【あとがき――という名の簡単な解説】



 はじめましての方ははじめまして、そうではない方はいつもお世話になっております。

 吹井賢です。


 この『「ちょっと死ぬから、あとよろしく」』は、なんだったかな……。まあ、一筋縄じゃない恋愛の話を作ろうと思って書いた作品だったと思います。うーん、違うかな? ぶっちゃけ、何も深いことを考えずに書いた気がします。すみません。

 登場人物が三人いるのに、誰の名前も出てこないという、凄い掌編ですね。しかも、その内の一人は故人でもう一人はちょっと死んでいるので、実質キャラ一人っていう。語り手が友人とその恋愛について思いを馳せるお話です。一応、解説しておくと、タイトルやテーマ性、最後に“僕”が語っているあれやこれは、“To say goodbye is to die a little“という、有名な格言が下敷きにあります。チャンドラーですね。『長いお別れ』というハードボイルド小説で出てくる台詞なのですが、これをどう訳すかという問いがあって、というのも、”a little“を”少しの間“と取るのか、それとも”die“に掛かっていると解釈するのかで、日本語訳が変わります。つまり、「さよならを言うことは、少しの間、死ぬことだ」か、「さよならを言うことは、少しだけ死ぬことだ」か、という問題です。

 作中、“コイツ”は、彼女である“アイツ”にさよならを言う為に、少しの間、死ぬことを試みます。だから、「ちょっと死ぬから、あとよろしく」。その行動と、チャンドラーの名言を踏まえ、“僕”は、「そのちょっとだけの死を抱えて生きるのが人生なんじゃないのかな」「愛しい誰かに別れを告げて、そしたら心が少し死んで、その死んだ心を抱えて僕らは生きるんだろう」と独白をします。だから、ちゃんとお別れができたなら、後は生きなきゃいけないんだろう、と。

 書いている内に思い出しましたが、多分、僕は、「愛しい人と死に別れた際に、僕達はどうやって生きていけばいいか」を書きたかったんだと思います。当時の僕の答えは、“僕”が言った通りです。ちょっとだけの死を抱えて、生きていく。さよならをした後は、生きなきゃいけない。それが人生だ、と。

 最後に裏話をしてしまうと、この作品の主役、“コイツ”は、『一話のモブが強すぎる!』の主人公である『高瀬壮太』です。元々、『高瀬壮太』というキャラの原型があって、その過去編として、この『「ちょっと死ぬから、あとよろしく」』を書いたんですね。……後付けじゃないですよ? これは、暴力の才に溢れた青年、人の痛みが分からないが故に強い高瀬壮太が、人の心を得るまでの話であり、同時に、その得た心がちょっと死ぬ話です。でも、彼の心には今でも、彼女が生きていると思います。否、彼女と死に別れたことにより、少しだけ死んだ心が、ずっとそこにあると思います。それが今の彼を作っています。


 この作品が、皆様の一時の楽しみになれば、それが作者にとって最高の喜びです。

 それでは、吹井賢でした。


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「ちょっと死ぬから、あとよろしく」 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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