二つの壊れ者と廃棄世界
劇薬
切断面と白い羽根
「なんで....こんな......なんで.......ッ」
とある世界の日本と呼ばれる国に存在する町の中。
とある一軒家の一室は、生々しい紅色と吐き気を催すほどに匂う鉄錆びた香りが広がっていた。
その匂いは公園にある鉄棒にも似ていたが....目の前のソレがそんな生易しいモノでは無いと告げている。
信じられない、信じたくない。
これは質の悪い悪夢だ。
そう心の中で否定しながらも、私の瞳はその現実を絶え間無く映し続ける。
今朝まではなんて事ない平凡な部屋だったそこは、
床は赤黒い液体が水溜りの様に広がり、
真っ白な壁紙は朱色で彩られ、兄だったモノがもたれかかる様に身を投げだしている。
家族4人で囲んでいた食卓には父だったモノの頭部が生臭い液体に沈んでいた。
その父だったモノを狂気....とでもいうのだろうか、普段の優しい笑顔を醜いとても見てられない笑みに変え見下ろす母が呟く。
「愛してるから、×したのよ」
そう言う母の目は虚ろで、今ある惨劇では無く過去の....既に消えて無くなった家族風景を見ている様で。
途端目をギラギラとしたものに変えた母は未だ現実を受け止めれずにいる私へ向き直った。
「愛してるから、愛が消える前に....殺したのよ。この人が居なくなる前に....でも私が殺したら心愛も晴翔も離れていくじゃない。
だから晴翔も........」
訳が分からない、ちゃんと説明して。
手に握る包丁を置いて。
言葉はでず、叫び声さえも唯の無音の呼吸と化す。
「大丈夫、心愛も二人と同じ場所に送ってあげるからッ!!」
そう叫びながら母は私に向けて包丁を突き出し、刃は一瞬の僅かな抵抗と共に柔らかな腹部に突き刺さった。
母は包丁を手放し狂ったかの様に笑い出す。
言葉にならない、奇声とも呼べる声を上げながら。
一方刺された私は腹から包丁を生やしたまま倒れ込んでいた。
激痛が走る、体が痙攣する、命の源が流れ出ていく。
私はそんな自分の体を見つめながらも思考は澄んでいた。
だが、決して冷静で正しい判断ができる状態というわけで無く......
理解できない状況と展開、実の母に刺された事実、そして母が殺した理由....
それが思考を狂わせた。
私は痛みなどは無視し腹から生える刃を抜く。
笑い続ける母は立ち上がる私に背を向け、気づかない。
震える身体を倒れる様に、だがしっかりと踏み締めながら母に迫り、
「愛してるか.....ら、私....も、........していいよね....?」
それが愛の証明ならば。
とある世界のとある家族の結末。
その部屋には....四つの死体が残されていた。
だが、中学三年生の少女のものとみられる死体の....頭部が消えていた。
首に綺麗な切断面を残して。
血溜まりの中で、雪の様に白い羽根が血で染まる事なく浮いていた。
二つの壊れ者と廃棄世界 劇薬 @Gekiyaku
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