この先の未来は

 「おい! 何寝ぼけてんだよ。 ゲームしにきたんだろ俺達。 新発売のVRゲーム『ロア・モースト』のβテストプレイヤーに当選したからって、今日ここにきたんじゃないか」


 たつやはまだ頭が混乱しているようで、言われてみればそんな気もする……と、言った具合だった。どうにも腑に落ちないといった様子が見受けられる。


 「本当はさ。 すごい楽しんでたみたいだったから、声かけないで、先に帰ろうかって思ってたんだけど……。 さすがにそりゃあねぇかって、戻ってきた俺が、片付けしてたこのお姉さんにお願いして、強制終了させてもらったんだよ」


 そこには天然パーマに長身、細い体の割に引き締まった筋肉が特徴的な爽やかな男がいた。


 ――お姉さん?どうみてもおネエさんだろ。……って、そういうことか。


 ともきを注意深く観察すると、頭には握りこぶし大のたんこぶが出来ていた。(このおネエさん客だろうと容赦ねぇな)


 「そんでもって、俺を待たせた罰として、強制終了するにも、ちょっときつめの内容で、ログアウトをしてもらったわけだ」そう言った、ともきは満面の笑みを浮かべていた。


 それを見たオネェさんはたつやとともきに対して、説明を挟んだ。


 「このゲームね。 目に入れたレンズから目の神経を辿って、脳の一部の機能を操作することで、仮想現実の世界を体感させるものなの。 現実との境目があいまいになりすぎるから、あまり感受性の強い人には向かないのよ。 リアルすぎる世界のせいで、一時的に記憶の処理が追い付かなくなることもあるくらいだし……。 結局は、こういった形で強制終了すると、すぐに元に戻るから危険はないんだけどね」


 それでも、脱獄がうまくいかず、殺されるのが怖くなったことで、『ロア・モースト』に取り残されていたたつやにとっては、正直なところ、危険がないとは思えなかった。

 

 ほどなくして、帰り支度が整ったたつや達が、その場を後にしようと一歩を踏み出した時、後ろからおネエさんのお別れする声が聞こえた。


 「本日はテストプレイありがとう。 発売したらぜひご購入くださいねぇ」そう言うおネエさんに手を振り、たつや達は会場を後にした。


 その後、日本ではこのゲームが先行発売となったのだが、使用中に目が覚めなくなり、脳死状態に陥るプレイヤーが後を絶たなかったのは言うまでもない。

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ロア・モースト ニコラウス @SantaClaus226

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