あの店員、絶対にピクルス抜きません!(ピクルス好き)

 こういう仕事をするつもりではなかった。


 でも、今はこれがまぎれもなく、私の仕事。これでご飯を食べている。実家の家族には絶対に言えないけど。


 さて、今日も頑張って働こう。





「――気持ちよくさせてくれるんですよね?」


「あ、はい。まあ、そうですね」


「楽しみです!」


「(なんか変な客)」


「それじゃ、お願いします」


「はい……。じゃあ、パンツを」


「パンツは脱ぎません」


「え……。いや、脱いでもらわないと、その、サービスできないんですけど」


「いいんです」


「はあ……。あれですか。なんか、会話だけしたい、みたいなタイプのお客様ですか?(そっちの方が面倒くさいんだけど)」


「違います」


「え。じゃあ、何しにきたんですかあ?」


「私のことをピクルスだと思って、褒めてください」


「はい? え。なんですか。ピクルス?」


「ピクルスです」


「あの、キュウリ漬けたやつですか?」


「そうです。褒めてください」


「ピクルスを褒める?」


「早く! ほら、褒めるんです!」


「え、ええ?」


「さあ! 褒めて!」


「えーっと……きれいな色ですね」


「そう! もっとです!」


「こ、こーんな大きなピクルス、初めて見たあ」


「もっと!」


「……おじさんのピクルス。こんなに太いと入らな――」


「ああ、違う違う! そういうの、いらない! さめるわぁー」


「さめる??」


「妙な連想させるようなこと言わなくていいんです! もっと純粋に、ピクルスとして褒めなさい!」


「ピクルスとして褒める??」


「私は漬物屋でね。あなたのような若い女性に、もっとピクルスを好きになってほしいんですよ! ピクルスを愛してほしいんですよ!」


「はあ……」


「でも、ここにはピクルスはない。だから、私をピクルスだと思って愛しなさい! 褒めなさい! 私、つまりピクルスを気持ちよくさせなさい!」


「あの、ここはそういうサービスの店ではないので……(そもそもそんな店ないけど)」


「あなたは気持ちよくさせるプロだろう!」


「はあ。まあ……」


「私はプロに気持ちよくさせてほしいんですよ! ピクルスをね!」


「(どういう性癖?)」


「さあ! 褒めて、気持ちよくさせて!」


「えっと……よく漬かってますね」


「そう!」


「……つい、食べたくなっちゃう味なんだよねえ」


「いいですよ」


「タピオカより好きかも」


「いい!」


「毎日三食、ピクルスがいいなあ」


「ああ! いい! もっと! もっとください!」


「あのお、ピクルスの写真撮ってもいいですか? インスタに載せたいんで」


「うおお! いい! そんなこと言われたことないよ! いい!」


「あした世界が滅ぶとしたら、最後は、ピクルス食べたいなあ」


「ああ! いい! いいのもってるじゃないか! すごくいい! 私、もう果てたい!」


「(果てるの??)」


「さあ、とどめに最高のやつちょうだい!」


「や、やっぱり、ハンバーガーには欠かせないなあ!」


「ふざけるなあ!!!」


「ええ!?」


「私はね! ハンバーガーが大嫌いなんですよ!」


「(いや、知らんし)」


「ピクルスと聞けばハンバーガーに挟まってるものと、みんなが思っている……。ふざけるな! 私に言わせればね! ハンバーガーはピクルスを脇役に追いやる最悪の食べ物ですよ! あいつはピクルス殺しですよ! ピクルスキラー! ピクルスバスターだ!」


「はあ……」


「私だったらね! ピクルスだけで、並盛の米一杯は食べられますよ!」


「(大盛りいけよ)」


「ハンバーガーにしか需要がないと思いやがって! あなたみたいな人の固定観念のせいで受注が減って、うちの経営が傾いてるんですよ!」


「(たぶん、お前がヤバイやつだからだよ)」


「まったく不愉快です! あーあ! もう少しで、フィニッシュできそうだったのに!」


「フィニッシュ?」


「どんな要求にも答えてくれるって、絶対に最後まで抜いてくれるって評判だからあなたを指名したのに!」


「え、だってピクルスを褒めて抜くって、もう意味がちょっと……」


「プロ失格だあなたは! 期待外れもいいとこですよ! ほうぼうで言いふらしてやりますからね! 誰でもと言いながら、あの女ピクルスのことは抜いてくれないとね!」





 よし。


 決めた。



 実家に帰ろ。





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あの店員、絶対にピクルス抜きません! 関根パン @sekinepan

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