PART7

『ありがとうございます。よくこんなところまで届けてくださいました』


 手紙を読み終わった彼女は、また深々と頭を下げた。


 まるで時代劇みたいな光景である。


『いえ、これが仕事ですから』俺はそう答え、立ち上がった。

 

 すると、一人が何やら盆のようなものを捧げ持つようにして入ってきて、俺の前に置いた。


 紫の袱紗が掛かっている。


 取るまでもない。


 中身は分かっているのだ。


『悪いが、これは貰えない。』


『いえ、そうではなくて・・・・』


『何にせよ、俺にはできない相談だ。俺達私立探偵にも守らねばならない掟があるんだ。これを破ると明日からバッジとライセンスを召し上げられて、メシの喰いあげになる。分かるだろ?』


 彼女は黙って頷いた。俺の言った意味を理解してくれたらしい。


『お客様のお帰りだよ!丁重にお見送りしなさい!』


 廊下で控えていた子分にきりっとした声で言った。


 子分たちは、

『へぃっ』と一斉に頭を下げる。


 流石だな。


 幾ら女性で組長代理だからって、このくらいの迫力がないと務まらないだろう。


 さっきまで俺を胡散臭そうに睨んでいた連中の目つき迄変わった。


 俺は、


『ほい、これ』と、番号札を渡す。


 すると俺の預けた拳銃と特殊警棒を、うやうやしく差し出してよこした。


 俺はそいつを受け取ると、ラッチを押して変な細工をされていないかどうか確認し、ホルスターに収め、ベルトに挟んだ。


『送って差し上げましょうか?』


 玄関まで見送りに出て来ていた彼女がいうが、俺は黙って手を振って返す。


 門を潜って外に出ると、俺はほうっと空に向かって深呼吸を一つした。


 人間、慣れないことをするもんじゃない。


 幾ら俺だってやっぱりこの世界は怖い。


 これが正直な感想だ。


 俺はそれからホテルに帰り、一晩泊まって、それから東京への帰途についた。


 戻ってすぐに、俺は依頼人の広畑社長の元を訪れ、依頼を無事に完遂したこと、そして依頼人がどんな女性であったかを話した。


『分かりました。ご苦労様でした「。これで長年のもやもやが吹っ切れました。』


 社長は俺に向かって何度も頭を下げ、ギャラも、


『迷惑料も兼ねて』と言う意味で少し多めにはずんでくれた。


 さて、今晩は呑むか・・・・ああ、家賃を払うのを忘れてた(苦笑)


                               終わり

*)この物語はフィクションです。登場人物その他すべては作者の想像の産物であります。

 




 












 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エンジェルはいずこに 冷門 風之助  @yamato2673nippon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ