第1話 新たな出会いはロリ・美少女

俺は夢を見ていた。

「夢ってわかる夢なんて、珍しいな」

「これは夢と言うよりかは、幻影に近いものですからね」

その声とともに、俺の目の前に女の人が現れた。よく見ると、背中に白い羽が生えている。なんかかっこいい。

「あなたは今、現実にはありえないであろう出来事に遭遇していますね?」

「それが転生の事なのか、この夢のことなのかはわからないけど、まあそうだな」

「あなたの名前はミズキ、それはこちらの世界でも同じですよね?」

「あー、たしかに。気にはしていなかったけど、名前は同じなんだな」

「ちなみに、苗字は変わっているので気をつけてくださいね」

目の前の女の人は、やたらとペラペラ話す。

「何故お前がそんなことを話すんだ?」

そう疑問を投げかけると、女の人はニコッと笑って、

「そりゃ、私が引き起こしたことですから♪」

「は?」

「私、神様なんで。そこら辺は小指と人差し指でちょちょいと出来ちゃうんですよ」

小指だけじゃないんかい、人差し指も使うんかい、というツッコミは喉の奥に引っ込めて、俺は目の前の女の人に疑問をなげかける。

「じゃあ、俺がこんな状況になってるのも……?」

「私がやりました♪」

「お、お前……」

悪いことをしたはずなのにこのスマイルである。怒るに怒れない……。

「新しい環境に投げ出されることの辛さを、お前はわかってないな?」

「いえいえ、分かってますって!私も、小さい頃に両親のゼウスとアテナを亡くしてますから……。それからは孤児い……孤神院こじんいんで暮らしてましたし……」

「ゼウスとアテナ、既に死んでんのかよ……。てか、孤神院ってなんだよ。わざわざ言い換える程かよ」

「人間と神の違いは、はっきりするべきですからね」

「余計なとこに心配かけんな、てか胸張るな、特に無いくせに」

見ての通り、神様は胸が寂しいらしい。薄着であるため、よりよく分かる。

「あ!!あなたは今、言ってはいけないことを言いましたね?天罰を下します!」

「この状況が天罰だっての」

「そ、それもそうですね……でも……」

神様は控えめな視線を俺に向けると、少しもじもじした様子を見せた。

「なんだよ」

「この状況になったのには理由があってですね……その理由はまだ言えないわけなんですが……」

「理由とか言われたら気になるだろ」

「今は言えないんです!」

「それなら、まあ……いいけど……。てか、お前、なんでわざわざ現れたんだよ」

「あ、そうでした!伝えることがあったんです!」

神様はスカートのポケットをゴソゴソして、1枚の紙を取り出した。あんまりゴソゴソするから、パンツが何回が見えそうになったぞ。一応女なら気をつけろよ。

「これですこれです!えーっと……今後、なるべく自分が元異世界人であるということは、バレないように行動してもらいたい、だそうです!」

「結構大事そうな書類だな、そんなこと忘れるなよ……」

「過去は振り返らない!忘れてたなんてことも思い出さない!私が神様中学で下から3番目の成績だったことなんて……振り返ら……ない……ぐすっ……」

「思いっきり振り返ってんじゃねぇか!泣くなよ!それで俺の服で涙拭くなよ!」

「それ、ダジャレですか?服で拭くって……ぷぷっ」

「ちげぇよ!てか、そのレベルで笑うなよ!てか、泣いてた割に元気そうだなぁ?!」

「というわけで、今後はなるべく自然なミズキで居るようにしてください。よろしくお願いします」

「急に業務的!?いや、まあ、言われたならそうするけど……」

「では、また後ほど会いましょう」

そして、神様はすっと光の中に消えていった。


俺は、ドアをノックする音で目が覚めた。

「ミズキちゃん〜!入るね?」

微かな金属音を立てて開いた扉から現れたのは、ツインテールのロリだった。

「ミズキちゃん、心配したよぉ!学校休むなんて、珍しいね?」

そう言いながらツインテールのロリは俺のいるベッドに腰掛けると、俺の額に手のひらを当てて、うーんと唸り始めた。

「熱があるわけじゃなさそうだけど、気分悪かったなら、休んで正解だったね〜。今日の体育、ミズキちゃんが苦手だって言ってたバレーだったんだよ?本当にしんどかったんだもん!それでさぁ、聞いてよぉ……!」

部屋に入ってくるなり、黙ることを知らないのかと言うほど喋り続ける彼女もまた、俺は知らない。

「え、えっと……」

「ん?ミズキちゃん、どうかした?」

「なんか、ぼーっとしてるみたいでさ……、名前、言ってくれるかな」

「大丈夫?名前くらいなら別にいいけど……」

ツインテールのロリはそう言うと、俺の方に体を向けてベッドの上に正座した。

「私は、神子かみこ 神子みこだよ」

おまけに、紙にまで書いてくれる丁寧さだ。

「神子……そ、そうだったな!やっと頭が回ってきたよ!」

「それはよかった!」

神子は胸の前で手を合わせると、満面の笑みを浮かべた。先程のマシンガントークを思い返してみる限り、神子と俺は同じクラスの可能性が高い。体育が同じという言い方だったもんな。少なくとも同じ学年であることは間違いないだろう。ただ、このロリが同じ学年というのが信じられない。

「ん?ど、どうかした?私の顔になにかついてる?」

神子の顔をじーっと見つめていると、神子が少し戸惑ったように声を出した。

「い、いや、なんでもない」

「体調は悪くないみたいだけど、なんだか、話し方が変わった気がするね」

「えっ…」

「なんていうか、男らしくなった?って、言い方へんだね!ごめんごめん!」

笑いながらそう言う神子を見ながら、俺は自分がこの世界のミズキでは無いことがバレているのではないかと焦っていた。

まあ、心のどこかでは、むしろばらしてしまった方が、対策とか取りやすいんじゃないか、そう思う。でも、言ったところで信じて貰えるとは思えないし、頭のおかしい奴か、ふざけていると思われるの二択だろう。だから、今はなるべく、神様のいう通りにして、この世界のミズキになりきることにしよう。

「さ、最近、そういう漫画を呼んじゃって……憧れってやつかな?ははは…」

「あー、わかるかも!かっこいい系の女の子キャラを見ると、真似したくなっちゃうよねぇ!」

何とかごまかせたようだ。ただ、このロリ、勘が鋭い方らしい。こいつには注意して接した方が良さそうだ。

「ミズキ!大丈夫?!」

勢いよくドアが開かれて、一人の少女が飛び込んできた。

「おわっ!?な、なんだよ……」

「なんだよって……女の子がそんな言葉を使ったらダメでしょ?」

なんだか、世話焼きな女の子らしい。こいつも俺の額に手を当てて、「熱は無いみたいね」と呟いている。どんだけ熱の心配されてんだよ。

とは言え、こっちの女の子もなかなか美人だ。神子がロリかわいいだったのに対し、こちらはクールで綺麗という感じで、背は今の俺と同じくらい、髪は赤いストレートで、シュッと整った顔立ち。腕も足も細くて白くて、the女の子と言った感じだ。

「かわいい……な」

つい口から漏れてしまった。

「きゃ、きゃわいいっ!?///」

赤髪の女の子は顔を真っ赤にすると、それを隠すべく、両手で顔を覆う。そして、少しもじもじしている。

「い、いつもはそんなこと言わないのに……、やっぱりミズキ、ちょ、調子が悪いのね!」

何かを1人で納得して、うんうんと頷く赤髪の女の子。

「じゃあ、ちゃんと寝てるのよ?お水、貰ってくるから!」

赤髪の女の子はそう言うと、すごいスピードで部屋から飛び出して行った。

「あーあ、優華ゆうかちゃん、あーなったらなかなか戻ってこないね」

「戻ってこない?」

「いつもそうでしょ?照れさせちゃうと、あの子、なかなか元に戻らないから……」

そういう事か。少しクールな雰囲気の漂う子だと思ったが、内面はバリバリの女の子なんだな。俺がかわいいなんて言ったものだから、それで照れちゃったと……。性格がわかった上で、名前も覚えとかないとな……優華、だっけ。


10分程すると、やっと優華が帰ってきた。

「町内一周すると、なかなかいい汗かくわね〜」

まさかの照れ隠しで町内一周とは、大胆な嘘である。この町の大きさは知らないが、10分で町内一周は無理があるんじゃないだろうか。いや、もしかしたら優華にはマラソンの才能があるのかもしれないが。

「おかえりなさい、優華ちゃん」

神子はそう言って、優華に向かって微笑む。

「いやぁ、やっぱり神子の笑顔には癒し効果があるわねぇ、やっぱりロリ尊いわぁ」

「ろ、ロリって……」

「ほーら、ここがいいんだろぉ〜?ほれほれ〜♪」

「あぅぅ……や、やめてぇ……」

「…………」

音だけ聞くと不誠実なことをしているように思えるが、優華はただ、神子の脇をこちょばしているだけだ。いわゆる脇こちょこちょと言うやつだな。それに悶える神子の吐息が、見かけによらず艶かしいが、今の俺は女、何も感じるはずがな……な……ない……はずなんだがなぁ。

「ミズキ、そんな顔を真っ赤にしてどうしたの?」

「へ……?」

俺の顔は熱くなっていた。

あれ、なんでだろう……。大人びたお姉ちゃんやお母さんを見ても何も思わなかったのに、ロリたちの戯れを見ると、何故か体が火照る……。


あ、もしかして俺……。


その時、俺の頭の中に4文字の単語が流れた。


俺、『ロリコン』なのか……?


いや、でも、男だった時はどちらかと言うと年上が好きな健全な男子高校生だったはず。ということは、転生の過程で好みまで変わった……?

「大丈夫?寝た方がいいんじゃない?」

優華が心配そうな顔で見つめてくる。その少し後ろから、悶えて少し汗ばんだ額の神子も同じく見つめてくる。

「だ、大丈夫!」

俺は無理やり笑顔を作った。いきなり、ロリと美少女の尊い戯れを目の当たりにして、興奮しました!なんて言えるわけがないし。ここは、無理矢理にでも普通を装って乗り越えよう。

「でも、疲れてるならちゃんと寝てよね?ミズキが学校きてくれないと、楽しさが半減しちゃうんだから」

「う、うん」

なんとまあ、優しい言葉をかけてくれる人だろうか。これは、俺が学校に行くだけで楽しくなると、そう言っているのと同義だろう。

「私も、ミズキちゃんが学校に来てくれたら、嬉しい……ミズキちゃんと一緒だと楽しいから……」

少し控えめに、それでも優しさの伝わる声で、神子も言ってくれる。俺はその言葉に対して力強く頷くと、2人に笑顔を向けた。

それとほぼ同時に、また部屋の扉が開かれた。

「ミズキ、大丈夫?」

「だいじょう……ぶっ!?」

3度目だ。さすがに慣れたと思って大丈夫と答えようとしたのだが、その声の主を見た瞬間、驚きで吹き出してしまった。

「ど、どうしたの!?」

優華が慌てて俺の口の周りを拭いてくれる。あの……それ、ヨダレなんですけど……。拭いてもらっちゃって、なんかすいません……。

心の中で謝りながら、もう一度、ドアの前に立つ人の姿を見る。


どこからどう見ても百合花だ。


「ゆ、百合花……?」

「うん?そうだけど……?まさか、熱のせいで記憶まで飛んじゃった?」

声までそっくりだ。これは間違いなく百合花、俺の血の繋がらない妹だ。おまけに、話し方までそっくりなのだ。この世界にも俺の知っている人物がいるらしい。

「ほら、ミズキのお母さんからおかゆ、届けるように頼まれたの。食べれる?」

「た、食べれるよ」

そう答えると、百合花は俺の膝の上におかゆの乗ったお盆を乗せる。

「…………」

ジー

「…………えっと、みなさん?」

「ミズキ、どうしたの?もしかして、食べれない?」

「そういうことじゃないけど……。ずっと見られてると食べにくいって言うか……」

「そうだ!じゃあ、こうしよ!」

「え?ちょ……」

優華はお盆を取り上げると、おかゆをスプーンですくって、ふーふーし始めた。

「え、何やって……」

「何って、おかゆを冷ましてるのよ?熱いから食べにくいんでしょ?」

「そういう訳じゃ……」

「ほーら、遠慮しないの!あーん!」

「あ、あーん…」

優華に促され、優華によってふーふーされたおかゆを口に含む。

「ん…う、うまい……」

「えへへ〜///」

おかゆはいい具合に冷めていて、ちょうど、美味しく食べられる熱さだった。おまけに、美少女によってふーふーされている。ここは天国ですか?

「わ、私も!ふーふー、あーん……」

神子もそれを真似してあーんとスプーンを近づけてきた。ここまで来れば、もう怖いものは無い。そのおかゆもパクッと一口で食べる。

「うまい!」

「えへへ///」

「私も……ふーふー……あーん♪」

百合花までもふーふーをしてくれている。向こうの世界では口も聞いてくれない百合花が……。涙が出そうだ。

「うまい!」

「ふふっ♪」

その後も俺は、「こいつらの笑顔が見れるなら俺はいくらでもふーふーされますぜ!」と言わんばかりにおかゆを食べ続けた。こんな美少女3人にふーふーあーん♪をして貰えるなんて、俺は前世で一体、どんな善行を詰んだのだろう。


おなかいっぱいになった頃には既に空がオレンジ色になりかけていて、優華が、そろそろ帰ろうと言い始めた。


「じゃあ、また明日学校でね!」

「絶対くるのよ!」

「おう!わかった!」

そう言って優華と神子を見送った。

「百合花、帰らなくていいのか?」

百合花だけはまだ少し話したいことがあると言って残ったのだ。

「1日目、どうでしたか?」

突然、百合花がそう言った。

「1日目……?まさかお前……」

俺が本当のミズキでは無いことがバレたのか、そう思って胸がドキッとした。だが、百合花は首を横に振る。

「心配しないでください。私です、神様です」

そう言って百合花が指を鳴らすと、百合花の姿が消え、夢の中で見た神様が現れた。

「どうです?なかなか演技、うまかったでしょう?」

「え、ど、どういうこと……?」

「つまり、こういうことです♪」

神様が説明してくれた内容を簡単にまとめると、神様は俺の監視役として自ら、この世界の登場人物になった、ということらしい。百合花の姿は、俺の記憶から一番強く根付いている人物をコピーしたもので、俺が馴染みやすいようにその姿にしてくれたらしい。俺も百合花になった神様も、元々この世界には存在しないはずのものだから、周りの人達には神様の力で、元から存在したように思わせているらしい。

なんだか、神様が悪者みたいに聞こえるのは、俺だけだろうか。

「まあ、とにかく、これからの生活では私も傍にいるので、安心してください!呼べば大抵は駆けつけますから!あ、トイレの時やお風呂の時は無理ですけどね!ではまた明日!」

神様はあはは!と笑って、部屋から出ていった。


この世界に来てから一日が経った。これが現実だということはわかっているが、どうも現実味のない話である。性別も、家も、家族も、世界までもが変わってしまった。

だが、俺はまだ、もっと大きな変化が起きていることに、気づいていなかった。

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俺は気がつくと、見知らぬ部屋のベットの上にいた。 プル・メープル @PURUMEPURU

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