第11話 王都ファーベル 冒険者失踪事件5

地を蹴る犬型の機兵、ふっと消えるように瞬間的に肉薄する爪を持つ異形


「相変わらず早いなっ!」


「みたいね!」


迎え撃つ様に前に出る二人、両腕の爪を焔の様に紅い剣を引き抜きガキンッと受け止めながら叫ぶウォルカ、黒と青のラインが入った槍を回転させながら犬型の突撃をいなし、喉に目掛け突きを放つアナン!

犬型は首を捻り回転するように着地すると後ろ足を縮め再び突撃に入ろうとするが…


「っ?!?!?」


犬型は跳び上がろうとした瞬間、地面から出現する骨の杭に体を穿たれる!


「今、…言う必要なかった」


ベルがアナンに合図を来る前に既にアナンの槍は犬型の前頭を貫いていた



side:ウォルカ


「らぁっ!」


ギリギリ!と鍔迫り合いをしていたウォルカだったが隣で犬型が破壊された事に一瞬反応した異形の爪を弾き飛ばす!


「ぶっ潰れろ…!」


グラビティリングの重力操作を発動し振り下ろす剣を加速させる!


異形を爪をクロスさせ受け止めようとするが、受け止めた爪は砕け散り頭部から両断される!

ゆっくりと両断された異形は広がるように倒れ、動かなくなる


「…最後はあいつか?」


砂煙の上がるクレーターから跳び上がると、微動だにしない新型を見据える


「えぇ…今まで何もして来ていないわ…」


包帯で覆った顔で此方見たまま微塵も動かない異形


「…アナン、ラリサの近くに…ベル、サポートは頼んだ…!」


ウォルカの指示に各々が頷き、ウォルカは剣を構えると異形に向かって駆け出す、微動だにしない異形に近づいた瞬間、重力による加速を掛け目の前から姿が消える程の速度で肉薄し剣を叩きつける!


「ッ…!」


振り下ろした剣は異形の頭を捉えるが金属音が響き手が痺れる、素早く距離を離す


「…行って、ヘルゴースト」


ベルの背後から巨大な双斧を両手に持つ骸骨がウォルカの代わりに突撃する、斧が振り下ろされる度に衝撃がウォルカ達を撫でるが、異形は無傷で佇んでいる。再びヘルゴースト斧を振り下ろそうとした瞬間…それは変わった

異形の包帯がなくなった顔は『顔ではなく穴になっている』真っ黒な穴には不気味なほど白い歯が浮いておりゆっくりと開く…


「—――――!」


異形から発せられる音楽がその場を覆う


「…まずい」


「これ…って、讃美歌…?」


「耳を塞げッ!」


ベルが冷や汗を流しならヘルゴーストを盾にする為に前に置こうとするが空気に溶ける様にヘルゴーストは消えていく


「ウィンドプロテクト…!」


ラリサが咄嗟に風の壁を張り、暴風の壁で讃美歌を遮断する!


「いつまで耐えられるかわからないけど…無いよりはマシなはずよ!」


「ちっ…あれが新型か…!」


「歌、危険、思考が溶ける」


ベルがフードの上から頭を押さえながら唸る。どうやら、あれをまともに聞くと廃人確定らしい、しかも物理的なダメージまで付いている


「あいつのあの穴を弓で射抜けないかしら…もしかしら…」


「どのぐらい聞いても大丈夫なんだ…?」


「不明、聞くだけで、ダメかも」


「そう…」


本格的に万事休すか…どうする…?


再び異形に視線を移すと、歌いながらニヤニヤと嗤っている、嘲笑うかの様に挑発する様に更に讃美歌の音量が上がる、同時に音波による衝撃も威力が増しラリサが苦しそうに呻く。異形が動き出す、すらりと振り上げた腕が長く鋭い刃へと変形して行く…狙いはラリサ、気が付いたウォルカがラリサと異形の間に飛び込もうと反応するが僅かに聞いてしまった讃美歌に身体の自由が縛られる


「なっ…!?く、そぉ?!」


「ラリサ逃げなさい!」


「…ッ!」


ベルがアナンが同様に攻撃を防ごうと魔法を武器を割り込ませようとするが麻痺した感覚に陥り動くことができない!


「にげ、れる訳ないでしょ…!ここで避けたら結界が解ける…!」


ラリサ自身も唇と噛みながら自我を保とうと必死に叫ぶ。異形は楽しむように口を歪めながら更に刃を伸ばす、そして…目にも止まらぬ速度で振り下ろされる刃、ラリサは目を瞑り、ウォルカが叫ぶ…


「…え…?」


その中でアナンだけが困惑の声を上げる、振り下ろされたはずの刃が宙を舞い、地面へと落ちる


「…間に合ったようだな…?」


灰黒の光を纏った刀を一振りしながら異形とラリサの間に立っているシオン


「しおん…さん…?」


「少し待っていてくれ、すぐに破壊する」




side:シオン

燈雷を解除しながら、讃美歌を歌う機兵を睨みつける


「シオンさん!その讃美歌を聞いたら…!」


「対策はしてある、大丈夫だ」


ウォルカに軽く手を上げながら答えると安心した表情を見せる


(くくっ、鬼哭を使用している間は妾に溜まっている亡者共の戯言で聞こえぬからのう…その程度の魔法では聞かぬ)


自慢げに話す黒桜を苦笑いしながら構える。讃美歌が利かないと判断したのか、切られた腕を再び刃に変え槍の様に突き出してくる、が。前とは違う、今はルインの祝福を受け、更に鬼哭を使用している。一般の人間程度の速度に感じる突きを無造作に斬り捨てる、異形は更に出力を上げた讃美歌を歌いながら左右の腕でシオンを捉えようとするがその全てを切り払い腕が舞い邪魔をする物が無くなった瞬間一気に踏み込む!


「いい加減黙れ…!」


灰黒の魔力を纏った黒桜が異形の首を飛ばし、胴体を袈裟斬りする!

緑色の血液を断面図から吹き出しながら倒れる異形の顔は最後まで笑っていた


「助かりました…本当に…」


戦闘の後、ラリサが各自の治療をしている最中ウォルカが頭を下げる


「気にするな、数カ月前の俺なら…どうなっていたか分からないしな…」


「…?」


「何でもない、身体の方は大丈夫か?」


っと、今のはまずかったな…


「はい、一応大丈夫です…それにしても、あの異形は一体…」


「新型ね…見た事のないタイプだし…」


異形の遺体を調べていたルインが戻ってくると会話に参加するし緑色の液体が付いた手袋を外しながらふぅ…っと溜め息を吐く


「新型、か…あの讃美歌を使って来るとなると厄介だな…」


「えぇ…聞いた生き物の神経を麻痺、破壊して廃人に変える讃美歌よ」


「…恐ろしいな」


歌を武器に、か…俺のやり方以外の対策を考えないとならないな…


「みんな無事でよかった…でも、何でシオンさんは大丈夫だったんです…?」


ラリサはウォルカの隣に座ると不思議そうに此方を見て来る


「ちょっと、な…俺以外にはまねはできない方法だ…別の方法を考えないとならないな」


方法を濁しながら話を変えると察してくれたのか、そうですね…と変えてくれた


「耳を塞ぐか…防御用の魔法か何か探さないといけないわね…」


アナンとベルも加わり全員で唸る、果たして耳を塞ぐだけで防げるのだろうか…


「考えていても仕方ないわ…取り敢えず、一旦戻りましょう。アーロンに報告して、対策を考えないと…」


ルインの提案に全員が頷く、まずは戻ろう。このまま倉庫に向かうのは良くない

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