part6

『私は五代目の娘に生まれました。兄が二人いましたけど、一人は交通事故で亡くなり、もう一人は殺人教唆と凶器準備集合罪で、現在父同様収監中の身の上です』

 

 彼女は、後から若い衆が持ってきたお茶を啜り、ぽつりぽつりと語り始めた。


『私は当然女ですし、元々こういう稼業は好きではありませんでしたから、跡を継ごうなんて考えてみたこともありませんでした。だから東京に出たんです。』


 しかし親元から離れて自立するというのは、出来るようでなかなか出来ることではないし、ましてや20歳になったかならないかの身である。


 保証人も無しでまともな仕事なんか見つかるはずもない。


 そうなると行き着く先は『風俗』しかなかったというわけだ。


『怖い世界の家に生まれたからって、変な育ち方をしたわけではありません。父は

仕事を離れると、家ではごく普通のどこにでもいる父親でしたしね。私も小学校から高校まで、脇道に逸れることなく、普通に育ちましたから』


『最初は勿論嫌でしたよ。でも、やってみると色々と楽しいことがあったりして、それなりに人生勉強になりました』


『広畑健一と言う男性、覚えてますか?』


『勿論、覚えています。私があの店で働き始めて最初に付いたお客さんですから』


 彼女はまたほほ笑んだ。エクボが可愛い。


『真面目で、純情で・・・・ちょっと暗いところはありましたけど、優しくていいお客さんでしたね。』

 

 彼女は何故か『お客さん』と言うところを酷く協調して話した。


『なるほどね。その点に関してはあちらも同じだったわけだ』


『え?』


 俺はコートのポケットから、依頼人から託された手紙とボール箱を取り出し、彼女の前に置いた。


 彼女はまず手紙の封を開けてゆっくりと、丁寧に読んだ。


 読んでいるうちに、肩が小刻みに震え、瞳から涙が零れるのが見えた。


 それから、箱を開ける。


 中から出てきたのは、小型の宝石箱で、蓋を開けると、小さな銀のチェーンがついたネックレスだった。


 俺は宝石の目利きなど出来ない人間だが、それほど高いものではないと踏んだ。


 静子ことカナは、袂から取り出したハンカチで瞼を拭うと、


『あの人、私に約束したんです。給料が出てお金が貯まったら、ダイヤのネックレスをプレゼントする・・・・そんなに高いものは無理だけど・・・・って。私は『嬉しいわ」って言ったんですけどね。正直言って本気にはしてませんでした。でも向こうはちゃんとこうして約束を守ってくれました』


 言いながら、彼女は俺にネックレスを見せた。

 確かにネックレスの先端には、銀色の葉っぱの形の上に、米粒大のダイヤモンドが乗っていた。


 それから、彼女は手紙も見せてくれた。


 手紙には自分に優しくしてくれたことに対するお礼が連綿と綴られていたが、それは『ラブレター』というものでもなく、本当に単なる『お礼』の文字、それだけだった。





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