短編 : 黄昏
Charley
本文
ここはどこだろう。…私のベッドだ。
空模様は。…多分晴れている。
時間は。…まだ薄明かりの時間だから
時計がよく見えない。
目の前にいるのは。…誰だ?
体型から察するに…女だ。
髪が長くて、背が高い。胸が大きく
尻もデカい。
家に同居人は居ない。
ではこの女は本当に誰だ。
じっと目を凝らした。頭がまだ眠っている
ため、脳に映像が送られてもそれを理解するのに時間がかかる。
…この女には、見覚えがある。
ではいつ、どこで見た?
…やっと理解が追いついた。
彼女は、私の絵の中に生きる、
空想上の女だ。
なら何故、彼女がここにいる。
最近描いていなかったから、
怒って出てきたのか。
そもそもこれは夢か。現実か。
中間なんてのはありえない。
必ずどちらかだ。
彼女は微笑み、ベッドの中の私へと
手を伸ばす。
反射的に私は、その手を掴む。
暖かく、柔らかい。確かな感触がある。
思わず私も微笑んだ気がする。
しばらく私達は、手を取り合って見つめた。
どれくらい見つめ合ったかは知らないが、
どれだけ見つめても気が済まない。
不思議なことに、その間は言葉一つ
交わさなかった。
もう少しだけ。このままで居たい。
このまま、私の心を奪い去って欲しい…
…夜明けだ。薄明かりは段々昼の光へと
消えていく。
同時に、彼女の存在も段々と消えていく。
「一緒においでよ。」
それが消えてゆく彼女が発した唯一の言葉。
承認するために声を出そうとしたが、
上手く出せずにそのまま彼女は消えた。
気がつくとまたベッドで横になっていた。
朝の8時1分。今度ははっきりと時計が
見える。
やはり彼女はいない。
夜の向こうには現れてくれなかった。
あれは夢なのか。
しかし、私の手には確かな暖かい感触が
残っている。
もしかしたら現実なのか。
一つ言えるのは、必ずどちらかということ。
中間なんて存在しない。
とにかく彼女は、私の心を奪い去った。
もう元の場所には引き返せやしない程に。
「一緒においでよ。」
真っ赤な嘘を携えて、彼女は空から
舞い降りた。
初めから来れない事など分かりきって
いたのに…。
END
短編 : 黄昏 Charley @DogLover_1980
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