夜空の橋

usagi

第1話 夜空の橋

 これは、お星さまのお話です。


 地球からはるか遠い宇宙に地球のように水と緑に溢れた美しい星がありました。その星は、恒星(太陽のような星)からの距離は地球よりも近かったのですが、恒星の温度が低かったので、ちょうど地球と同じように温暖で過ごしやすい環境にありました。その星はα(アルファ)星と呼ばれていました。


 α星は地球の5倍くらい大きく、しかし人口は地球の半分しかなく、星の人たちはみな広大な敷地の中のんびりと穏やかに過ごしていました。歴史は地球よりはるかに古く、科学力は地球とは比べ物にならないくらいに進んでいました。そして、穏やかに過ごしているせいか、創造力にも長けていました。

 

 あるとき、α星の代表者が言いました。


 「私たちの星はとても美しく、すばらしい。でも星というものには寿命があり、いつかは滅びてしまう運命にあります。ですから、今のうちに私たちが住める新しい星を探しておいたほうがいいと思うのです。」

 

 星の代表者の演説を壁テレビで見た人々は、一様にうなずきました。中でも20歳になったばかりの若手科学者だったミフは、ワクワクしながらそれを聞いていました。


 「本日はみなさんに最新の科学力で作り上げた、超光速ロケットをご紹介したいと思います。そして、これからそれに乗って宇宙探索に出ていただく若者をひとりだけ募集したいと思います。」


 ミフは、是非とも参加したいと強く思い、採用試験に参加しました。


 テストには数万人の応募がありました。α星最大のホールにすべての応募者が集結し、体力、知力、性格など様々な分野のテストが1週間繰り広げられました。1次の筆記試験、2次の実技試験、3次のシミュレーション試験などでふるいにかけられました。


 そして、いくつもの難関を乗り越えたミフは、見事合格を果たしました。


 大勢の星の人たちの未来を預かり、ミフを乗せた宇宙船は大歓声のもとで出発しました。宇宙船の中でミフは、生命探索機能のスイッチを入れました。


 すぐに二千光年のところにある星が反応を示しました。

 

 その装置は、一万光年の範囲にある星の中から、温度変化やものの動きを感知し、生命が存在する可能性の高い星へのルートを示す機能を持っていました。


「よし。目標はカメレオン座の真ん中辺りにあるβ(ベータ)星だ。」

 ミフはつぶやき、宇宙船は真っすぐに目標の星へと向かい、超光速で進んで行きました。

 

 朝起きて地球と交信し、食事をして、宇宙学の資料を読み、また寝るという生活を1ヶ月ほど繰り返し、宇宙船はβ星に到着しました。


 ミフはまず、星全体を遠巻きに見ながら探索を始めました。生命はいるか、着陸場所はどこにするか。

 その星は、地球のように青々とした海や、深い緑色をした森に囲まれており、ミフはすぐにでも降り立ちたい衝動にかられました。ですが、調査を何度も繰り返して問題がないと分かってからでないと降りられないことはミフもよく理解していました。


 さらに星の気候や空気の成分が、ミフたちの星とほとんど同じだと確認し、一定の文明を持つ生命の存在も発見しました。ミフは慎重に慎重を重ねて、宇宙船を目立たないところに着陸させました。

 

ミフは、「ふうっ」と一息つきました。


ほどなくして星の代表者らしき人が近づいてきました、、、。


 代表者は、後にこの星の全権を担う王女様でした。人間の見た目ではミフと同じくらいの年齢に見えました。

 

 β星の科学力はα星以上に発達していたので、すぐにミフに敵意がないことが確認でき、迎えにきたということでした。


 彼女はミフの星の話を、目をキラキラと輝かせて聞いてくれました。ミフたちはお互いのことを語り合っているうちに、自分がこの星にやってきた本当の理由(=未来の居住地にすること)も正直に話してしまいました。


 王女様は、その素直で真摯で、勇気のあるミフに対して今まで持ったことのない感情をおぼえました。


 ミフと王女様の交流が2ヶ月ほど続いたころ、α星からミフに対して帰還命令が届きました。

 ミフは名残惜しい気持ちを抑えながら、自分の星に帰ることにしました。β星の人たちは、集まってミフの出発を見送ってくれました。

 

 ミフがβ星を離れてから、β星の幹部たちは「ミフたちとの共存が可能なのかどうか」と議論しました。


 「彼らの目的はこの星への移住である。それは我々のメリットにはならない。一方的にα星が得をするだけだと判断した。β星の周りにバリアを張って、宇宙船が入れないように早急に対策を練るべきだ。」

 β星最大の会議の議長がそのように意見をまとめ、王女様は反論することができませんでした。

そして、その結論は電波を通じて宇宙船で移動中のミフにも伝わりました。 


 それを聞き、ミフは星に戻ってからも大層落ち込んで日々を過ごしました。


 地球の未来を開けなかったことに対して、そしてなによりも二度と王女様に会えなくなってしまうことが悲しくて仕方ありませんでした。

 会いに行こうと思っても、宇宙船を飛ばすにはとてもとてもたくさんのお金がかかり、個人の希望だけで使うことはできません。それに星の周りに張られてたバリアを通過することも不可能でした。

 α星では空間を飛び越える「ワープの方法」が既に開発されていましたが、つながった有機物の上でしか使えず、何もない宇宙空間での応用はできない状況でした。


 すっかり落胆してしまったミフの様子を見て、夜空の星たちは集まって話し合いました。


 「ミフも王女様もあれだけ会いたがっているのに、僕たちで何とかしてあげられないものか。」

 

 地球で星を見上げていた少年が、お母さんに話しかけました。


「ねえ、ママ。ほら、あそこの天の川に橋が架かってるよ。」

「あら、本当にそう見えるわね。まるで左右の大きな星をつなげるために、天の川にある小さな星たちが橋を作っているように見えるわ。なんだかステキね。」

 

 ミフと王女様は、星の橋を使って会えるようになりました。


 それからα星とβ星は、交流に成功したのでしょうか。


 夜空を見上げて「星の橋」がまだ架かっていたとしたら、きっとそれが答えなのでしょう。

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夜空の橋 usagi @unop7035

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