第12話 王都ファーベル 冒険者失踪事件6
side:シオン
ルインの提案によりギルドに戻って来た俺達はウォルカ達とアーロンの部屋を訪れていた
「なるほどねぇ…魔科学を利用した音響魔術か…聞いた事はあったけど実在するとはなぁ…」
「ウォルカの重力魔法みたいな珍しいものなの?」
「珍しいと言うよりは、新しいだな。ウォルカのは失われた系だからね」
「カテゴリーみたいに言うなよ…」
「はい、ウォルカ君金10枚置いて行ってね」
「はい?!」
ウォルカの呟きを聞き逃さなかったアーロンがにっこりと笑いながらそう言うと脳天に本が刺さる
「ふぎゃぁつ!?」
そのまま机に顔面からダイブ、ひくひくと動いているから死んではいないようだ
「一応対策の魔法がありましたのどうぞ、うちの馬鹿がさぼるために開発した魔法です」
アーロンをから本を抜き取り、ルーが一つのメモをラリサに手渡す
「本当に簡単な魔法ですが効果は絶大です。無駄に頑張ったみたいですので。ああ、このように使える時が来たので無駄ではないですね」
ぽんっと手を合わせながらルーがくすくすと笑いつつ、アーロンを起き上がらせては頬を摘まみ上げる
「いひゃひゃひゃいっ!!」
声を上げながらジタバタするアーロンを連れて部屋を出て行くルー
…本当に大丈夫なのか…ここ
「こほん、取り合えず、試してみましょ?」
「あ、ああ。そうだな、うん」
ウォルカとラリサが慌てて部屋を飛び出す、アナンは溜め息を吐き、ルインは何時も通りね~と呑気に歩き出す。因みにベルはアーロンのテーブルにあったクッキーを何枚か拝借して出て行った
「確かに凄いが…これがさぼる事を目的に作られたのか…」
呆れて溜息も出ないが対策としては問題なさそうだ、周囲の音が全く聞こえないのは問題だが
「解除すれば周囲の音が聞こえるのね…これって逆にしたら優秀な魔法じゃないかしら…?」
「…サイレントキルでも狙うつもりか…?」
ラリサの何気ない言葉に冷や汗を流すウォルカ
「あら?でも、元の魔法はあるし…ちょっと弄ればできそうよ?」
アナンが続けてそう言うとベルも頷く
「ま、まぁ…それは後で話そう、取り敢えずは対策ができたんだ。解散でいいか?」
「そうね…一応怪しい場所には見張りの冒険者が行ったみたい、今日は休みましょ?」
見張りの冒険者か…アーロンが手配した冒険者なら大丈夫だろう
各自が頷きそれぞれ離れていく、俺はと言うと
「ねぇ、シオン…今日の戦闘で聞きたい事があるんだけど…いいかな?」
「改まって…どうした?」
心配そうな表情をしたルインに捕まっていた
「えっと、シオンがさ…その、新型の機兵に斬りかかった時に纏ってた術…?にね…あまり良い雰囲気がしなかったから…何か問題がある術なのかなって…」
成る程、ルインとのラインを通じて少しだが、鬼哭から出る負の感情が流れたのか…
「いや、問題はない。この通り俺は元気だろ?」
ぽむっと、ルインの頭に手を置いて見つめると顔を逸らされた。しまった、ついやってしまった
「そ、そう。なら、いいのだけど」
「あ、ああ、すまない。村での癖だ」
慌てて手を離して謝ると、気にしてないよ?と首を傾げられた
後ろで凝視しているウォルカを軽く睨むとラリサにグーパンされて倒れていたが、まぁいいだろう
それから、しばらくウォルカ達を混ぜ、雑談に華が咲いた。途中ルーも混ざり周りの冒険者達の注目を浴びたが…何だったんだろうか?
「…結構話し込んだものだな」
「そうね…明日も早いし…と言うより、ある意味決戦だし休みましょ?」
先程の余韻が残っているのか妙にテンションが高いルインに頷く
「そうだな、今日は休もう」
そう言うと各々挨拶をして部屋へと戻って行く
明日、恐らく帝国軍と戦闘になるはずだ…
side:ウォルカ
今日は疲れた、助かったとは言え死に掛けたのだから当然である
いつ以来だろうか…冒険者になってから何度もの死線は潜って来た。だが、最近は仲間と行動するようになり、俺自身も力を付けてきたおかげでギリギリの戦いになる事などなかった、今日の敗因は俺の油断もあるだろう…
「しっかりしないとな…じゃねぇと…パーティーが全滅しちまう…」
リーダーの責任、いや、俺のやるべき事は誰も死なずに生還する事だ
もっと、強くならないとならない、もっと…
side:ラリサ
ウォルカ大丈夫かしら…部屋に戻って行く時、凄く暗い顔してたし…やっぱり、今日の事だよね…
うーん…と悩む、でも、悩んだって仕方ない、偶々相手が悪かった、そう言いたいけど。もしもシオンさんが来なければ全員死でいたかもしれないのだ、絶対に言えるはずがない。
「よし、取り敢えず…会いに行こっかな」
丁度話したい事もあったし
side:アナン
新型の硬さは異様ね…昔の私ならあれを切れる程の武器を作れたけど…
「はぁ…一体何年冒険者をやっているのよ、私は…」
相手は未知の力を持っている可能性を秘めた新型だったのだ、もしもあれが音響魔術よりも凶悪なモノだったら…ゾッとするわね
「…もっと、気を引き締めないと…相手は帝国、それも新型を投入してきている」
コップに入った水を一気に飲み干すと、少し体を動かし今一度、武器錬成を唱え始める
side:ベル
…黙々と机に広げられた羊皮紙メモと取りながら術式を改造して行く
もっと強力な悪霊を扱えるように、もっと強力な魔法が撃てる様に…
理想は一撃、強力かつ短い詠唱で、魔力が枯渇しても回復手段は幾らでもある
今必要なのは危険な存在をいち早く壊滅する事
side:ルイン
シオンと別れて割り当てられた部屋へと戻って来た私は、元の姿に戻りベッドに倒れ込む
変装魔法に関しては使い方を思い出したので今自由に発動できる、少し安心
「…シオン…」
彼が私の頭に触れた時、思はず父を思い出してしまった。恥ずかしいなぁ、もう…
それにしても、私と契約して約2カ月間であそこまで強くなるんだ…凄いと正直に思ってしまう
でも、あの時の雰囲気…なんて言うか死の気配?がして、心臓が止まり掛けた…心配無いって言ってたけど
少しの間ふらついてたし…それに、見た事もない魔法だった…身体能力が異様に高くなってたし強化魔法の類だとは思うけど…
「明日も大丈夫だよね」
言い聞かせるように自然と漏れた声は、誰にも聞こえず空間に消えていった
side:シオン
部屋に戻ると見た事のある人物がベッドに正座をして此方を見ていた
「おや?親睦会は終わったかのう?」
「ただの雑談だ、と言うより普通に出てこれるんだな」
ベッドに座る黒桜に驚きながらも椅子を引いて座る
「くくっ、之ぐらいできぬと不自由での」
「そうか、それで…どうしたんだ?」
「なぁに…初めて実戦で鬼哭に燈雷、燈桜を使ったじゃろ?その感想をな?」
「…刀のままでもよかったんじゃないか?」
「気にするな、それどうじゃ?」
ふむっと腕組んで考える、確かに強力であったが精神力と魔力と言うのだろうか…?力がごっそり抜けていく感覚がした、それと、あの『声』はやはりきつい
「現状だとそう何回もできる事ではないな…間違いなく倒れる」
「じゃろうな、経験を積めばその辺もどうにかなるじゃろ」
「そうなのか?」
「うむ、魔王との契約の効果にあるのかもしれぬな、妾で何かを斬る事に酔っていないようで安心したぞ」
その心配はない、戦闘狂ではないからな
「問題ないさ、そろそろ寝たいのだが?」
「む、もう少し相手をせい」
何でこうなった…
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