第2話

「私は秩序を守るUNOの番人! UNOウノマンだッ!!」


 シャキーン! とありがちな決めポーズをとって3人の部屋に乱入したUNOマン。

 戦隊ものは小学生にとって垂涎のスーパーコンテンツである――はずなのだが、3人の表情はどれも、キラキラネームをつける親を見るような、呆れたようなものだった。


「あのさ、今UNOしてるんだけど」

「だからこの私が来たのさ! UNO公式ルールではドロー4の重ね使いは禁止! よってB子ちゃんが4枚ドローするのさ!」


 胸を張ってそう宣言するUNOマン。ヒーローショーなら子供たちが歓喜に咽び泣くところであるが、いささか今の状況は異なっていた。


「なんで私の名前知ってるんですか? 私サイト登録するときは偽名使ってますし。あぁ、ベネッセですか。ベネッセの流出で知ったんですね? はやくそのデータ消してくださいよ。民事で訴えますよ」


 冷たく、浮気した彼氏を突き放すように告げるB子。


「いや、え、B子ちゃん?」


 戸惑うUNOマン。

 そりゃそうだろう。相手は小五のガキなのだから。


「で、UNOマンはなんの用なの? オレたちの楽しい時間を何の根拠を以て邪魔したの?」


「あ、え、UNOの秩序を守るために」


「UNOの秩序ってなんだよ。アホかよ。今時の厨二でも秩序なんて寒いワード使わないわ。ナンセンスナンセンス。もっとスキーム持ってここに来なよ」


「…………」


 豹変した子供たちの様子におっさん――もとい、UNOマンは困惑に極みに達していた。


「僕からも意見があるのですが」


 瓶底メガネをここぞとばかりにクイクイするC太。カチャカチャと結構な騒音を立てていた。


「UNOマンという響きは誰が考えたのですか? どうせ米国の本社でしょうが、日本に来るならせめてもっと語感を考えたらどうですか。五七調が日本語にとって大切だということは知っていますよね。

 UNOマン。響き悪いですよ。せめて文字って『ユーNOマン』とかにすればいいんですよ。どうせあなたのルールはNOとか言うだけの仕事なんですから、そっちの方がダブルミーニングでセンスあると思うんですけどねぇ」


 ここまで続けざまに罵倒されたUNOマン。

 そろそろ子どもだからと抑えていた感情が爆発する。


「ふははははッ! ルールは正義なのさ!! 君たちも色々な法律で守られているように、UNOで遊ぶ以上そのルールに乗っ取ってもらわねばいけないのさ!!!」


 さすがにこれは返せな――。


「それは暴論ですよ。法律は基本的に我々国民を守るものであって、縛り付けるものではありません」


 B子の鞄から、ドデンと零れ落ちる、六法全書。

 UNOマン、ついに震えだした。


「ルールをただ守れだなんて、いつの時代のイデオロギーなんだよ。それにUNOは皆を楽しませるのがプライオリティなはずでしょ。そんなイロジカル通用すると思ってんのかよこのKY(死語)」


「なんでもかんでも自分の枠に押し込もうなんて考え捨ててくださいよ」


 クイッ。


 もはやUNOマン役・中野ヒロシの精神は崩壊した。


「……申し訳、ありませんでした……」


 スーツのまま、ゆっくりと床に膝をつけ、手のひらを膝の前に、腰を折って、頭を下げればほら、ジャパニーズDOGEZA☆の完成。

 こうしてUNOマンは表舞台から姿を消したのだった――。





「ともかく、みんな楽しきゃそれでよし!」

 By A斗・B子・C太&パズー

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ドロー4の重ね使いを正すUNO公式の話 麺田 トマト @tomato-menda

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