望としておいたが、特にどこの大学と言うのを考えておらず、一番近場の人気が割と高い大学へ希望を入れておいた。

雅は頭も良いしきっとレベルの高い大学へ希望するんだろうな・・・


そんなこんなで放課後、帰宅途中で雅が俺に進路希望調査票の事を聞いて来た。


雅「ねぇ、海は進路どうするの?」

海「そうだなぁ、とりあえず家から通える様に出来る限り近場の大学を志望するつもりだが・・・」

雅「相変わらず適当な感じなんだね・・・将来掛かってるんだからやれば出来る海ならもっとレベルが高い所狙ったらどうなの?」

海「狙った所で特に将来が見えていないし無理矢理しんどい思いをしなくてもとは思うのだが・・・」


俺がそう言うと小声だったからはっきりと聴こえなかったが雅が何か言ったような気がした。

雅「じゃあさ、私のお婿さんになってくれないかな?・・・なんて・・・」

海「ん?何か言ったか?」

雅「えっ!?いや、何でも無い、何でも無いよ、気にしないで!!」


進路の話をしながら歩いていると丁度二人の自宅が分岐する地点に差し掛かり、お互い離れた。

俺は、さっきの小声で何かを言った雅の表情が妙に引っ掛かって気になっていた。


夜、進路をもう少し真剣に考えた方が良いのかもと思いながら色々と考えていたら、雅からアプリの電話が入った。


雅「あっ、海?こんな時間にごめんね?」

海「あっ、いや、俺もそろそろ寝ようと思っていたんだけれど寝付けなさそうだったから進路について考えていたんだ。」

雅「そうだったんだ!何か考えが変わったりした?」

海「まあ、大学進路と言うのは変えずに雅が言っていた事をもう少し具体的に考えてみようかと・・・そうだ、雅は進路どう志望したんだ?もし良ければ聞かせてくれないか?」

雅「う、うん、その事なんだけどね・・・私も実ははっきりとしていなくて、先生にもう少しだけ待って欲しいって言ったんだ。」

海「そうだったのか?雅なら頭も良いし将来がほぼ約束されているような気がしたからてっきりエリート大学とか志望していたのだと思い込んでいたのだが・・・」

雅「もう、海ったら私を美化し過ぎだよ~、私だって色々とダメな所もあるしそれ程じゃないんだよ?でも海の目に私がそんな風に映っているとすればちょっと・・・嬉しいかな。」

海「・・・・・」


最後の方のセリフが少し悩まし気で色っぽく聴こえた俺は恥ずかしくなり言葉が出なくなった。


雅「ねえ海、今朝、私がおばさんと話していた時、寂しそうな表情していたけれど、あれって・・・」

海「あぁ、もうその話は止めようぜ、俺ってどうも暗い話になるとダメなんだよな、ははっ・・・」


俺はあの時の事を思い出してしまうと色々と不安になって怖くなる時がある。出来るだけ忘れるようにしているのだが、時折夢に出て来る時があり、どうも克服するのに時間が掛かりそうだ。






4年前・・・・・・・・・・


「私立四つ葉中等学校」

公立の小学校から入試に通って中学校からは私立へ入る事となった。

場所も地元から離れ若干遠くなったので友達もいなかった俺は上手くやって行く事が出来るか不安と、楽しい事があるか未知への期待で胸がいっぱいだった。

そんな事を考えながら入学式が終わり、両親と帰ろうとしていた時・・・


海の父「あっ、悪い、会社から電話があって、どうも急ぎの仕事が入ったようだから会社に行って来る。悪いが海を頼む。」

海の母「あなた、あまり無理はしないで、仕事も大事だろうけれど、あなたの体の方が大事なのだから・・・」

海の父「あぁ、いつもありがとう、仕事が終わったら直ぐに帰るから・・・海、母さんを頼むぞ、お前ももう中学生だからな!大事な人は守ると言う事も必要な事だから!」

海「うん、父さんも家族を守る為に頑張ってるもんね、分ったよ!行ってらっしゃい。」


それが俺や母さんと交わした最後の父さんとの会話だった・・・

父さんは、仕事の為に会社に行く途中に乗った電車が事故を起こし還らぬ人となってしまった。

父さんが俺に教えてくれた事は数えきれない程だったが、最後のセリフは今でも明確に覚えている。そして、それは必ず実行しなければならないのだと胸に誓った。

父さんの事故を知ったのはそれから数か月経った後だった。

何故そんなに時間が掛かってしまったのかと言うと、入学式の日父さんと分かれた後母さんと駅の方へ歩いて行った後

桜が一面に咲いていた並木道を通っていた時の事だった。

桜が綺麗だなと母さんと話をしながら歩いている時、物凄い爆音をした車が並木道の横を通る広い道路を俺達の近くへ飛ばして来るように音がドンドン大きくなって来た。

何だろう?と思いその音がする方へ目を向けると丁度青信号で道路を横切ろうとしていた女の子がいる事に気が付いた。

幸いにも爆音が大きかった為、思っていたよりはバイクは若干離れていた。

何か妙な胸騒ぎがしたせいもあってか、俺はその女の子の近くへ走って行った。

案の定、バイクは止まらずその女の子めがけて突っ込んで来た。

俺は無我夢中でその女の子を突き飛ばした。

その瞬間・・・・・・・・・・





「意識が!意識が戻ったぞ!」

・・・・・・・・・・


何が起こったのだろう?何か声が聴こえる・・・慌てているような、喜んでいるような?

意識が戻った?

恐らく俺の事だろうと・・・

でも何で?

あっ、そうか、俺、あの時轢かれたんだ。それでここは、病院だろうな、きっと。

俺が轢かれたのであれば、恐らくあの女の子はきっと助かったのだろうか?

ふと気になった。

そうこう考えていると俺は意識がはっきりとして来て、現在何処にどう言う状況に置かれていたのか把握する事が出来るようになった。


海の母「かっ、海・・・・・良かった、本当に良かった・・・」


涙を浮かべ母さんは安堵の笑みを浮かべながら俺を抱きしめていた。

その時、父さんが亡くなった事は俺には告げずにただ、一人抱え込んでいた。きっと俺が生きていた事が相当嬉しかったのだろうと今となっては分かる気がする。

母さんに、俺はどれ位意識が無かったのかを聞いてみたら、どうやら1週間程度だったようで、何故なのか分からないが、そんなにも?それ位しか経っていないのか?等と思う事も無く、ただ冷静に現状を飲みこむ事が出来た。


病室のベッドの横にもう一人立っていた。その人は涙を流しながら腰が抜けたかのようにストンと地面へ座る形で崩れて行った。その後思いきり声を出して泣き出してしまった。


海「君は、確かあの時の・・・」

女の子「っぐ、っっぐ、はい、あの時、君に助けてもらったのは私です・・・」


泣きながら女の子は返事をした。


海の母「海が助けたこの子は怪我も無く無事だったよ。」

海「そうか、大丈夫だったんだ。それは良かったよ。」


何故か全身から力が抜けたように俺は安心してほっとした気持ちになった。

バイクに乗っていた人物は、どうやら薬物中毒者だったらしく、事故の影響で亡くなったらしい。


意識は戻ったのだが、全身打撲、手や足の一部が骨折等をしていた影響もあり、3か月程入院が必要になった。

入学しょっぱなからこの様な有様ではあったが、大事に至らずに済んだおかげで何とか今の自分がいるのだろうと思う事にした。




3か月後・・・


俺は無事に退院して入学した学校へ通う事となった。

1年C組だった。


担任「入学してもう早いもので3か月程経ちましたが、今日から新しいと言うと語弊があるかもしれませんが、クラスメイトが通学する事となりました。彼は、入学式の日に事故に遭ってしまい、今日まで入院していました。ですがこうやって元気になって帰って来てくれる事が出来ました。本当に良い事だと思います。色々と不安もあると思うので皆で彼を勇気づけながら一緒に仲良くやって行きましょう。それでは、自己紹介をお願いします。」


海「えっ・・・と、初めまして、塚原海と言います。先生も言っていましたが、入学式の日に事故に遭ってしまい、今日が入学してから初めての登校になってしまいましたが、何とか皆に追いついて行きたいので色々と迷惑を掛けるかもしれませんが、宜しくお願いします。」


パチパチパチパチパチ・・・・・・


皆が拍手をくれて温かい空気に包まれた。

正直堅苦しい挨拶が昔から苦手でこの日も気が乗らずだったが何故かこの後は清々しい気持ちになれた。


初登校の帰り道・・・


学校を出て電車で家に帰ろうとしていた時、後ろから自分を呼ばれるような声がした。


「・・・く~ん、待って~・・・」


海「ん?誰?って君は、あの時の!」

女の子「うん、ごめんね、呼び止めてしまって。でも驚いたよ、君と同じクラスだったなんて!」

海「えっ!?そうだったんだ!?ごめん、今日なんか緊張していて誰が誰か頭に入っていなくて・・・」

女の子「えっ!?そうだったの?凄く冷静な感じだったからてっきり把握出来ていたのかとばかり。」

海「何故だか小学校の時からずっとそう言う風に思われていて。」


そうだ、何故か俺はいつも冷静沈着な感じで見られていた。きっと父さんと母さんの面影が5:5で反映されているのだろうと思った。


女の子「それじゃあ、私の名前も知らないよね?私は高坂雅って言うの、宜しくね。」

海「えっと、塚原海です。こちらこそ宜しく・・・」


ちょっと照れながらその女の子、雅と自己紹介をした。


その後、電車に乗り、降りる駅も彼女と同じで更に驚いた。

どうやら家からそれ程距離が無いほぼご近所さんだった事もこの時に知ったのだった。



家に帰宅した、母さんが出迎えてくれた。

だがこの日の母さんの表情はいつもの笑顔では無かった。

今にも泣き出してしまうかのような感情を押し込めているような無理矢理な笑顔のように思えた。

俺は、聞いた。何かあったのか?と・・・


海の母「やっぱりあなたは勘の鋭い子だったわね。そうよ、実はあなたが事故に遭った日、お父さんが会社へ仕事に行ったでしょ?・・・」


今にも泣き出しそうな顔になって来て、俺は悟った、これは父さんは亡くなったのだろうと・・・


母「その表情だと私が何が言いたいのか分かったようね。そう、お父さんは電車の事故でこの世を去ったの。」


何故か涙も何も出なくて、冷静な気持ちでいられた。


海「そうだったんだ。事故から3か月経ったのに俺もあの日に死にかけたけれど、きっとこれは父さんが身代わりになってくれたんだろうな・・・後、大事な人かどうか分からないけれど人を守る事は出来たのだからきっと父さんとの約束も一つ叶えられたかな・・・母さんも辛かっただろう?ありがとう、俺は大丈夫だよ。」


満面の笑みでそう答えた。きっと自分の笑みなんて分からない、ひょっとしたら思いきり涙が出ていたのかもしれない。ただ、そんな気持ちにでもなれたかのように何故か不思議と悲しくは無かった。


父さん、今迄本当にありがとう、これからは、離れてしまうけれど、天国から俺たちの事見守っていてね。








高校三年


あれから1年経ってしまい、そろそろ卒業間近となってしまった。

色々と考え、相談しながら俺は、1ランク上の大学、電車で約1時間半の所の大学を受験する事となった。

雅も何故か俺と同じ大学を受験する事にした様子で、色々と聞きたい事もあったのだが、とりあえず、中学1年の頃から何故かずっと同じクラスだったので、あまり違和感は感じていない。

そんな願書の提出も近づいて来たある日の事。



雅「海、大学行っても私達一緒だよね?」


いつもより心なしか表情が真剣な面持ちのような気がした。


海「あぁ、勿論だよ。あの時雅がやれば出来るって少しでも上の大学を薦めてくれたから考え直す事が出来たんだ。ありがとう。でも雅ならもっと上の大学でも目指せたんじゃないのか?」


雅「ううん。私はいくら上の所に行けても君がいてくれないと意味が無いの。」

海「えっ!?それって・・・?」

雅「そう、私、ずっと海の事が・・・うん、好きだった」

海「いや、雅なら、モテるのに、俺なんか・・・えっ?」

雅「ふふっ、海、相変わらずだね。冷静な顔してるけれど思いっきりキョドってる。」

海「そっ、そりゃあ、そうもなるだろう?」

雅「私達が出会ったのって丁度この辺りだったよね?」


そう、俺たちが中学の入学式のあの日に出会ったこの桜並木の道、ここで雅と出会った。


雅「私が、海に助けてもらって私、本当に嬉しかった。でも、それで私が海を好きになったって海思ってるよね?」


雅が不意にそのような疑問を残す質問をして来た。


海「待て、それってどう言う意味だ?俺たちが初めて出会ったのって中学入学の日のここだよな?」

雅「やっぱり、海あの時の事まだ思い出していなかったんだね・・・」

海「何だ?本当にどう言う意味なんだ?あの時って一体何の事だよ?教えてくれないか?」

雅「ごめんね、隠しているつもりは無かったんだ。海と私が会っていたのって、確かにこの場所なんだけれど、中学の入学の日と言うのと初めて出会った、と言う所は間違えなんだ!」


雅の何かを知っているような口調でのセリフに俺は、過去にまだ何かあったのかと不安な気持ちになる。


雅「海ってさ、小学校の頃の記憶鮮明に覚えてる?特に小5の春の頃の記憶なんかさ?」

海「ん?小5の春?って事は小6直前って事?」

雅「うん。本当は、海のお母さんにも自分で思い出せる迄言わない方が良いだろうねって話をしていたんだけど、私そろそろ耐えられそうに無いから、早く思い出して欲しいなって思うから、少し意地悪するかもしれないけれど真実を海に話するね。」


何か物凄く怖い気がした。でも俺も確かに記憶が飛び飛びになっていて時々変だと思っている事がしばしばあったのでそのまま雅の言う事を聞く事にした。


雅「恐らく私との記憶がほとんど飛んじゃってるんだと思う。海が中学の時に初めて登校kして来た時の帰り道の様子を見ていた時から何となく感じていたんだけれど。実は、私達ね、幼馴染なの。産まれた病院が同じで、親同士も仲が良くて、昔から近所で付き合いも深かったんだけれど・・・」


嘘?だろ?それ程付き合いが深いなら何でそんな大切な部分だけが抜け落ちているんだよ?取って付けたような設定だろう?って思えるような話だろう?何か無意味にモヤモヤとして来た。


雅「それで、何でこの場所でその時にいたのかって所だね。丁度中学はどこに行くか二人で話しながら親とそれぞれ相談したりしながら一緒に決めたんだよ。どうしてか、それは、お互いにずっと一緒にいたいねって言う事を言っていたからなんだよ。」

海「・・・・・」

雅「それでね、本当は私、その日に海に告白しようと思っていたの。桜も満開で綺麗だったし、けじめを付けるのに小学生だった当時で少し早いかなとは思ったんだけれどそれも素敵かなって思ったから思いきっておめかししたし、喜んでくれるかな?とか色々と不安もあって前日も眠れなくて、さあそろそろ告白しようかなって思った時に丁度私達信号が青だったから道路の真ん中にいて、告白して道路を渡しきろうとしたんだけれど、その時に、急に車が接近して来たんだ。それで・・・」

海「もういい、ダメだ、それ以上言わないで・・・くれ・・・」


何故かその後の言葉を聞いてはいけない気がして無意識の内に雅の話に釘を刺してしまった。


雅「・・・」

海「ごめん、何か分からなkけれど、それ以上聞いてしまったら・・・」

雅「うん、まだちょっと早かったかな、こっちこそごめんね。でも、私が海の事を好きだった事と、中学入学の日が切っ掛けだったって訳じゃないって事だけは知っていて欲しかったの。私待ってるから、海が全ての記憶を取り戻してくれる日を。」

海「あぁ、何か俺の方こそごめん。出来るだけ早く飛んでいる記憶が戻るように努力してみるよ・・・」


とは言え、一気に真実なのか分からない事を突きつけられてしまい、頭の中では混乱気味になっていた。

中学校、大学、桜並木、雅・・・中学校と志願している大学が割と近い距離にある為か、久しぶりにこの並木道を歩いているのだが、何か妙な気分になって来た。中学校の入学式の日に雅を初めて見掛けたがそれは俺の記憶が無くなっていたせいだったとすると、その日雅だと知らずに女の子を助けた・・・とするとその時には既に記憶喪失になっていた訳で・・・

色々と考えながら雅と歩いているとふと見た事の無い雅の部位が見えた。

首筋の傷跡?何だろう?こんな所に傷跡なんてあったのか?一体何が原因で?

あまり女の子の体の事を四の五の考えるのもいけない気がしているのだが反面何か無性に気になって仕方無かった。

そうこう考えている内に頭が痛くなってしまい・・・


海「うぅっ・・・」


俺はその場に倒れ込んでしまった。



「ぃ・・・かい・・・海、大丈夫?」


目が覚めるとベッドの上だった。

病院の?あっ、そうだ、桜並木を雅と歩いている時に色々と考えていたら頭が痛くなってそれでか・・・


雅「海、良かった、目が覚めたんだね。本当にごめんなさい。私の勝手な判断で海を思い詰めてしまって。」


唇を噛みしめるようにして雅は俺にお詫びした。


海「いや、俺の方こそ迷惑を掛けたようですまない。ただ、何か思い出せそうな気がして来たんだ。」


雅「それって昔の記憶?」


海「あぁ、あまり触れると良く無いかもしれないが、雅の首の傷跡を見た時に何か思い出せそうな感じになって・・・

あっ、頭が又・・・」


雅「海?海大丈夫?先生呼ぶ。」



雅はブザーを押して先生を呼んでくれた。








私の名前は高坂雅

小さい頃から一人の幼馴染の男の子とよく遊んでいたの。

その子は私がいじめられている時にも助けてくれたり、

困っている時には必ず助けてくれた。

その子の名前は塚原海君。

いつも一緒で知らない間に私は海君の事が好きになっていました。

小学校一年生のある日、私は親と喧嘩をして家を飛び出してしまい、知らない街迄行ってしまい、帰られなくなってしまった。

ちょっとした子供の意地の張り方や強がり、そんな事で私は心細くその知らない街を彷徨っていた。

何故か海君の事が頭を過り、海君と会いたくなってしまった。

夕方、もう薄暗くなって来た頃、とうとう私も限界だったのかしゃがみ込んで泣き始めてしまって、段々と寒さも強くなり掛けた頃、遠くの方から聞き覚えのある声がした。

海君だ!!

海君が迎えに来てくれたんだ!

私は嬉しくなって「海く~ん、ここだよぁ~!!」

と叫び、海君と会う事が出来た。

海君は「皆心配してるよ?早く帰ろう。」と優しい笑顔で怒る事も無く私を家に連れて行ってくれた。

他にも色々と海君には助けてもらった。そう、中学校の入学式の日。

私も海君を助けたい・・・

そう言う気持ちも芽生え始めていた小学校5年生の春。

中学校は私立にしようと志望する中学校へ親と海君と一緒に出掛けた。

親はカフェで話をしながら海君と私は桜並木が綺麗だからと少し散歩をする事に・・・

好きになった海君に告白しようと思っていたのでおめかしをして気持ちをしっかりと持って海君と散歩していた。

信号が青になったので道路を渡りカフェに戻ろうとしていた時、フラフラしていた車がこっちに向かって急接近して来た。

海君は私より気付くのが少し遅かったせいか、私が彼を突き飛ばして私は車に撥ねられた。

意識が戻ったのは1月後の事だった。

幸いにも私は今も生きている。自動車を運転していた人は、急性の心筋梗塞で私たちを牽く頃には既に死んでしまっていたらしい。

後、わだかまりに残っている事は、告白しようと思っていた海君がショックを受けたせいで記憶が部分的ではあったが飛んでしまっていた事。

まさか、あの思い出したく無い場所で悲劇が起こるとはその時には思いもよらなくて、今度は君に助けられちゃったね。

これもきっと、私たちを結び付けてくれる一種のスパイスなんだろうな・・・と思うようにしている。

そうでも無ければ気が狂いそうになってしまうから。

さて、告白は出来たけれど、肝心の本人の記憶がまだ鮮明じゃないからなぁ・・・

後は時間が解決してくれる事なのだろうか?

海君は明日には退院出来そうだって言う話だから良かったけれど、私も焦り過ぎちゃったかなとかなり反省した。

私の首の傷は、そう、あの日の事故で出来た傷跡なんだよ。でも、あの時は、少しでも海君に恩返しが出来たかな?とちょっとだけ嬉しくもあったんだよ。







海退院後・・・・・


俺はもう一度あの場所に足を運んだ。

中学校の事故からもう少しで5年が経つ。でもそれより以前の俺の記憶が無い。

何か手掛かりになる事は思い出せないかもう一度桜並木を歩いてみる。

雅と初めて出会ったと思われる場所、信号、バイク・・・曇り?

えっ?入学式の日は晴れていただろ?

何でそれが曇りに?

いや、俺は飛び出して道路の真ん中に駆け寄っていたはずなのに、何故か歩いて道路の真ん中迄楽しそうに歩いている?

何だ?この気持ちは?おかしい、何かが違って何かが同じ?

うぅっ・・・

いや、ダメだ、ここで耐えなければ思い出せない気がして・・・

こうやってしゃがみ込んで・・・

あっ、そうだ!!

そうだったのか・・・

分かった!!分かったぞ!!!


何故か嬉しくなり無意識の内に大声で「よっしゃー!!!」と叫んでしまった。

周囲に人がいなかったのは幸いだったが。


そのまま俺は急いで地元へ戻り、雅に会いに行った。

雅の家へ急いで出向き、インターホンを鳴らす。


♪ピンポーン


雅「はい、どちら様でしょうか?って海?海なの?どうして家が?ってまさか、記憶が・・・」

海「あぁ、明確にはっきりと思い出したんだ!待たせたな、雅。」


その後二人で桜並木迄行った。

電車で一時間半も掛かるような所にわざわざ戻るのもどうなんだろう?とも思えたがやっぱり色々とあったあの場所だからこそ行くべきだと言う本能が悟った感じがあった。

そして現地へ辿り着いた。時間はもう夕方4時を過ぎてしまっていた。


海「雅、こんな時間に遠く迄ごめんな。」

雅「ううん、気にしないで、それより海が記憶を取り戻してくれたのが嬉しくて。」

海「雅、本当に待たせてごめん。はっきりと思い出せたよ。俺、先にこの場所で雅に助けられたんだよな。車が来た事に気付いたのが先に雅だったから、俺を助ける為に突き飛ばして、雅が犠牲になった。それで俺気が狂いそうになって、全てを忘れたくて、1か月の間何も出来なくて・・・本当に情けない奴でごめん。」

雅「そんな事無いよ。私も海に助けられた後、本当に気が変になってしまいそうになっていて、ずっと学校に行けなかったんだよ。でも海が生きていると知ってたから頑張って耐えてた。」

海「あの日、本当は俺あの場所、そう、この信号を渡る時にお前に告白しようと思ったんだ。」

雅「えっ!?嘘でしょ!?私、前日眠れなくて、明日こそ海に告白しようって思っていたの・・・」

海「そうだったのか。やっぱりお前と俺は何か運命的なものがあるのかもな?」


俺は笑顔でちょっと照れながらそう言うと・・・


雅「この場所は、良い意味でも悪い意味でも私たちを引き寄せる魔法の様な場所だったんだね。」


雅にとっては珍しく乙女チックな表現を口にした。


海「ただいま、大分待たせてしまったけれど、雅、俺はお前の事がずっと好きだったんだ。これからもずっと一緒にいてくれないか?」

雅「私も、海の事ずっと大好きだった。私の方こそ、これからもずっと一緒にいようね。」


二人で初めての口づけを交わす。





END

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4年前のこの場所と1年後のこの場所で 小鳥遊凛音 @rion_takanashi9652

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