赤い女

@Ethyrene

赤い女

 その日、池袋警察署に一人の女性が駆け込んだ。

 なんでも、その女性は全く知らない女に因縁をつけられて追い掛け回されたという。

 ハイヒールを履いているにも関わらず、わき目を振らずに走ってきた彼女によると、追いまわしてきたのは炎のような真っ赤な髪の、真っ赤なワンピースの女だったそうだ。

 もちろん、その情報を聞いた警察もその女を捜索した。だが明らかに目立つはずであるその女の目撃情報は得られず、結局見つけることができなかった。そして、その逃げ込んだ女性は警官に駅まで付き添われてその日は帰っていった。


 翌日、池袋のとある路地裏で女性の遺体が見つかった。その遺体は先日の女性であった。

 目撃情報によると、彼女は駅から必死の形相で駆け出していったそうだ。しかし、彼女を追う何者かの姿は誰も見なかったという不思議な情報も同時に入っていた。

 そして何よりも不可解なのは、遺体の足がなかったことだろう。ほかの個所は傷一つないと言っていいほどきれいであるのに対して、足だけが何かに引きちぎられたかのように存在しなかった。

 警察は事件と事故の両方から捜査を行ったものの、何もわかることはなかった。凄惨な怪事件として迷宮入りしてしまったのだ。


 その不審死から数か月経った池袋にとある女性がやってきた。彼女が待ち合わせの時間つぶしに眺めていたスマホからふと顔を上げると、少し先に燃えるような赤い髪の、赤いワンピースの女がいた。

 彼女はその女に不信感を抱いたのだが、女とばっちりと視線が合ってしまった。その瞬間、その女が滑るように彼女に向って移動してきた。

 その女は、真っ赤なハイヒールを履いていた。

 目の前まで迫った女はひび割れた声でこう言い放ったのだった。

「見ィタァナァ…?」

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