第15話
スタジオ内は異様な腐臭を漂わせていた。
人々は、未だに混乱していた。この状況に対する手立てが思いつかないのだ。
「カズちゃん、どうしよう」
麻衣は落ち着かない様子で眼をグルグル回していた。
「落ち着けよ、どうしようもない。俺たちにできることは何も無い。おとなしくここで座って待ってろ」
「で、でも……」
「いいから」
一樹は、半パニック状態の麻衣を座席に座らせると一樹はゆっくりと牧田の死体に近づく。
その傍らでは潮崎は悲しみの表情を浮かべていた。
目の前で自身が仰ぐ師匠が悲惨な死を迎えたのだから無理も無いだろう。
一樹はそう結論づけた。
「赤羽さん。牧田さんが殺されました。あの炎はきっと魔術に違いありません。そ
して、犯人は西口に決まってます」
潮崎は力強く、震えながら言った。
「魔術だとしたら証拠が無い」
「でも!」
「それに、西口さんが魔術を使えるなんて証拠も無いだろ」
一樹は先ほど、西口と喫煙所で出会った際、彼の魔術を見た。
あれは、やはり手品等では無く魔術だと思っている。
だが、それでも証拠にはならない。
そして、これが魔術による犯行だとしたら警察はそれを立証する事など不可能だ。
現代において、魔術等が実在することなど誰が信じるであろうか。
大方、警察は演出上の事故で片付けるだろう。
警察に取って手品の種を解明する意味など無いからだ。
「直接、西口と話してきます」
一種の興奮状態にある潮崎は息を撒く。
彼の腕を掴み一樹はそれを制止した。
「なぜ止めるんです?」
「仮に西口さんが犯人だとしても証明できないよ。一体、何を話すって言うんだ」
「僕は納得できません」
「じゃあ、俺が行く。アンタは俺にそれを依頼したはずだ」
「……わかりました。お願いします」
潮崎の腕の力が緩む。一樹は彼の腕を放すと未だにその席に座り続ける西口の元へ向かった。西口は、未だに牧田の死体を見つめたまま動かなかった。
その表情からは何を考えているのか皆目検討がつかなかった。
「西口さん」
「ん、あぁ、君か?何かな?」
力なく西口は答えた。
先ほど、話したような勢いは感じられない。
魔力を消費した後の脱力か、それとも只凄惨な事件を目撃して放心状態なのか。
意を決して一樹は直接問いただす。
「西口さん、貴方先ほど俺に見せた炎を出す手品。あれは魔術ですね」
証拠は無い。だが、一樹は確信している。
「……君は何者だ?」
先ほどの表情とは変わり、鋭い視線が一樹に突き刺さる。
「貴方と同じ魔術を知っている者です」
臆せず一樹は答えた。
我ながら何故こんなにも落ち着いていられるのかと疑問には思った。
だが、それは自身の胸の内に閉まっておくことにした。
「隠しても無駄そうだ。あぁ、確かに君に見せたのは魔術だ。だが、俺は牧田を殺してなんかいない。信じないとは思うがね」
案外、正直に答えたなと思った。
だが、それは一樹にとってそれは主題では無い。
「あぁ、俺もアンタがやったなんて確信は無い。俺が知りたいのはその魔術をどこで覚えたか、だ」
「それを今聞くのかね?牧田が殺されたんだぞ?」
「牧田さんが殺されたと?事故の可能性もあるのに?」
「それは……だが、まもなく警察も来るだろう。君にこれを渡しておく。また、後で連絡してくれ」
西口がポケットから取り出したのは折れ曲がった彼の名刺だった。
一樹はそれを受け取るとコートのポケットにしまい込んだ。
それから、西口は無言で立ち上がると近くに居たスタッフと自然に会話を始めてしまった。一樹は再び潮崎の元へと向かう。
「どうでしたか?」
潮崎は西口を睨み付けながら言う。
「話してみた感じだけ言うとかなり怪しさはある。牧田さんが殺されたってはっきりいうんだぜ?」
「やっぱり、アイツが牧田さんを殺したんだ」
潮崎は拳を強く握りしめ歯ぎしりをした。
「ところで、警察はもう来るんだろうか?」
「え?誰かしらが連絡していると思いますけど」
「そうか……」
コートの内ポケットの辺りに手を当て一樹は短く答えた。
警察の取り調べを受けることに抵抗があったからだ。
今も内ポケットに潜んでいる魔銃、ダークハウンド。
これが、見つかってしまえば牧田の死とは別問題に銃刀法違反で逮捕されてしまう。
事件が起きた以上持ち物もチェックされるだろう。
言い逃れのできない状況だ。それだけは絶対に避けなければならない。
だが、今ここでテレビ局を抜け出すことは自殺に等しい。後々、防犯カメラなどチェックされればここに一樹がいたことは証明されてしまう。
一樹に残された選択肢は最初から一つしか無かった。
ポケットに入ったそれを握りしめて彼は決意を固めた。
魔女の住む探偵事務所 藤本翔太郎 @syoutarou0fujimoto
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