ドロー4の重ね使いを正すUNO公式の話

麺田 トマト

第1話

 そこは山梨、富士山の麓にある宿泊施設の一部屋。

 大きなバッグが並び、飛び出た着替えで散らかる六畳間の部屋には、楽しそうにキャッキャとはしゃぐ子供が三人。

 もちろん三人には親のつけた大切な名前がある。


 クラスの人気者のA斗。

 大人しいB子。

 インテリメガネC太だ。別にこいつは空から降ってきたわけでは無いし、そもそも男である。


 三人の通う小学校では、五年生の夏になると体験宿泊をすることになっているのだ。

 そして今はまさに、宿泊体験の華ともいえる、楽しい楽しい部屋でのお遊びタイムを過ごしていた。


「なぁC太。これなに?」


「うん……これはうんこだね」


「こ、これは……?」


「これもうんこ、いや……うんちといったほうがいいかな」


「ぎゃはははっ!! さすがC太だな! ぎゃはははっ!!」


「くすくす」


 バカ笑いするA斗と、誇らしげにメガネをくいっと上げるC太。

 なんだかんだで笑いを耐えきれないB子。

 小学生の会話なんてものは大抵ユーチューバーかゲームかうんこか自慢話だと相場が決まっている。

 果たしてそんな会話を延々と紹介するのも野暮だということで、今回は省略させていただく。


 さて、話題が尽きてきた三人は何か面白いものが無いかと自らのバッグを探していた。

 と、


「おっ! UNOがあるぞ! やろうぜ!」


 A斗が発見したのはUNOのカード。こういう行事には付き物のゲームだ。

 UNOの説明をしろという方は是非とも友達を作って遊びに行くか、検索をかけるかしてほしい。人間努力を怠ってはならない。


「うん、やろう」


「それはいいね。ぜひやろう」


 さてそんなこんなで始まったUNO大会。

 七枚のカードを配り終えたところで順番決めだ。


「「「さいしょはグッじゃんけんぽん!!!」」」


「じ、じゃあB子からね」


 見事独り勝ちを収めたB子は山札をめくる。

 青の5。

 B子はほっと胸を撫で下ろすと、早速赤と黄の5の二枚出しを繰り出す。


「うわ! 2まいとかズルじゃん!」


 すぐに不正を疑うのは小学生とフリーターカードゲーマーの癖だ。


 色の変わった盤面に、C太はスキップを出す。


「うわ! オレのターンとばされた! ズルじゃん!」


 A斗、ねずみ講に騙されたことのある親を持つせいか、随分と疑り深い性格になっていた。

 とまぁそんなこんなでゲームは進み――。


 男子二人が五枚。B子が残り二枚というところで、事件が起きた。


 B子の上がりを警戒したA斗、温存していたカードを切る!


「じゃーん! ドロー4だぁい!!」


 叩きつけたカード、黒地に四枚のカードの書かれたそれは、相手に四枚のドロー&スキップを突きつける悪魔のカード。

 流れを変えるこの動きこそまさにUNOの醍醐味。

 だがしかし――

 B子はふふっと笑みをこぼす。


「B子、まさか……⁉」


「ドロ4がえし! C太は8まいのカードをドローするの!」


 この時のために温存しておいた虎の子ドロ4。

 C太のメガネが曇り、A斗からは余裕が消え去る。

 ここに、勝負は決した――。


 そう思われた、その時。


 ヤツは窓から現れた。

 

「ふははははッ! よい子のみんな? ドロー4の重ね使いは禁止だよ?」


 赤・青・緑・黄・黒。

 UNOを象徴する5色をカラフルに湛えたヒーロースーツに身を包むそいつは白い歯を覗かせて声高らかに叫んだ。

 

「私は秩序を守るUNOの番人! UNOウノマンだッ!!」

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