第10話 王都ファーベル 冒険者失踪事件4


魔科学と生命の融合…魔科学を核として半永久の生命体となる実験…幾つもの生命を無駄に消費し、やがて一つの結論に行きついた、生命亡き器に核を埋め込み器を兵器として利用する結論に…




東区スラム街を慎重に足を進める、スラム街と言われであり空気が重くピリピリと張り詰めた雰囲気が漂っている…が、この雰囲気は…恐怖?



「ルイン…あまり離れるな…どうも普通じゃない」



「え…?…うん」



ルインを少しだけ引き寄せながら小声で伝えると、こくりと頷き表情を引き締める、物陰から、家の中から、まるで監視されているような視線の中、取引が行われた場所にたどり着く



「城壁の真下…確かに広い場所ではある、秘密の取引には向いていないな…戦闘を行う分には十分だが」



「そうね…ぐねぐねと迷路のような道を縫って歩いて、その先は袋小路…逃げられる確率も低いでしょうね…」



「ああ…」



「さてっと…まずは物的証拠がない見てみましょ。その後に機兵の反応が残ってないか、調べてみるわ」


ルインに頷くと端から調べ始める、どこか侵入できそうな場所…または、侵入路を隠していないか…



「報告は以上です」


書類と本が積まれた机に難しい顔をした男が腕を組みながら目を閉じている。ウォルカが一礼して一歩下ると、溜め息を吐きながらアーロンが目を開ける



「なるほど、ね…帝国との取引が冒険者の間で浸透しているのか…めんどいなぁ」



苦虫を噛み潰したような顔で唸るアーロン



「どうやらそのようです…ギルドを通さない依頼は自己責任で請け負うことが可能です…が、帝国からの依頼となれば話は別…」



「金の力は偉大だねぇ…やれやれ…」



「どうしますか…?」



「引き続きシオン達と調査を続けてくれ、その他は俺がやろう。機兵は発見次第破壊してかまわない」



「了解です、では」




再び一礼した後部屋を後にするウォルカ、椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見上げるアーロンは再び溜息を吐いた



「あ、ウォルカどうだった?」




仲間達が待っているテーブルに近づくとラリサが気が付き、手を振る




「アーロンさんもそろそろ倒れそうかなぁ…仕事溜まってるみたいだし」




「あー…それは災難ね…」




苦笑いするラリサの後ろでベルが道具の数を数えている




「ベルー、報告が終わったからシオンさん達の所にいくよー?」




「ん…」




手早く片付け始めるベル、その手伝いをするアナン




「…うちのパーティー緊張感ないな…」




「いつもの事じゃない?」




どこかに消えそうなウォルカのつぶやきを素早く回収するラリサ、仲は良いのである



「随分手の込んだ隠蔽ね…見付けるのに苦労したわ」




「あまり無理はするなよ…?スラム街に向かって…か」




取引場所で探知魔法を使用し調査を進めると、機兵に似た反応…つまり、魔科学が使用された痕跡がスラム街に伸びている。侵入した機兵か…?だが、どこから…?




「シオン…あそこの建物に入って行ってるみたい。もしかしたら…」




「…帝国兵か機兵がいる可能性があるな…」




家々に囲まれひっそりとそびえる巨大な建物…痕跡はその中に続いている




「ウォルカ達が戻ってくるのを待ってみる?」




「その方が安全だが…問題はどうやって合流するかだな…」




出来れば出入り口を見張っておきたい、だがウォルカ達がここを見つけ出すのには時間がかかるだろう


ルインが何を言い出そうと口を開くが、手を上げて止める




「すまないが、ルインを一人で行かせられないし、ここに置いて行く訳にもいかない」




「ぅ…やっぱりだめ?」




「当たり前だ」




苦笑いしながら何かないかバッグを漁ってみる




…?


「何だ…これ」




つるりとした感触を指先で感じると、その原因を引っ張り出す、片手に収まるぐらいの透明な水晶玉を見つめながら首を傾げる




「入れた覚えがないが…ルイン、わかるか?」




「ん、何?…あ、それって確か…」




そう言うとルインはそっと水晶玉を取り、小さく『ハンナ、起きてる?』と水晶玉に問い掛ける、そうすると…




『はい、起きてます。シオン様が大変なことになりましたか…?』




水晶玉からハンナの声が…




「やっぱり!いつの間にシオンに持たせたの?」




『シオン様が旅の準備をしている時にそっと入れておきました』




「そっと入れられても意味がないのでは…」




『…?怪我はしてないように見えますが』




「あーっと、怪我じゃなくてお願いで呼んだの」




…つまり、この水晶玉はハンナと直接話せる、しかもハンナからはこっちが見えているようだ




『なるほど…それなら私が見ておりますので…それを見やすい所に置いておいてください』




「わかったわ、ありがと」




倉庫の出入り口の正面にある小さな茂みに水晶玉をそっと置いておく




「よし…取引場所に戻ろう、ウォルカ達が来ていればいいが…」



レインから聞いた取引現場に来たがシオンさん達の姿が見当たらない



「ウォルカ、何か聞いてる?」



「いや、何も聞いていないだ…何か見つけたのか…」




「帝国の奴らに見つかったのか、ね?」




アナンが後ろから続きを言う、そう考えられる




「…どうする?周りを探してみる?」




「そうだな…声を出して探すのも良くないかもしれないし…慎重に動こう」




頷き合いながら手分けして探そうとした瞬間




「敵襲、数、…3」




すっと本を広げるベル、その声に反応したのか袋小路に隣接するぼろ屋から影が飛び出す!


ガキンッ!!影は真っ直ぐにベルへと向かうがベルの前、地面から飛び出す様に生えた骨の棘により弾かれる。弾かれた影は唯一の出入り口である道に着地し、更にその両サイドを二つの影が塞ぐように集まる


独特の腐臭が漂い、一定刻みになる金属音…


四足方向の犬の様な機兵、巨大な腕に鋭い爪を持つ人型の機兵、そして、他の二体に比べ特徴的な部分のない機兵



「後者があたりって所か?」



「さぁね、何方にしても調べてる人間を殺しに来たのは確かじゃない?」



「無駄口は後にして頂戴、中央にいる奴…今まで見た事ないわ」



「…」



ウォルカの問いかけにラリサが答え、アナンが槍を手元に出現させつつ注意と警告を出す、ベルは無言で次の呪文の詠唱に入る


冒険者と魔科学の異形の戦闘が始まろうとしていた…

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