おかま
インクはまだ若く、三十路前といったところだった。刑務所に入って、日が浅いというのに、仲間がたくさん出来ており、その仲間には看守も含まれていた。
タバコやお酒といった趣向品から、ドラッグといった外でも簡単には手に入りそうにないものまで、手に入れているようだった。
「どこに行っても、中心となるやつにはよく人が集まるものだ」仲間のいないイオンの瞳には、彼が眩しく映っていた。それからは、気付くとインクを目で追うようになっていた。
そんなイオンの熱い眼差しに応え、インクから声をかけてきた。
「こんにちは素敵なオニイさん。ワタシに何か用かしら」
「……聞き間違いか?」
イオンは一瞬戸惑った。
「ま、まさか……おまえ……オカ……」イオンが問いかけたところで、被せ気味にインクはドスの効いた声で答えた。
「あぁ? なによ。 オカマに偏見でもあんの?」
「な、なんでもないです。 わたくしに何か用でしょうか」
「だ、か、ら、用があるのはそっちでしょ。ずーっとワタシのこと見てたの気づいてたんだから……」さっきとは一転、インクは顔を赤くして、恥ずかしそうにしている。
「みてない」
「うそだぁ。 こっちみてたでしょー。 ワタシも気付いてたけど、それ以上にワタシのお友達が、オニイさんがワタシに気があるんじゃないかって言ってるのよー」そういって、インクが送った視線の先を見ると、数人で固まっているむさ苦しい男共が色に例えると黄色い声を上げながら、こっちを見ていた。
その光景を前に、引き気味のイオンを見たインクは、仕方なしに話を切り替えた。
「冗談よ。 さて、本題に入りましょうか」そう言って、インクは口元に笑みを浮かべ、話を続けた。
「ワタシはね……ちゃーんと、アナタがをこっちを見ていた理由をわかってるのよ……」
それを聞いたイオンは気を取り直した。
「そうか、それならさっきの前置きはいらな……」インクの視線が鋭くなり、殺気を放つ気配を感じたイオンは口をつぐんだ。
「話を続けるわよ。 ズ、バ、リ、脱獄でしょ」そう言うとインクはイオンに向かってウインクをした。
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