ここまできたのに
――決行当日――
インクの作戦通り、イオンが最初に騒ぎを起こし、看守達が開いた扉を最初に走り抜ける。
イオンは緊張していた。走馬燈のように入所した時から、今までの刑務所内での生活を思い出すと胸が苦しくなった。
決していい環境の場所ではなかったが、刑務所の外にいた時間よりも中にいた時間の方が長くなっていたため、色々と思うところがあった……。だが、それだけが理由ではなかった。
イオンは外に出た後のことを考えていた。
――やっとだ。やっと……結局あいつの力を借りて外に出る事となってしまったが、やっとあいつとの約束を果たせる。
――昼食後、運動場に移動する。
刻々と時間が過ぎる。決行は十三時の予定だ。看守達の入れ替わりの時間。事情を知らない看守達から、仲間となった看守達へと入れ替わる時間だった。
――現在、十二時五十九分三十秒。残り三十秒を切った。胸の高鳴りを感じる。
十秒を切った。
――三、二、一。
「今だー! 行くぞー」と叫び、イオンは駆け出した。予定では、周りの仲間たちが運動場にいる看守達を制圧し、刑務所外へと繋がる道がイオンが通るタイミングで開かれていく……はずだった。
運動場の出口が開かれていない。それどころか、運動場にいた囚人達はイオンを指をさして笑っていた。
「どういうことだ」イオンは気が動転していたが、一つの答えに辿り着いた。
――うらぎ……られたのか……?
過呼吸となり、その場で倒れるイオンに近づいてくる影があった。イオンがその影に気付き、見上げるとそこにはインクが立っていた。
「う、うらぎったのかぁー」イオンは苦しいながらも、声を荒げた。それに対して、インクは半笑いで答えた。
「裏切った? ワタシが? ばかねぇ。 裏切るも何も、始まってすらいないわよ。 ダレも仲間に誘ってないし、計画も何も全部嘘よ。 ドッキリ大成功ーな、ん、て、ねー」
それを聞いたイオンは言葉を失った。
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