代償は

 思わず、イオンは声に出して、聞いていた。


 「え? 助ける理由? んーそれは……あのヒトの『命令』だ、か、ら? まぁ、それを抜きにするなら、アンタには別の形で見返りを頂こうと思っているし……」そう言って、インクはイオンのお尻に魅入っていた。


 「ま、まぁ。 俺で力になれることであれば、力にはなるが……」 


 イオンはお尻を両手で抑え、脱獄で失敗するかもしれないという心配より先に、インクに手伝ってもらえる見返りを心配をしたほうがいいかもしれない不安に駆られていた。


 それからは話は早かった。

 

 インクは手始めに囚人の仲間を集めた。行動を起こして一週間も経たずに、所内にいる半数以上が集まったとインクから報告があった。


 それから、すぐのことだった。イオンはインクから一つの相談が持ち掛けられていた。その内容とはお金が必要とのことだった。それも、多額のお金だった。

 

 インクの話によると、仲が良かった看守を仲間にしようと声をかけていったそうなのだが、流石に仲が良いといっても、犯罪に加担することになるため、渋られたそうだ。

 ところが、お金の話をすると看守が食いついてきたため、一度イオンに相談にきたというのが相談の経緯だった。


 その話を聞いたイオンはお金を用意することにした。長い間、刑務所にいたこともあって、お金を貯めこんでいた。また、今後必要となる可能性があったことから、インクにだけは、ヘソクリの位置を教えておくことにした。


 お金があっても、イオンでは看守達を買収するだけの技量はなかった。それはイオン自身もわかっていた。だからこそ、インクが手掛けたこの買収には支払う価値があると踏んだのだ。


 ――そして、看守も仲間に引き入れることに成功したとインクから報告を受けた。

 

 ここまで、たった二週間で辿り着いた。今まで一人では一向に前に進まなかった夢が一気に動き出していた。


 それから更に一週間が経ったある日。インクとの相談の結果、遂に明日決行することとなった。

 

 最終確認の折、仲間の数は既に全体の八割を超えているとインクから報告を受けた。それに、看守にもうまいこと取り入ったようで、この一週間で運動場から外に出るまでの出入り口に備えている看守全員の買収に成功し、当日は経路は全て開かれることとなったとのことだった。

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