PART5
だだっ広い座敷だ。ゆうに30畳はあるだろう。
盾に細長い座敷の奥にはバカでかい床の間があり、そこには筆太の文字で、
『任侠』の二文字が掛かれた掛け軸が掛かっていて、その前にはガラスケースに入れられた日本人形が飾られてあった。
床の間を背にして、紫色の大きな座布団が置いてあり、下手には薄っぺらの茶色い座布団が敷いてあった。
俺を案内してきた『若い衆』は、まるで俺が勝手に出ていくのを妨げるように、入り口のところに正座し、こっちを睨みつけている。
(例のバーテンはどこ行ったのか、姿が見えない)
五分ほど経ったろうか?廊下に足音がし、襖が開いた。
紺色に白い模様を散らした和服姿の女性が、ダークスーツ姿の男二人を引き連れて入って来た。
彼女は襖を開けて、ちらりと俺の顔を見ると、そのまま物も言わずに座布団の所まで行き、まず畳の上に座った。
丸顔で小麦色の肌をした愛嬌のある顔。
俺は懐に手を入れる。
一瞬、周りが緊張した。
だが、その女性が目を光らせて彼らを制した。
俺は懐からバッジと探偵免許を出して畳の上に置く、
控えていたダークスーツの一人がそれを手に取って彼女に手渡した。
彼女は探偵免許の写真と、俺の顔を見比べ、軽く微笑んだ。
右の頬にエクボがへこんだ。
『探偵さんでしたの・・・・それは失礼しました。でもあなたも悪いんですよ。最初に名乗って下さればよろしかったものを』
『こっちもそうすればよかったと、今では公開してます。大文字静子さん。いえ、カナさんと呼んだ方がいいかな
彼女の細い眉がぴくりと上がった。
『貴方はこの大文字組の五代目組長のお嬢さんでしたな。しかし今五代目は服役中・・・・確か懲役18年でしたか・・・・組長夫人、つまり貴方のお母さんに当たる1方は今から5年前に死去された。しかも間の悪いことに逮捕されたのは組長だけじゃなく、偉いさんも悉くお縄になっている。このままではバラバラになってしまう組を、何とか散らないようにしなければならない。そこで貴方がその間とりあえず代理と言うことで・・・・』
『さすが探偵さんですね・・・・』彼女はまた笑った。
『そりゃ、そうです。これが私の仕事ですからな。細かく調べなければメシにありつけません』
こういう世界の事は良く知らないが、本来こうした、
『危ない世界』
では、女性が跡目を継ぐということは殆どないし、必ずしも『世襲』というものに縛られる必要もない。
しかし、今は非常時だ。
ことに、隣の地区にある別の組織と抗争中ときている。
こんな時に組がバラバラになっては、収監中の組長に示しがつかない。
そこで彼女が代理を引き受けたという訳だ。
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