第35話

 エレベーターを待っていると更衣室から三輪さんが出て来て、『▽』の明りがふたつ同時に点き「ふたつ来ちゃった」と言うと、「蒼井君。どっちが先に一階に行くか競争しよう」と三輪さんが言って、三輪さんが中央のエレベーターに、僕が左端のエレベーターに乗って『CLOSE』ボタンを押し『1F』のボタンを押した。

「朝っぱらから下らないことしてるな」とエレベーターの中で呟いたのだけれど、耳は隣のエレベーターの音を聞こうとしていて、僕の乗っているエレベーターのランプが『2F』から『1F』に変わったとき、隣から小さな「一階でございます」と言う声が聞こえて、すぐに僕の乗っているエレベーターが「一階でございます」と言った。


―――抽象画家 了

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抽象画家 伊藤 @itokencan

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