あの店員、絶対にピクルス抜きません!(ピクルス普通)

 公園のベンチから大通りの車の群れを眺めて、もし路上に飛び出して車にばーんって当たったらどうなるんだろ、とかちょっとだけ考えてみた。


 まあ、痛そうだからしないけど。


 そんなこんなでぼーっとしていると、スーツを着た背の高い男が話しかけてきた。


「……すみません。ちょっとお時間ありますか?」


 スカウトだ。


 これスカウトだ、たぶん。大手芸能事務所だ、絶対。世の中にはナンパまがいの方法でスカウトをする人間がいるとはうっすら聞いてたけど、まさかわたしがされるとは。


 うん。悪い気はしないね。


「なに?」


 わたしが聞き返すと、男は言った。


「その、実はぼく――天使なんです」


 スカウトだとしてもナンパだとしても、正直どうかしてるし絶対に間違っている台詞だったんだけど、


 イケメンだから、許した。





 わたしは自称「天使」と一緒に、喫茶店に入った。


「コーラでよかったんですか?」


「だめなの?」


「あ、いえ、だめじゃないです。すみません」


 わたしはストローでコーラを勢いよくすすった。くー、沁みるぜはじけるぜ炭酸。喉にびしびしくるぜ炭酸。


「けほけほっ」


「大丈夫ですか?」


「けほっ。大丈夫です。むせるまでがコーラなんで。へへへへ」


「はあ……」


 天使は、これは変な人に声をかけちゃったな、という顔をちょっとしてた。


「で、天使くんは、わたしに何の用なの?」


 わたしが聞くと、天使は両手で大事そうに持ってたミルクティーのカップを、そっと置いた。女子。


「そもそも、ガチで天使なの?」


「はあ……。信じてもらえるかどうか、わかりませんが……」


 天使はスーツのポケットから、輪投げで使うみたいな輪っかを出した。


 色は白。


「こういうのも持ってます。頭の上に浮かせると目立つんで、しまってますが」


 これで信じると思ってるなら、少なくとも心は天使だ。


「……で、何の用なの?」


「その……、あなたにお願いしたいことがありまして」


 天使はポケットに輪っかをしまいながら、おずおずと話してきた。


「ぼく、天使といっても、今はまだ仮天使でして」


「かりてんし?」


「ええ。まだ、正式な天使じゃないんです」


「仮免みたいなこと?」


「……そんなとこです。だから輪っかも白なんです」


「ふーん」


 ふーんとは言ったものの、そんな相槌で納得して良かったのか微妙だ。


「それで、今、昇進するための試験中なんですが、正天使せいてんしではなくて、堕天使だてんしになりたいと思ってまして」


「堕天使……? 堕ちた天使って書くやつ?」


「はい。試験に受かって、堕ちた天使になりたいんです」


 ややこしい。


 ていうか公衆の面前で大丈夫か、この会話。


 まあ、大丈夫か。都内の喫茶店って変な勧誘の客よくいるし。


 近くのテーブルから、死後の世界がどうとか魂の救済がどうとか聞こえるし。別のテーブルでは、緑の戦士たちが悪から宇宙を守るとか、謎会話しゃべってるし。


 きっとこいつも周りからは、何か怪しい勧誘の人間だと思われてるだろうし、わたしはきっと、そのカモだと思われてるだろう。


 うん。問題なし。


「……堕天使ってさあ。選んでなるようなもんなの?」


 とりあえず、話を合わせるわたし。


「はい。この昇進試験では人間社会に人間として入り込んで、善行ポイントを貯めると正天使の、堕天ポイントを貯めると、堕天使の資格が取れるんです」


「資格制なんだ」


「はい。それで、ぼくは堕天ポイントを貯めているんですが」


 天使はちょっと下を向いた。


「堕天ポイントは、誰かを騙したり、裏切ったり、陥れたり、物を盗んだり……。まあそういう、他者を傷つけるような悪行で貯まるんです」


「殺人は?」


「そそ、そんなひどいことできませんよ!」


 天使は血相を変えてそう言った。


 堕天する気あるのかこいつ。


「ああ、でもそうです。たしかに人殺しは、それだけでポイントうんぬんみたいなシステムに関係なく、すぐにAクラスの堕天使になれるくらいの行為です。さっきお見せした輪が、一発で黒く染まっちゃうと思います」


「じゃあ、手っ取り早いじゃん」


「でも……、ぼくにはとてもそんな残酷なことは……」


 天使はため息をついた。


「それどころか、ちょっとした詐欺みたいなことも、申し訳なくて、できなくて……」


 この会話自体が、周りから見たら詐欺のにおいぷんぷんだけどね。


「で、わたしは何をしたらいいの?」


「はい。ちょっと協力してほしいんです」


「わたしになんか無理矢理エッチなことして、ポイント貯めるみたいな話?」


 強制ワイセツとか、強制セイコウとか、さぞかし堕天ポイント貯まるでしょう。


「やめてくださいよ!」


 天使は顔を真っ赤にした。怒ってるのか恥ずかしいのか、その両方か。


「そんな汚らわしいことはしません。仮にも天使ですよ、ぼくは!」


 堕天する気あるのかこいつ。


「じゃ、ほっとした」


「もう……。ふざけないでください」


 ずっとふざけたことを言っているのはそっちだけどね。


「……その、ぼく、通りの向かいにあるハンバーガーショップでアルバイトをしているのですが」


「天使の仕事じゃないよそれ」


「あなたも、よく買いに来られてますよね?」


 おお。イケメンがわたしをそもそも知ってたとは。計画的ナンパだったのか。ごめん。こっちは印象なかった。イケメンなのにごめん。


「うん。まあ、大学のそばだし」


 演劇サークルの稽古がある時は、買い出しによく行かされている。


 みんなは、たまには牛丼がいいだの、カレーがいいだの言ってくるけど、わたしは頑なにハンバーガーを買っていた。だって、おいしいもん。ハンバーガー。あと、コーラ。


「それで、お願いしたいことなんですが……。ぼく、あなたが店へ注文に来られた時、必ずカウンターで応対しますから――」



「――毎回、ピクルス抜きを注文してほしいんです」



 天使の申し出に、わたしは素直に答えた。


「えー。わたし、ピクルス嫌いじゃないんだけど」


 わりと。


「あ。いえ、それでも、抜くように言ってほしいんです」


「えー」


 そんなに劇的にバーガーの味を左右はしないけど、なんだかんだ入ってないと寂しいと思うんだけどなー、あれは。


「安心してください。抜くように言われたにもかかわらず、ぼくは抜かずに出しますから」


「だめじゃんそれ」


 店員として。


「そうなんです。だめなんですよ」


 天使はなぜか得意げに言った。


「抜くと言ったものを、抜かないんです。つまりこれ、『裏切り』行為なんです」


 はあ、つまり。


「それで、さっきの堕天ポイントってのを稼ごうってわけ?」


「その通りです」


「よくわかんないけど、もっと効率のいい方法あんじゃないの?」


 ピクルス抜きを注文させてピクルスを抜かない、なんてまわりくどいことをするより、もっとスマートな悪行はいくらでもある。


「見てください」


 天使は自分のスマホを取り出して画面を見せてきた。ポイントカードのサイトみたいなつくりのページが映ってる。


「神アプリです」


 広告みたいなこと言う。


「あ、神みたいに便利なアプリってことじゃなくて、神様の作ったアプリって意味です。昇進試験の成績を確認できるんですけど」


「……。天使だの神だの言ってんのに、スマホアプリで管理してんの?」


「便利ですから。人間の文化は、神様も積極的に導入する方針みたいです」


 のぞきこんだ画面の文字は「現在の堕天ポイントは17ポイントです」と出てた。


「実はこの前、ぼく、単なるミスでピクルスを抜き忘れたんですが……」


 普通にだめなやつだった。


「その月だけ、ポイント更新時に10ポイント入ったんです。これ、今までの最高獲得ポイントだったんです」


 よっぽど普段いいやつなんだね。


「なので、これを繰り返せば点数が稼げると思いまして。それで、協力してくれそうな方を探していたんです」


「それがわたし?」


 なにゆえ。


「その、いいひとそうでしたので」


「……わたしが?」


「はい。いつも、大量のハンバーガーを抱えてテイクアウトされているので、きっと周りのみなさんのために率先して動く、働き者の方なんだろうと」


 なんて純粋な心なんだ。まさに天使。


 わたし、一年のぺーぺーだからパシられてるだけなんだけど。


「お願いします。協力してくれたあかつきには、以前に貯めていた善行ポイントを使って、あなたの願いごとを叶えますから」


「そんなことできんの?」


「仮にも天使ですから」


 ふむふむ。話はだいたいわかった。全然わからないような気もするけど。とりあえず、大手芸能事務所のスカウトでもナンパでもなかったのはちょっと残念。


「ふーん。まあ、いいよ」


 わたしはあっさりと言った。


「明日から天使くんのバイトしてるお店で、ピクルス抜いてくれるように言う」


「本当ですか?」


「うん」


「……あの」


 天使は声を落として言った。


「自分で言うのもなんですが、こんな嘘みたいな話、なんで信じてくれるんですか……?」


「嘘なの?」


「違います! 神に誓って!」


 すごい天使っぽいこと言った。


「あの、その……。今までも、誰かに協力をお願いしようとしたことはあるんですが、大半の方は『天使です』と名乗った時点で相手にしてくれなかったので……どうしてあっさり信じてくれたのかと」


 ああ。その疑問は無理もないかもね。


「うん。まあ」


 わたしは、堂々と言った。


「イケメンは正義って、聞いたことあるし」





 それから、わたしはサークルで買い出しを命じられるたびに、ハンバーガーショップへ行って、天使に裏切られてあげた。




「すみませーん! ピクルス抜いてください!」


「あの、先に何の注文か教えてください」




 示し合わせた通り、天使に注文をして出て来たハンバーガーは、ピクルスが抜かれてなかった。こっちはそもそもピクルス食べたいぜ派だから、別に困らない。


 最初は秘密の暗号を送ってるみたいでちょっと楽しさもあったけど、何度か繰り返すうちにだんだん飽きてきた。




「――お抜きなさい、ピクルスを」


「かしこまりました」




「――おまえ、ピクルス、ぬく。わたし、うれしい」


「……かしこまりました」




「――クーピーのスールーを、クーヌーしてもらえます?」


「……ピクルスを抜くでよろしいですか?」




「――あれ? ピクルスのアクセントって、『ピ』クルスでしたっけ? ピ『ク』ルスでしたっけ? ピク『ル』スでしたっけ?」


「……『ピ』クルスをどうすればいいんですか?」


「『抜』いてください」




「――おもにキュウリなどを切ったものに、香辛料で味をつけて酢漬けにした食品を抜いてください」


「……ピクルスですよね?」




「――ピクロスしてください」


「……ピクルスをロストって解釈でいいんですよね?」




「――トイレ貸してください!」


「あちらです」




 てな感じで。


 いろんなバリエーションでピクルス抜き注文をしてイケメンの困り顔を楽しむことで、わたしはなんとかモチベーションを保った。


 一回、たまたま駅で天使に会った時に聞いてみた。


「天使くんは、なんでそこまでして堕天使になりたいの? 普通にいいことして、正天使とかいう、いいもんの方になればいいのに」


 そっちの方が、絶対向いてると思う。


「やっぱ堕天使の方が、カッコいいから?」


「え、そうなんですか……?」


「そうでしょ」


 だって「堕」ってカッコよくね。


「……以前は正天使を目指していたんですが、そちらもうまくいかなくて」


「なんで?」


「善行ポイントが合格点に達する前に、どうしても、誰かの願いを叶えるのに使ってしまうんです。困ってる人を放っておけなくて……」


 もうあんた誰よりも天使らしい天使だよ。


「でも、今回は合格まで堕天ポイントを貯めてみせます。心を鬼にして!」


 堕天使なんだから悪魔にしなよ。





 そんなこんなで、さらっと一ヶ月が過ぎた。


 夜遅く。


 わたしは天使に呼び出されて、最初の公園のベンチに来ていた。


「けほけほ」


「本当に、コーラ好きなんですか?」


「けほけほ、たぶん。けほけほっ」


 天使は、やっぱり変な人だなという顔をしてから言った。


「すみません、こんな時間に外へ呼びだしてしまって……。ここ、神ワイファイの入りが一番いいんです」


「そうなんだ」


 そう言うんだから、そうなんでしょう。


「で、堕天ポイントはどうなったの?」


「はい。本当にありがとうございました」


 天使は頭を下げた。


「ぼくの計算が間違っていなければ、これでCクラスの堕天使資格を取れるくらいのポイントが貯まったはずです。もうすぐ更新時刻なので、一緒に見届けてください」


 嬉しそうだ。


「これからは立派な堕天使になって、恋人同士の仲を引き裂いたり、絶望してる人を飛び降りやすい崖に誘導したりするぞ!」


 ひでえ意気込み。


「……できるかな」


 やっぱり向いてないなこいつ。


「あ、更新されました」


 天使はきらきらした目で、スマホをかなり長い間、見つめていた。


 で、


「……そんな」


 泣きそうな顔に変わった。


「どしたの?」


 天使は無言でスマホの画面を見せてきた。例のアプリが開かれてて、「あなたの現在の堕天ポイントは18ポイントです」と表示されてる。


「たったの……1ポイントしか、増えていません……」


 天使は下を向いた。


「なぜ……毎日、あなたを裏切ったのに……」


 すっかりしょげてしまった天使。しょげてもイケメンだね。


 うーん。


 なんて言ってあげたらいいものか。


 わたしはとりあえず、なんとなくの予想を言った。


「……やらせだったからじゃない?」


「やらせ……?」


「ピクルス抜かれないの、わたし、知ってたわけだし」


 だからたぶん、


「裏切ったことにならなかったんじゃない?」


 まあ、やらせだって悪なんじゃないかって気もしないでもないけど。被害者がいないからそこはいいんでしょう。


 天使は下を向いたまま動かなかった。


「そんな……、神はすべてを見通しておられたのか……」


 そりゃあ、神だものね。


「こうなると、逆に増えた1ポイントが気になるね」


「……それはきっと……100円拾って、交番に届けなかった件ですね……」


 そんなもん、ほぼ悪行じゃないやい。


「これではだめだ……。ぼくは、堕天使にならなきゃいけないのに……」


 天使は頭を抱えた。


「いつまでも、このままじゃだめだ……。何か、もっと悪いことをしなきゃ。僕は変わるんだ……。悪いことをするんだ……」


 あ、これまずいな。思いつめて本当に悪いことしちゃうやつの感じだ。


「そうだ……。ウォシュレット使ったあと、勢いを最強にしておくのはどうだろう……」


 あ、そんなにまずくなかった。


「あとは……つり革を、両手で二つ使ってやるんだ……」


 たしかにマナーは悪い。


「うう……。もっと悪いこと、悪いこと……」


 うーん、こいつ悪いことの才能がないね。


 しょうがない。


 1ヵ月、なんだかんだ楽しませてもらったし。最後に協力してやるか。


「よし、わかった。わたしに任せなさい」


「え?」


 わたしは、自分のカバンをベンチに放りだしたまま立ち上がると、大通りの前の歩道にずかずかと出ていった。


「……何を?」


「へへへへ」


 首を傾げる天使に、わたしはあっけらかんと言った。



「今から車に轢かれるから、見殺しにしなさい」



 天使は時間でも止まったかのような顔で戸惑った。


「え? は、何を?」


「だから、わたしが車に轢かれるから、見殺しにしなさい。わかってるのに止めなかったら、人殺しと同じようなもんでしょ? かなりの悪行でしょ?」


「冗談ですよね?」


 わたしは、近づいてくる車のエンジンの音に耳を澄ませた。


 うん。


 いいタイミング。



「じゃあね。楽しかったよ」



 わたしは、往年のトレンディドラマに出てくるおじさんみたいに、車道へ馬鹿みたいに飛び出してみた。


 もしこれを動画で撮ったりしてネットに上げたりしたら、


 死ぬほど怒られるけど、死ぬほど再生数は伸びそうだ。



 その前に死ぬっぽいけど。









 わたしの上に、イケメンが覆いかぶさっている。


 車がぶつかるギリギリで、わたしの手をつかんで歩道に引き寄せて、そのままゴロゴロっと倒れ込んだのだった。


 さすが、人間じゃないだけあって身体能力高いね。


「バカ野郎! 死にたいのか!」


 ドラマとまったく同じ人みたいな声が車からして、そのまま走り去っていった。いや、一応、ケガとか確認するのがマナーなんじゃないのか。


 まあ、いいけど。


「……ハァ、ハァ……。だ、大丈夫ですか?」


「……天使くん」


 わたしは、わたしに上からかぶさったままでハアハア吐息を漏らしているイケメンに言った。


「……エッチなことして、ポイント稼ぐ気になったの?」


「な……」


 天使はパッと身を離すと叱るように言った。


「ふざけてる場合ですか! なんてことをするんですか! 本当に死んじゃうとこでしたよ!」


「天使くんのためにやったのに」


「バカですか、あなたは! あなたが死んでわたしのためになることなど、あるわけがないでしょう! わたしだけではありません! あなたが死んで誰かのためになることなど、ただの一つもありはしません!」


 天使は怒っている様子だった。


 いいやつだ。


「やっぱり天使くん、堕天使向いてないよ」


 もっと悪いやつがなるべきだ、堕天使には。


「……残念ながら、そうみたいです。……もう、あきらめます……」


 天使はうつむいて言った。


「僕はもう、ずっと仮の天使のままで、このままいつまでも、さまよいながら生きていくんです。それでいいんです」


 わたしは、立ち上がって服についたチリを払いながら言った。


「そういう意味じゃあないよ?」


「え?」


「天使くん、言ってたでしょう? 人を殺したら一気に堕天使になれるくらいポイントが貯まるって。ってことは――」



「――逆に命を助けたら、一発で正天使になれちゃうんじゃないの?」


 

「あ……」


 天使はスーツのポケットから、例の輪っかを出した。それは一ヶ月前のとは違って、金色に輝いていた。


「ほら、めっちゃ正天使感が出てる。これ、金色はそうでしょう?」


「そ、そうですが……」


 天使はわたしに言った。


「ひょっとして、あなたはこれを見越して……?」


「へへへへ」


 こいつの性格なら間違いなく助けるだろうと踏んでた。


 まあ、轢かれたら轢かれたで、別にいいし。


「そんな……なんて無茶を。ぼくがあなたを咄嗟に助けるかどうかなんて、わからないのに」


「わかってたよ。だってほら――イケメンは正義って、聞いたことあるし」


 天使は戸惑った様子で言った。


「それ、前も言ってましたが、ぼく、イケメンではないですよ? 誰にも言われたことないです。ただ、図体がでかいだけで」


「あのね」


 わたしは、ずばり言った。


「イケメンかどうかは、言った人が決めんの!」





 天使は、「全身全霊であなたの願いごとを叶えます、すぐに決められないなら次に会う時までに考えておいてください」とか、言ってた。


 わたしは適当に返事をして別れた。


 うん。


 いいやつだったけど、もう会うこともないかな。



 正天使と堕天使は、接触しちゃいけない決まりだし。



 わたしは、自分のスマホを開いて、神アプリを起動した。そこには「あなたの堕天ポイントは97ポイントです」の文字が表示されてる。


 よしよし。


 順調に堕天ポイントが貯まってる。


 一か月前、堕天使になりたいけど何すんのもめんどくせーなーと思いながら、公園でぼーっとしていた使は、イケメンお人よしバカのライバルに出会い、堕天ポイントを手っ取り早く貯める方法を考えた。


 よし。こいつを騙そう。


 わたしのことを普通の人間だと思わせるのだ。騙し続ければ、ラクショーのヨユーでポイントが貯まるはず。


 作戦は見事成功。


 いやあしかし、仮にも天使とは言え車に轢かれたりしたら、死なないけど痛いは痛いから、ちゃんと助けてくれてよかったよね。イケメンさまさまだ。


 へへへへ。堕天使生活は目前だぜ。残りのポイントは、サークル内カップルの男をたぶらかして、人間関係をドロドロにしたりして貯めるかなー。


 とか考えてたわたしは、あることに気づいた。



 なんか、わたしのカバン、すごい光ってない?



 わたしはカバンを開けて、奥の方に適当に突っ込んであった輪っかを取り出した。憧れの堕天使になったら黒く染まる予定のやつ。


 が、


 それは金色に光っていた。さっきのイケメンお人よしバカのと同じく。


 なんでだ。


 神判定によれば、なんかいいことしたらしいぞわたし?


 うーん。


 堕天使の方が、カッコよかったんだけどなあ……。



 まあ、いっか。




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