時は満ちた
「それをわかってて、声を掛けてくるなんて、命知らずな奴だな。 この刑務所内では脱獄に失敗すると命まで奪われる可能性があるのは知ってるだろう。 俺は何度となく見てきた。 仲良くしていた奴らが『事故』として処理されていくのを……」
「そうね。 アナタの言う通りだわ。 普通ならね」そう言って、さっきとは比べ物にならないほどの殺気を放つインクの眼光は鋭かった。
「よく聞くのよ。 ワタシはね。 実は送り込まれてきたのよ。 あるヒトにね」
「……まさか、やつが……」
外でイオンを待っているのは一人しかいなかったこともあって、誰の事かすぐにわかった。
「そりゃあそうよね。 すぐに気付くだろうって、あのヒトも言っていたわ」そういうインクは笑顔だったのだが、思い出した様にすぐに呆れた顔に変わり話を続けた。
「あのヒトはこうとも言っていたわ。 『あいつはきっと今も外に出ようと必死になっているはず。 力になってやれ』と……。 それが、このザマだもの。 入所してから、ずーっとワタシもアナタのこと見てたけど、アナタ本当に外に出る気ある?」
「ある! それは間違いなく、ある……。 ただ、怖かったんだ。失敗すると殺される。 俺はたまたま運良く助かっていたが、あの恐怖に駆られるくらいなら、もういっそ何もしたくないって……。 そうしたら、何もできなくなって、気付いたら、信じられないほどの年月が過ぎてしまってたんだ」そう言うイオンの目には涙が溜まっていた。
それを見たインクはイオンの手を握った。
「そう。 時が経った。 アナタがいつからこの刑務所に入っているのかは知らないけど、設立当初よりこの刑務所は拡大し続けた。 その分、囚人の数も増えた。 いや、増えすぎてしまった……それを利用するのよ」
インクの作戦は簡単なものだった。
一日一回ある運動の時間に大勢で騒ぎを起こし、その間に脱獄をする。たくさんの囚人として捕らわれているこの刑務所だからこそ、全員で力を合わせれば、必ず出られる。これを恐れているから、この刑務所はある程度の事には目を瞑っているとのことだ。
一番シンプルで分かりやすい作戦だとイオンも納得していた。ただ、一つだけ、気になっていたことがあった。
――アイツからのお願いだとはいえ、刑務所に服役までして、助けてくれる理由は一体なんなんだ。
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