外で待っていたのは

 「いつからだ」


 「最初からよー! アンタみたいな穴の閉まりが悪くなったクソジジイなんて相手にするわけないじゃないのー。 今日、この日までたくさん笑わせてもらったわ。 それに、たくさんのお金もありがとうございました」そう言って、インクやその仲間、看守もイオンを見て笑っていた。


 苦しいながらもイオンは一矢報いてやろうと立ち上がり、インクに殴り掛かった。だが、その拳は届かなかった。イオンの手は周りにいた仲間が止めていた。

 

 「俺の拳を止めることもしないのか」


 「その汚い手でワタシに触れないでよ。 気持ち悪い」


 そう言ってその場を去ろうとするインクに対して、どうしても気になっていた一つの疑問をイオンにぶつけた。

 

 「なぜ……なぜ騙す相手が俺だったんだ」


 インクは鼻で笑い、即座に答えた。


 「理由? 死んだらわかるんじゃないのぉー?」


 その言葉を最後に、インクはその場を去った。


 その後、囚人、看守など関係なく、その場にいる全員で一斉に殴る蹴るの暴行がイオンに加えられた。


 そうして、イオンの目からは光が奪われ、周りがよく見えなくなり、耳も聞こえなくなった。


 ――死ぬとはこうも辛く、寂しいものなんだな。

 

 「そうして、イオンという青年は壮絶な死を迎えることで、皮肉にも外に出ることなりました」


 「どこだここは。 なんだ、今の声……。 うわ! なんだ、この音」


 耳障りなブザー音が至近距離から聞こえ、目の前には『GAME OVER』の文字が真っ暗な宙に赤い血文字で浮いて見える。


 「おーい。 たつやー! 終わったぞー! プレイ時間長いよー。 朝九時にきて、今もう夕方の四時だぜー。 いい加減にしてくれよー。 どんだけゲーム音痴なんだよ」


 先ほどの文字やらが視界から消え、辺りが薄っすらと見えてきてはいたが、はっきりとはしない。だが、声の方に目をやると、ぼんやりと男の子の姿が見える。


 「早く、『LVR』外せってー。 俺のことよく見えてないだろ? まだ試作段階のそのレンズじゃ日常的に付けるものじゃないから、目の前が良く見えないとか言ってた気がするし」


 その声に従い、コンタクト型のVRレンズを外すと、視界が開けた。目の前にいた男の子が誰か認識出来ずにいたが、今ははっきりと見えるようになった。

 

 「あれ? ともきじゃん」 間の抜けた声でたつやは答えた。

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