第8話 精剣「インケード」
「こッ、この光はッ……!?」
規格外のこの眩さに、菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)までもが怯んで足を止める。光は次第にボクの身体を形作ると、だんだんとその魔法花婿(ウィザード)衣装の姿を現していった。
「魔法花婿(ウィザード)――――――『サクラ』!!!!!」
それは、ボクの名を冠したモチーフのドレスだった。ピンクのヒラヒラな袖やスカートは、まるで桜の花を連想させる美しいデザインで、春の陽気を感じさせるような優しい色をしている。これでは、ロリータファッションもいいとこのお姫様衣装である。金の玉は髪止めへと変化して、ボクの左側の髪にお下げを作っていた。
「なんだこれ……? 力が溢れてくる……」
ボクは何かに導かれるようにして、前へと両手をかざす。すると、そこには二丁の銃が現れた。衣装とはまるで正反対のような黒いブローバック銃だった。漆黒のボディに、重厚感溢れる持ち手。そのどれもが、魔法花婿(ウィザード)という響きに似つかわしくない異質感を醸しだしている。
「精銃―――――『エレクトン』!!!!」
名前はコイツが教えてくれた。ボクはこの銃に囁かれるようにして引き金を引く―――――。
「なッ!? 銃だと!?」
一発目はサーベルで止められてしまったが、それでも構わずにボクは二発目三発目と撃ちまくる。三十発目くらいから押され始めた菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)は、そのままジリジリと後退していった。
「ぐ……、うう……ッ!」
コンテナの壁際まで来てしまった菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)は、ついに逃げ場を失くしてしまい、サーベルの柄へと当たった銃弾が、剣を跳ね飛ばす。そこを狙ってボクはフィニッシュの引き金を引いた。
「あ、あれ……?」
しかし、その時響いたのは引き金の空振りする音だけだった。むなしくガキンガキンといった空撃ち音だけが鳴り響く。
「へ……? 弾切れ……?」
完全な慢心だった。なんかこの銃、二十発三十発と撃てるし、きっと何かマジカル的なアイテムだから無限に弾が撃てるものだと思っていたのだ。しかしこの銃、よく見れば見る程ただの普通の銃なのである。薬莢は飛び散りまくるし、火薬の臭いが鼻にツンとくる。
「……実弾(おもちゃ)ごときで、魔法花婿(ウィザード)が止められるとでも思ったのかァ……? 笑止千万……」
「や……、ヤバ……」
菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)の方を見ると奴は既に体勢を整え直していた。せっかく跳ね飛ばしたサーベルも、あっという間に新しいサーベルを生成して持ち直す。
「笑わせるな新人!」
「ヒイイイイっ!?」
キレた菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)が、再び刃から特大の衝撃波を放ち、コンテナたちを紙切れのように吹き飛ばす。ボクは間一髪のところでそれを躱して、猛ダッシュで逃げ出す。
「なんだよこの銃、マジカル要素の欠片も無いじゃないか!? なんかあっちの剣の方が主役っぽいし!」
「えぇ~っ、9mmパラベラム弾のどこが不満なんだみょん? グロック17モデルだよ? 複列弾倉(ダブルカラム・マガジン)で一丁あたり最大18発までしか撃てないって事も知らないのかみょん? 二丁で36発も撃ったのに結局仕留めきれないなんて、とんだシロートだなみょん……」
「いや、そんな銃知識持ってる訳ないだろ! ミリオタかお前!? てっきり、もっと魔力的な弾か何かかと思ったわ! もっと他の武器とか無いのかよこの魔法花婿(ウィザード)!?」
「しょーがないなぁ……じゃあ、そこのセーフティロックのツマミを回しなよみょん。レーザー弾が撃てるようになるからさ♪」
「それを先に言え!!!」
レーザー弾とかいう、男子ならばみんな目を輝かせるような単語を聞いて、ボクは急いで銃の横にあるツマミを回す。
「精銃エレクトン――――『レーザーモード』!!!!」
後ろの猛スピードで追いかけて来る菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)へと照準を向けて引き金を引きまくる。見た目がただのブローバック銃でしかない銃から、SF的なレーザー弾が出てくる様はちょっと絵面がひどかったが、これならば精霊魔力の続く限り弾切れを起こす事は無いだろう。
「フン……、精霊魔力弾かァ……。その程度の豆鉄砲が俺氏に効くかあッ!」
「そんなっ……!?」
菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)はサーベルの見事な剣捌きで、次々とレーザー弾を弾いてゆく。あの剣はレーザー弾をも斬ってしまうらしい。
「……ビームを使えるのは……、お前だけじゃあない……」
突然そう呟いて菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)が立ち止まったと思うと、剣を天高く掲げて構える。すると、剣は青い光で輝きだした。
「『瀑布放射』(カスケード・ラジエーション)ッ!!!!」
振り降ろした剣から鋭く青い閃光が発せられる。そして、それは巨大な光線となってボクの方へと恐ろしいスピードで襲いかかってきた。
「がぁああああああぁああああぁ―――っっ!!!!」
避ける暇も無かった。青い光線は一直線に右手に直撃し、銃ごと右手を跡形も無く消し飛ばす。右腕からはおびだたしい量の血が吹き出し、ボクはその場で激痛にのたうち回って血だるまになった。
「うっ、腕がぁあっ……!!!」
「あー……わめくなよ、うるさいなァ……。そんくらい、魔法花婿(ウィザード)なら一晩もおとなしくしてりゃあ治る。もっとも、ダメージを肩代わりしてくれんのは、金の玉だけどねェ……」
出血多量と痛みで朦朧とする意識の中、ボクの耳には髪留めに付いている金の玉にヒビが入る音が聴こえた。どうやら操(みさお)が言っていた、負けたら二度と男に戻れないとはこの事らしい。魔法花婿(ウィザード)ならこの傷もいずれは治るらしいが、その分のダメージが金の玉の方へと行ってしまうというルールなのだろう。となれば当然、限界を超える怪我をしてしまった場合の結末の想像もつく。
にしても操(みさお)の奴め、何が『殺し合いは無い』だ。痛みは普通に発狂しそうなくらいの痛みを感じるし、むしろ遠慮なく相手を抉れる分、単なる殺し合いより性質が悪い。こんなのただの拷問戦争だ。
「だから安心して俺氏に殺されなよ……。男を捨てるだけで済むんだからさ……」
菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)は動けないボクを今度こそ消し飛ばそうと、もう一度剣を構える。それは、さっきのとは比べられない程の強烈な青い光だった。ボクの右手を消したさっきの光線はまだ本気の領分を見せていなかったらしい。
「『瀑布放射』(カスケード・ラジエーション)ッ!!!!!!」
特大サイズの青い光線が振り下ろされる。奔流はうねりと轟音を上げてボクに迫るが、激痛で戦意喪失したボクの身体はまるで動いてくれない。
「危ないっ、憧太クン!」
立てないボクの前に立ちはだかったのはタマだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます