第6話 魔法少女によくいるマスコット的な存在
「憧太クン、憧太クン! 起きてみょん、起きてみょん!」
「んん……。なんだうるさいな……」
どのくらいの間、ボクは意識を失っていたのだろうか。十分くらいの気もするし、一時間くらいな気もする。ボクの意識を揺り起こしたのは、さっきの謎の生物の声だった。表面的には可愛いらしい小動物声だったが、一方で語尾の謎の口癖がどこか独特の不快感を醸し出している。
「いつまでも寝てる場合じゃないみょん。今のうちに移動するみょん」
ようやく目を開けて、ボクはその声の主を見る。そこには、およそ現実世界のものとは思えないファンシーな生き物がいた。大きな頭に二頭身の身体。それはまさに、漫画のようなマスコットキャラが動いて喋っていたのだった。
「うわああああっ!? オタマジャクシが喋ってる!?」
その生物は一言で言うと、白いオタマジャクシだった。丸い体に小さな手足、それだけならばまだ某捕獲育成ゲーに出てくるモンスターとかのように可愛らしいだろう。だが、どこはかとなく違和感を感じさせていたのはその白い全身がだった。身体は幽霊のように青白く光り、長く光る尾はまるで掃除機のコードのように金の玉から出ている。
「失礼だなみょん! ミーはオタマジャクシじゃないみょん! 憧太クンの所有する金の玉(ゴールデンボール)の精霊、『タマちゃん』だみょん」
「いや、そのおかげで余計にオタマジャクシに見えるんですが……」
見た目から嫌な想像はしたくなかったが、ボクの金の玉から出て来たとか言う時点でなんかもう忌避感しかない。おまけにそれを『精霊』だとか名乗るのも、誰かの悪意を感じてしまう。
「せ、精霊だって……? そんなの信じられない……」
「そうだみょん! 攻撃を止めたのも、君をこの場所へ転移させたのも、このミーの能力だみょん!」
タマとかいう精霊に言われて、辺りを見回したボクはようやくここがおよそ学校とかけ離れた場所だと知る。正確な場所は分からないが、広い敷地にコンテナが立ち並び、何かの資材置き場である事がうかがえる。どうやら、さっきの閃光はコイツのテレポーテーション的な能力の為のものらしい。
「君の持つその金の玉(ゴールデンボール)には、莫大な精霊力が宿っているみょん」
タマは傍にプカプカと浮かんでいる金の玉を引き寄せて、戸惑うボクもよそに説明を続けた。
「精霊力……その名も、略して『精力』! その『精力』を使って産みだされたのがミーたち、精霊魔法生物なんだみょん♪」
「そこ略す必要無くねぇ!? 誤解を生むような表現はやめろぉ!」
悪意を感じるようなネーミングセンスに、ついボクは全力でツッコミを入れてしまう。おそらく、こういう命名もみんなあの操(みさお)の仕業なのだろう。なんて趣味が悪い。
「まぁ、有り体に言えば、魔法少女によくいるマスコットキャラみたいなもんだみょん」
「自分の事を有り体に言っちゃったよコイツ!?」
「さぁ、今こそ変身する時だみょん! 憧太クン、その金の玉(ゴールデンボール)を握ってみるんだみょん!」
そう言ってタマは傍に浮いている金の玉を指さして、ボクに早よ握れとセクハラのように急かす。金の玉の表面は、さっきとは何か違って少しヌメっているように見えた。それはまるでカルピスの原液が滴っているようだった。さらには、気化した液体が白い煙を立ち込めさせていて、気色悪さを倍増させている。っていうかこれは、男ならみんな既視感がありすぎて忌避反応しか示さない光景だった。
「いや、さっきからなんか白い煙というか、白濁液みたいなものも滴っていて嫌な感じなんですが……」
「いいからいいから、それはただ『精力』が溢れ出てるだけだみょん。何も汚くないみょん」
「だから、それが嫌だっつってんでしょーがっ!」
汚物を押し付けて来ようとするタマに、それを避け続けるボク。どちらも譲らない押し問答は延々と続き、5分10分と経過してゆく。そもそもあんな、さっきの菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)
みたいな恥ずかしい恰好なんてとても出来なかった。永劫に続くかと思われた遠慮合戦だったが、それは再びまた現れた敵の出現によって崩れる事となる。
「見つけたぞォ! この新人!」
コンテナの向こうから跳んで現れたのは、さっきの菖蒲(あやめ)拓海(たくみ)だった。ここが学校からどのくらい離れているのかは知らないが、わざわざここまで探しに来てくれたらしい。なんという執念だ。
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