第13話 王都ファーベル 冒険者失踪事件7
…
夜の帳が下り街が静まった頃、魔科学の痕跡が色濃く残っている倉庫の周辺で戦闘が起きていた
一人、また一人と少しずつ倒れて行く冒険者達…
「くそっ…!右の道から回り込め!東区から抜け出せば助けを呼べる!」
「右はダメだ、大型がすでに塞いでいる!」
「くそくそ!何でこんな事に!ただ取引に来ただけなのに!」
「お前は黙っていろ!帝国と取引をするからこうなる!おい、地下水路は確認したか?」
「いや、まだだ…地下水路までは塞げていない…と?」
アーロンから手配された冒険者は一人の冒険者を保護し、魔法…恐らく魔科学の力で覆われていない場所を探す
「ああ、地下水路と言ってもちょっとした迷路だからな…可能性はあるかもしれん」
「…他に方法もない、連絡虫だけでも送れればまだ生きれるかもしれない」
二人は頷くと蹲る男を担ぎ、マンホールを外し飛び降りる
「どうだ?虫は飛ばせるか?」
「ああ!ここまでは障壁は来てない!」
連絡虫を離し、地下水路を飛んで行く姿を確認しては近くにある窪みに身を隠す様に入り込む
「後は時間との戦いだ…どれだけ隠れるかの、な」
…
静かに寝息を立てるルインにゾクンッと嫌な感覚が身体に走る
「っ!?」
がばっと飛び跳ねるように起き上がり、胸を押さえながら落ち着こうとするがじっとしていられない
「…この感覚…もしかして!?」
寝巻の格好のまま部屋を飛び出すと、隣の部屋…シオンの部屋の扉を叩く
「シオン!起きて!」
間違いない、この感覚は魔導核が発動した時の…!
「どうした?」
慌てた様子で扉を開けたシオンはぎょっとした表情を見せる
「この街の近くで帝国が魔科学を使ってるわ!恐らくあの場所…!」
「何…?…取り敢えず、姿を変えるんだ」
シオンに引き込ま出るように部屋に入れられては、そう言えばと慌てて姿を変える
「落ち着いたか?」
「う、うん…ごめんなさいね。流石に取り乱し過ぎたわ…」
うぅ…やってしまった…と少し頭を抱えながら、反省していると部屋を出てて行ったシオンが戻って来る
「ウォルカ達に報告して来た、ギルドを今すぐ動かすことはできないが…俺達だけで先に調べに行けるだろう」
「そう…じゃ、早くいかないと」
ほっとするルインの額を軽く叩きながら苦笑いする
「次があるなら変装を忘れるな」
「ぅ…」
ウォルカ達を合流すると例の場所の方角…つまり、東区から魔科学の反応があった事を説明する
「ルインさんの探知魔法に引っ掛かったんですね…」
「ああ、一応アーロンには報告したが、今すぐ動けるのは俺達ぐらいらしい…問題ないか?」
こくりと頷くウォルカ、周りのラリサやアナン、ベルも頷いている
「すまない、急ごう…!」
ギルドを出ては一気に東区に向かって走り出す、中央噴水広場まで来ると東区の入り口、石造りの門に寄りかかるように一人の男が座っている
「おい、大丈夫!」
血を流して座る男に声を駆け寄り、声を掛ける。男は右腕を押さえながら呻くきながらこっちを見る、腕は黒く炭化しており動かす事などできないだろう
「あ、あんた達は…?冒険者でないなら、早く逃げろ…!」
搾り出す様に声を上げながら男が叫ぶ
「問題ない、俺達は冒険者だ。それよりも、何が起きている?」
「…東区を囲うように障壁が張られたんだ、障壁の中はもう、別の世界だ…頼む、まだ中に仲間がいる…助けてやってくれ…!」
「安心しろ、その為に来た」
「ははっ、運は付いてたみたいだな…頼む…」
それだけ言うと男は笑い、ゆっくりと目を閉じた。気絶したようだ
「連絡虫はもう送ったわ、すぐに救護班が来るはず」
「ありがとう、ラリサ。…行こう」
全員がウォルカの声に頷く、ベルが本を二冊手に取り、アナンが銀色に輝く剣を手の平から出現させる
「錬成魔法…?」
珍しそうにアナンを見るルイン、アナンはくすりと笑いながら顔を横に振る
「錬成魔法ではあるけど、私のは少し違うわ。この指輪が触媒じゃないと錬成できないから…なりそこない?」
「それでもすごい事よ…?」
ありがと、と嬉しそうに笑うアナンは剣の刃を見て満足そうに頷く
「…今度は、負けない」
ベルは静かに呟きながら巨大なリビングメイルを召喚する
「べ、べる?!そんなの隠してたの!?」
ラリサが後ろで叫んでいるが、気にせずページを捲るベル
「まだいっぱいいる、これは序の口、今まで使えなかっただけ」
ベルにしては強い口調で短く答える
「そ、そうなんだ…どうする?手分けして探す?」
「ああ、俺とラリサ、ベルとアナンで別れよう」
「俺はルインと行こう」
そう伝えるとウォルカは頷き、門を潜った後、それぞれ分かれて行く
side:ウォルカ&ラリサ
紅い剣、レーヴァテインを引き抜き慎重に捜索を始める。昨日の昼に来た時とはまるで別の世界、そう言っても過言ではないぐらい東区は様変わりしている、家は崩れ、黒く紫色の結晶が地面、壁、木、至る所に生えている、一つの魔道核…魔科学の核が此処まで影響を与えるのとは思ってもいなかった
「ラリサ、俺の後ろから離れるなよ?大分、ヤバい感じだ」
「うん…あたしもここまで変わるなんて思ってなかった…」
ラリサの位置を把握しながら、脚を進める、複数の機兵の気配が動き回っている。恐らく巡回しているのだろう…
「ラリサ、前方に三…援護を頼む…!」
「了解よ!」
レーヴァテインを構えては、巨大な結晶から顔を覗かせる人型の機兵に向かって駆け出す!
「焔よ、その姿を槍へと変え、穿ち崩せ!フレーム・スピア!」
紅蓮の炎がラリサの目の前に出現すれば、槍へと変わり、燃え盛る槍はウォルカに迫る剛腕を貫く!
腕を貫かれた機兵が怯んだ瞬間にウォルカは高く跳び上がる、グラビティリングを発動させ、同時に刀身に紅蓮をを纏わせる。燃え盛るレーヴァテイン重力を重ねてそのまま一体目の機兵を両断する、続けて後ろの二体目に目掛け突きを放つ、纏わせた魔力を開放し、重力と業火の嵐をぶつける!
三体目の機兵を巻き込み、奔流は空へと向かい障壁にぶつかり派手に爆発する
「…派手にやり過ぎたかな…?」
「いいんじゃない?どうせ、全力で叩き潰した~って言うんでしょ?」
うぐ、っと言葉を詰まらせるウォルカにくすくすと笑うラリサ
「さ、早く行かないと他のも集まってきちゃうわよ?」
「そうだな…急ごう!」
警戒を怠らないまま道を掛け出す、探索を続けて冒険者が見つかるなら保護を、見つからないなら魔道核を潰す!
side:アナン&ベル
「ひどい」
「そうね…ここまでするとわね」
結晶に覆われた死体や機兵に虐殺された死体が溢れかえる倉庫を見付け、思はず口元を押さえる
「帝国、ここ使ってた。そう言ってる」
「それは…話せるの?」
こくりとベルは静かに頷き、目を閉じる
「冒険者は八人、二人はアーロンが手配した、一人は救助済み、残りは死んでるかも」
「そう…行きましょう、まだ、可能性があるなら」
アナンが静かにベルに伝えると、こくりと頷き返す
「…下?」
首を傾げながらマンホールの上で立ち止まるベル
「下…って、地下水路?」
「ん…」
その場でしゃがみ込むベル、マンホールをひょいっと外すと下を覗き込む
「…行く」
「わかったわ、私が先行するからベルは付いて来て」
アナンが地下水路に先に降りるのを確認した後、ベルも降りて行く。降りると真っ黒な通路に出る、通路の中央は水路が引いてあり湿った空気が頬を撫でる
「暗いわね…明かりをつけるわ」
手の平に白く発光する球を出現させてはそっと、宙に浮かせると辺りを照らす球はアナンの周りをゆっくりと飛ぶ
「便利、この先にいる」
ベルが球を目で追いかけながら静かに告げる
「了解よ、あ、足元気を付けてね?」
「ん…」
通路を照らす様に光の玉が先行し、その後を二人はゆっくりと警戒しながら脚を進める
「…見つけた、この先の通路を右折、その先にいる」
フードをもぞもぞと動かしながらベルが声を出し、アナンを見つめる
「この先ね…ベル、念の為に魔法は使えるように…行くわ」
「ん…」
音も立てずにさっと、通路から飛び出し右の通路を確認する。左の窪み、僅かに水溜りが揺れたのを確認し、更に接近する
「…そこの窪みに居るのは分かっている。大人しく出て来なさい」
剣を下段に構えながら静かに警告すると、すぐに影が出て来た
「助け、か?」
冒険者らしき男はこちらを警戒する様に槍を構えている
「私はアナン、東区にて魔導核の発動を確認し調査と救助に来た冒険者よ」
「っ…良かった…俺はアーロンさんに頼まれて見張りをしていた者だ、もう一人いる見張りと二人で居たんだが…お前らも知っている通り、魔導核の発動でそれ所じゃなくなっちまった…今は一人の冒険者を保護しここで隠れていた所だ…俺達は偵察は得意だが、戦闘は全くでな…」
「そう…生きている人に会えてよかったわ…ここまで来る間に何人もの死体を見ていたから…恐らく救援部隊も来ているはず、私たちは先行部隊なの」
「先行部隊か…魔導核は此処から北の方向だ…禍々しい術式が浮かんでる、それに…恐らくだが機兵が集められているから見つけ易いはずだ」
男は魔導核の場所を伝えると、それじゃしばらく此処にいるさ、と言って奥の方へと消えて行った
「…聞こえてた、早く行こう」
ベルが近寄って来ると静かにそう告げ、くいくいっと腕を引っ張って来る
「そうね…きっと、シオンさん達も向かっているだろうし…急ぎましょう」
ベルをそっと、抱えると跳ぶ様に水路を走り地上へと駆け出す
Paradox-魔王姫を守護するは召喚されし剣士- 雪月花(ユズハ) @Yuzuha-Yuki
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