生前経歴書と、転生先希望書を
奥村きていじん
本文
「生前経歴書と、転生先希望書を」
「あ、は、はい」
「ここにチート希望とありますが」
「いやトラックに轢かれて死んだので何かくださいよ、最強魔法とか」
「素質を付与することは出来ますが、あとは努力次第ですね」
「素質があるってわかってるなら努力できます!」
「記憶は引き継げませんよ」
「え?」
「原則引き継げません。皆前世の記憶持ってたら大変でしょ?」
「いやいや、科学の知識と魔法で無双したいんですよ。お願いします」
「そもそも物理法則が異なる場合が多いですが」
「そこをなんとか」
「その場合、それが一つの技能となりますので、能力は両親の素質等からの一般的な水準になります」
「かまいません!」
「ではここにそこのカレンダーの日付とご署名と拇印を……ありがとうございます。ではそちらの扉から出られて、まっすぐ行って突き当りを左に、記憶保護処置室の方へお願いします。お疲れ様でした」
扉が閉じる音。
マイクに向かって語りかける。 「次、どうぞ」
閻魔の間前での生前経歴書の自動発行が進んで早数百年、これのおかげで我々閻魔のかなりの数の業務が簡略化された。しかし、簡略化に伴いここ数年で妙な死亡者が多い。 転生先希望転の備考欄に特S、特殊技能を要望するものたちと、MP、記憶保護処置を希望するものたちだ。
前世がヒトであったものに特筆して多い。一昔前まではヒトに転生できることに悲喜こもごもで、下位の生物に転生されることを告げると暴れまわって業務が滞ったものだ。だから転生先の生物は最後の転生室で告げる事になっている。
連絡が出力される音。 先程の死者の転生先は下位の生物だったようだ。記憶を保ったままは辛かろう。 扉が開く音。
「生前経歴書と、転生先希望書を」
「これです」
「転生先希望書がありませんが?」
「転生したくなくて……」
「それは困ります。あなたはまだ輪廻の輪から外れていない」
「徳は十分積んだつもりだったんですが」
「徳とか関係ないんですよあれ」
「え?」
「魂の寿命が来たら一旦そこで外れて、再利用過程を経てまた輪廻の輪に戻されるんです」
「でもお釈迦様は」
「多分こっちと中途半端に接触して間違った情報を広めちゃったんでしょう」
「納得いきません」
面倒になってきた。後がつかえているし。
「では特に希望なしということで」
「納得できません!あんなに生前寄付もして」
筆記台に逆さについているボタンを押すと、二人の鬼がやってきて死者をつまみだした。
「次」
「生前経歴書と、転生先希望書を」
「はい!」
「転生先希望は神、ですか?」
「はい、そっちの手違いでトラックに轢かれて死んだしそれくらいできるでしょ?」
「不可能です。そもそもこちらの手違いとは?」
「僕15で死んだんですよ、居眠り運転のトラックに轢かれて!」
「手違いとは?」
「絶対手違いでしょ?」
「先程の生前経歴書作成の担当者がそう言いました?」
「いえ、違います。話したんですけど、こっちで言えって」
「ごめんなさい、こちらでもちょっと管轄外なので、次の転生室の担当者に伝えて頂いてもよろしいですか?」
「わかりました」
「あと神は無理なので、それに近い生物にて対応させて頂いてもよろしいでしょうか」
「わかりました、天使とかですかね!?」
「どうですかね。こちらにご署名と……そうです、ありがとうございます。お疲れ様でした。まっすぐ行って突き当り右ですね。」
扉の閉じる音。
定時のブザーが鳴る。
「失礼、定時なのでまた明日」
マイクに語りかけ、ドアをロックし、シャッターを閉じる。 軽くひっかけて帰るか。明日もあるし。
扉の閉じる音。
連絡の出力される音。
「連絡:転生室に送る前に誤解を解いておいてくれ。いきなり俺は神になるとか言われても困る。面倒なので獄卒希望で地獄に送っておいた」
終
生前経歴書と、転生先希望書を 奥村きていじん @kiteijin
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